第374話 【襲撃翌朝】朝ごはん会戦



ゆうべは おたのしみ でしたね



――――――――――――――――――――




「おはようございまー…………うわ、ひでぇ」


「わわわわうわうわう!? み、みなさま!? 大丈夫でございますか!?」


「うーーん……」


「うぅーーん……」


「ぬぐぅーー……」


「あっダメそうですね、これはね」



 おれが騙し討ちに近い形で罰ゲーム――いずれ着ることを確約させられたコスプレ衣装――を決定させられ、そのままお酒を入れて『腹を割って話そう』配信を敢行した……その翌朝。

 諸事情により、急遽男性陣の専用寝室と化していたハイベース号の中は……なんというか、死屍累々な感じだった。


 ハデスさまと、ウィルムさんと、刀郷とーごーさん(のなかのひと……もうそろそろいっかな、この注釈)のお三方。どうやら配信を終了して場所を移した後も酒盛りを続けていたらしく、テーブルの上やギャレーカウンターにはお酒の空き缶が散在している。



「はいはいはい。お兄さんたち朝ですよー。二月三日の月曜日、朝七時半ですよー。可愛いかわいい若芽ちゃんと霧衣きりえちゃんのモーニングコールですよー」


「「「うぅーーーーん……」」」


「アッ本格的にダメそうですね」


「はわわわわわわうわうわうわう」



 いったい何時まで騒いでいたのやら……まぁそのへんはおしり丸出しで爆睡しているイタズラ妖精に問い質すとして。

 まるでゾンビのような呻き声を上げている男性陣、その様子は非常に身に覚えのある光景……まぁ要するに、完全な二日酔いってやつだろう。頭痛とかめまいとか吐き気とかそのへんが大変なことになってると思われる。……つらいよね。



「じゃあ……しかたない、酔っぱらいどもはわたしがどうにか叩き起こしますので……霧衣ちゃんは朝ごはんの準備、お願いできますか? 天繰てぐりさんとなつめちゃんにも手伝ってもらって」


「は、はいっ! 承知いたしてございまする!」


「さて……まぁしょうがないですよね。非常事態ですもん。……【快気リュクレイス】」


「「「アァーーーーーー」」」



 身体の中から沸き上がる『心地よさ』に、泥酔患者三人がダメそうな呻き声を上げるが……ともあれこれで二日酔いはやっつけられたと思うので、しばらくすれば起き上がれるようになるだろう。

 おれはセンシティブな格好の相棒をつまみ上げ、はねを畳んでから愛用の今治タオルでぐるぐる巻きにしておく。これならばおしりやおまたが男性陣に見えてしまう心配もない。


 見せちゃいけないものを一通り隠し終えたことを確認し、おれは改めてモーニングコールを試みる。……大サービスだぞ。



「はいじゃあ改めまして。みなさーんあさですよー」


「「「うーーーーぃ」」」


「おやおやぁ? あいさつがきこえないぞぉー。もう一回いきますよー……おはよーございまーす!」


「「「おはようございまぁぁす!」」」


「はいっ! よくできました! …………お身体不調はありませんか? わかめちゃんのよく効く『おまじない』させて頂いたので、さっきよりはマシになったかと」


「ぉぅ…………ほんとだ。マジかよ」


「おぉ……すごい」


「あー……マジっすか。頭痛消えましたわ」


「はいっ。ようござんすね。……すみません、一階の洗面所は女性陣が使ってるので……洗顔はハイベースのギャレーか、外水洗で我慢していただけますか……すみません」


「いやいやいや。問題ねぇわ。……あんがとな」


「…………えへへ」




 ……うん。男性陣はこれで大丈夫そうだ。

 やむにやまれぬ事情により、客間である和室を追い出されてしまった彼らであったが……掛け布団を持ち込んだお陰もあってか、寝苦しさを感じさせずに済んだようだ。

 準備ができたらダイニングに来てもらうように言ってあるので、遠からず朝ごはんに来てくれることだろう。



 …………というわけで。


 あとの問題は……こっちだ。







「おかえり、若芽ちゃん。……ごめんね、うちの身内が」


「いえいえいえ。ギャップ萌えってわけじゃないですけど……嬉しいですよ。普段と違った側面が見られて」


「そう言って貰えると……うん。…………あぁもう、四人とも朝ズボラだからなぁ」



 おれが玄関からオウチに戻ったとき、ちょうど洗面所から道振ちふりさんが姿を現し、申し訳なさそうに口を開く。

 女性陣……というよりは『にじキャラ』さんたちのなかで唯一朝ちゃんと起きられた彼女は、既に洗顔と身だしなみを整え終えたようだ。


 ……まあ、彼女の言葉から解っていただけるかと思うんだけど……道振ちふりさん以外の女性陣はね、あれね。だめだよ。ちょっと映せないね。



「……わたしは、まぁその……なんていうか、えっと……よそ者なので、っていいますか……」


「あぁーごめんごめんごめん、大丈夫。身内の不始末だから。……さすがにね、パンツ丸出しのおねーさんがたを起こさせたりはしないから。私がちゃんと責任持って叩き起こすから」


