第393話 【一日署長】ちゃちゃっとお昼
【これまでのあらすじ】
わかめちゃんだいにんき!!
――――――――――――――――――――
「OK、午前中の業務終了っすね」
「やっぱさすがだよなおれら」
午前中の業務……任命式と署内あいさつとポスター撮影と地域のパトロールは、なにごともなくあっさりと終了した。
……いや、この一言だけで終わらせるとさすがに怒られそうなので、あとで思い出せるように軽く纏めとこうと思う。おるすばん組にもお話ししてあげたいしな。
最初の業務である『任命式』は予想通りの……いや、正直予想以上のカメラの数にほんの一瞬面食らったが、そこはちゃんと『お仕事できるモード』の局長で乗り切った。
愛嬌を振り撒きながら堂々とカメラの前に姿を現し、
事前に行わせて頂いたリハーサルの通り、ビシッと敬礼をキメることができた。多くのカメラやフラッシュを浴びても動じない『一日署長』の姿は、恐らくとてもカッコいいと思う。
カッコいい制服(※ただし特注SSサイズ)を完璧に着こなしたおれのカッコいい敬礼は、きっと多くの人に『カッコいい!』と褒めてもらえることだろう。なぜならカッコいいので。
そんな任命式を終えたら、署長室を出たそのままの足で『署内あいさつ』へと移る。
おまわりさんたちがお仕事している大部屋(オフィスデスクや書類棚や事務機器がいっぱいある)へと招き入れられ、大勢のおまわりさんに注目を浴びて内心ビビり散らしながらも表面上はにこやかな笑みを浮かべ、恐らくは部長とか課長とか偉いひとのデスク…………の横にこれみよがしに設置された『お立ち台』へと案内される。いや、確かにおれちっちゃいけどさ。
気を取り直して、署員の皆様へとあいさつさせていただく。まぁざっと纏めると『わたしが一日署長です。皆さんいつもありがとう。今日はよろしくお願いします』といった感じだ。対内的なものなのでカメラも少なく、正直とても助かった。
その後は……まぁ、『ポスター撮影』が待ち受けていたわけだけど…………うん、ポスターの撮影をね、いっぱいされまして。ほんとうにアレぜんぶポスター用なんだろうな。まさかおまわりさんがうそつかないよな。
……いや、うん。もういいよね……おれはよくがんばったよ。
予定よりも押してしまった前行程を経て、いよいよ『地域の防犯パトロール』へと移る。
……とはいえアナウンスとか横断幕の保持とかは取り巻きのおまわりさんズが全部やってくれるので、局長……もとい、署長であるおれは周囲に愛想を振り撒いてればいいだけだ。完全にいいご身分である。
幸運にも天候に恵まれ、ぽかぽか暖かいお昼どき。地域広報誌かなにかで聞き付けてくれたのだろうか、大勢とまではいかずとも『そこそこ』の数の浪越市民の皆様が見に来てくれている。
おまわりさんが『交通安全』とか『飲酒運転撲滅』とか『安全運転』に関してのアナウンスを流しながら、広告入りのポケットティッシュを配っていく……様子を眺めながら、おれは暢気に手を振りながら『こんにちはー』『こんにちはー』などとあいさつをしていくわけだ。
それにしても……やはりおれの見た目が
まぁそこは、他人の感想に対してとやかく言える立場じゃないので仕方ないとして……そんなやきもきを抱えたまま、しかし求められるお仕事はきちんとこなしつつ、おれ(を含む大名行列)はおよそ一時間弱(こまめに小休憩をいただきながら)浪越中央署の周囲を練り歩いていった。
なお件のポケットティッシュね。あれに入ってた『交通安全』の広告、おれの写真入ってたんだわ。巫女装束の。……写真の
……そういえば、写真の幾らかは宣伝に使わせてもらうかも、とかいう契約だったっけ。言ってた気がするわあの神様。
「とりま昼メシ食っちまいましょう」
「OK把握」
午前中のスケジュールを無事に消化し終え、署長室……ではなくそのすぐ近くの控え室へと引っ込んだおれたち。対外的にはマネージャーということになっているモリアキが貰ってきてくれたお弁当の蓋を開き、割り箸を取り出して『いただきます』とあいさつをする。
お昼休みを終えたら、午後も『一日署長』としてのスケジュールが詰まっている。とはいえ業務の半分を終えたので気持ちも楽になってきたし、勝手のほうもわかってきた。たぶん大丈夫だろう。
午後のお仕事は……交通安全ポスターコンクールの表彰式と、記者会見。例によって筋書きはほぼほぼ用意してくれているので問題ないだろうけど、油断は禁物だ。
「そいえば交通安全のポスターって、アレ小学生対象で公募したらしいっすよ。背丈も同じくらいでしょうし、良かったっすね」
「なんでその情報今おれに伝えた? 良かったって何? どんな意図がある? 言ってみ? おん?」
「ちょ、わかめちゃん!? 口調! おくちわるくてよ!?」
「いやさすがに盗聴とか無いだろ。警察署の応接室ぞ。なごやがわ署長が重要なお話とかする場ぞ?」
「音漏れのほうも【
「泣き叫びはしないけど……ありがとラニ」
まぁ、モリアキの言わんとしていることもわからんでもない。なにせこの身体『
つまりは第三者的な視点で例の表彰式を見ると……ちょうど同年代に見えてしまうわけだな、これが。
だからといって、どうすることもできないだろう。せいぜいが『お立ち台』を用意してもらうくらいしか無いだろうし、そのことで今さら不平不満を言ったところで何も変わらない。
「いやまあ、身長は別にどうでも良くてですね……」
「んん? じゃあ何ウォォオ!? ……あっ、たまごやきね。びっくりした、いきなりお弁当ダイブしないでよラニちゃんおしり丸見えじゃん」
「んへへへー」
「……まあ、それこそオレらにはどうしようも無いんすけど…………性癖、歪めちまいそうだな、って」
「………………あぁー……」
……そっか。もし受賞者に男子児童がいて、おれが愛嬌たっぷりに表彰してあげちゃった場合……向こうからはふつうに、同年代の女の子として見えてしまうのか。
いやまぁ、惚れた腫れたの恋愛対象まではいかずとも、小学生のうちから『エルフ属性』に目覚めさせてしまったら、それはそれでなんというか申し訳ない気がする。早々に性癖をこじらせてしまった者の末路は、遺憾ながら大変よく知っているつもりだ。
ナルシストのつもりは無い……と言いたいところだが、残念なことにおれこと『わかめちゃん』は非常にかわいい。健全な少年少女の将来に悪い影響を与えてしまわないか、そこんところが不安じゃないと言えば嘘になる。
「…………でもそれこそおれたちにはどうしようもねーって。今から『表彰式やっぱ嫌ですー』とかいえねーもん。しかも理由が『受賞者の性癖を歪めてしまうかもしれないから』とか
「まぁ実際もうキャンセルは無理でしょうし……なるようになるしかないでしょうね。
「だよなぁー……前途有望な少年少女にぁ悪いが、おれの可愛さに耐えてもらうしかねーな!!」
「手加減してあげて下さいね……」
まぁ、ふつうに考えれば『惚れられちゃうかもしれない!』なんて……痛々しいにも程がある思考だろう。
おれはモチロン冗談半分(まぁ本気も半分)だったし、言い出したモリアキにしてもおれの緊張をほぐそうと、からかうために言い始めたことだろう。
しかし、まぁ……それがよりにもよって、あんなことになろうとは。
いやぁー…………フラグって、こわいね。
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