「……すみません、さすがには……びっくりしました」


「だよねぇ……ごめんねぇ……」



 元はといえば……昨晩の配信中、酒気と眠気にやられて道振ちふりさんとティーさまとくろさんがダウン、急遽隣の部屋に用意したお布団に緊急避難させ、そこを女子部屋に改編した経緯がある。

 その後配信終了時まで粘った(※ただしいいだめな感じに出来上がってた)うにさんとちとせさんもお布団にダウンし、眠る場所を奪われた男性陣はハイベース号に避難、ラニに唆されて二次会をおっ始めた……という形だ。


 まぁつまり、こっちもこっちでなかなか混沌とした有り様だったわけだな。

 朝おれが扉トントンしてみても反応したのは道振ちふりさんだけだったし……扉開けてもらって道振ちふりさんに挨拶して、まだ薄暗い部屋の中覗き込んだら――まぁ、誰のかは解らなかったけど――パンツ丸出しのおしりがこっち向いてたんだもん。


 さすがに嫁入り前のお嬢さんの下着姿を拝むわけにはいくまいと、こっちの部屋のことは道振ちふりさんに丸投げして、おれはお台所から様子を見に来てくれた霧衣きりえちゃんと一緒に、はなれハイベースの様子を見に行ってきた……というわけだな。


 ……うん、お嬢さんがたの寝起き姿は、男のおれには少々刺激が強すぎる。

 ここは道振ちふりさんに全てを任せて、おれは戦略的撤退とさせていただこう。わはは。




「あっ! わかめさま! ごはんが炊けたようでございまする!」


「……お早う御座います、御屋形様」


「む……戻られたか、家主殿よ」


「おはようございます、天繰てぐりさん、なつめちゃん。霧衣きりえちゃんは……大丈夫そう?」


「はいっ! 肉じゃがはいい具合に『しみしみ』でございまする。出汁だしきは念のためたくさんお作りいたしましたが、お出汁だしはまだございますゆえ、不足とあらばまだまだご用意できまする」


「家主殿、家主殿。今朝のみそしるは我輩が味見をしたのだぞ。葱と豆腐も我輩が刻んだのだぞ」


「……腸詰の方は、僭越ながら手前が。頃合良く焼けたと自負しております」


「ありがとうございます……! もうみんな最高かな!」



 ダイニングテーブルと、アウトドア用折り畳みテーブルが二つ。……ちょっと見た目はカッコ悪いけど、広さのほうは充分だろう。

 簡素な造りの折り畳みテーブルは、ちょっと左右にゆらゆらするが、脚と脚を紐でガッチリ結べば問題ない。


 テーブルにおかずを運んで、お茶碗……はさすがに人数分は無いので、お客さんは茶碗代わりのペーパーボウルと、あと割り箸で我慢していただく。

 これまたお椀代わりのペーパーボウルにお味噌汁をよそい、ぎっしり炊いたごはんを炊飯器ごとテーブルに運び、しゃもじを用意して準備万端。


 おかずは鍋いっぱいの肉じゃがと、ずらりと並んだ出汁巻き玉子と、程よく焼き色がついたウィンナー。

 朝食ブッフェと呼べるほど大層なものじゃないけど……お腹を満たすことくらいは出来るはずだ。




「おはようございまーすお邪魔しまーす。……いやーすまん、ちっと手間取っ」


「待って、めっっちゃいい匂いするんすけど! あっお早うございます皆さ」


「わかめちゃんごめんね、車の鍵。ありがとう。……いやー、貴重な経験でき」




「はいっ! お早うございます、皆さま。早速ごはんをよそわせて頂きまする」


「のうのうお客人よ。今朝のみそしるは我輩が味見をしたのだぞ。葱と豆腐も切ったのだぞ」


「……お早うございます、御客様。……朝餉の支度は整って居ります」




「「「うわーーーー!! メイドさんだァーーーー!!」」」



「朝っぱらからやっっかましいわ野郎共わぁーー!? メイドさんだァーーーー!!」



「どうしたんみんな、そんな大騒ぎしわぁーー!? メイドさんじゃーーーー!!?」




 『はて?』とでも言いたげに可愛らしく首をかしげる、この大騒ぎの元凶であるメイドさんこと天繰てぐりさん。

 昨日の公開処刑配信のとき、ハデスさまが『メイド服好き』ということを聞き、『これはもしや』と期待しながら機を窺っていたのだが……思っていた以上のリアクションを引き出すことができたので、おれは満足だ。


 副次的な効果として……皆さんの絶叫によって、寝起きぽやぽや系女子ふたりも目を覚ましたらしい。

 くろさんは五割増しでンニュンニュしてるし、ちとせさんは普段のおくちわるさは鳴りを潜めてムニャムニャしてる。かわいいかな。



 岩波市の山中。今まではその広さを持て余していた我が家で執り行われた、お泊まり会二日目の朝。


 賑やかな一日は……こうして騒動と共に幕を開けた。


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