第356話 【定期配信】お披露目なつめちゃん



ヘィリィこんにちは! 親愛なる人間種の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』定例活動報告放送、通称『生わかめ』のお時間がやって参りました! 進行をつとめますのはわたくし、局長の木乃きの若芽わかめと……」


「こ、こんばんわ! しんこう、あしすたんと、の……きりえ、です!」


「はいかわいい。きょうも霧衣きりえちゃんはかわいい。かわいい霧衣きりえちゃん分を摂取できるのは『のわめでぃあ』だけ! そこんとこヨロシクお願いします!」


「わ、わうぅぅぅぅ」



『へいりぃ!!』『【¥10,000】待ってた』『【¥4,545】めそめそのわちゃん』『はじまた』『ヘィリィ!』『【$30.25】Heilley!!』『ヘィリィのおじかん!!』『ヘイリー!!』『【¥2,828】開幕ノロケたすかる』『It's the best. I really like this couple.』『【¥10,100】のわきりてぇてぇ』『【¥3,000】きりえちゃんおやつ代』『らにちゃんはおらんのか?』『【$136.5】What two precious people, I'm so lucky to be alive.』『【¥30,000】たび部編集がんばれ』



「ま、まってまってまって、まって! うれしいけどまって! 待ってください! いきなりすぱちゃ多くないですか!? ソレ以上は危険ですよ!!」


「期待の現れ、ってやつじゃん? はいはーいボクもいるよー。カメラ係なのでソッチいけないけどラニちゃんだよー」


「き、きりえで、ございますっ!」


「かわいいが」「すきだが」


「わうぅー…………!!」


「いや、でも……本当にありがとうございます。みなさんの様々なご支援のおかげで、わたしたちもこうして美味しいごはんが頂けてます。うれしいけど、ほんとむりしないで」



 いきなりになるとは思わなかったが、開幕すぱちゃラッシュを披露してくれた視聴者さんたちに、お礼の言葉を添えてお名前を読み上げさせていただく。

 大規模リアルイベントを終えて、視聴者さんたちを巻き込んでの新企画撮影を終えて……二つの大きな山場を乗り越えて初となる生配信、通称『生わかめ』なのだ。……もう『生わかめ』でいいよね。


 いろいろとお伝えしたいこともあるし、披露したいこともあるし……楽しんでもらいたいことだって、ある。

 おれたちの活動やできごとを皆さんにお伝えして、もっと来週を楽しみにしていてもらえるように――もう一週間を生きる気力を漲らせてもらえるように――するためには、定期的な配信は欠かせないのだ。



「……っと。以上、開幕すぱちゃありがとうございます。……勝手ですが、これ以降はちゃんとお返事できる保証は無いです。最後に纏めて、っていう形になっちゃいますので、お得感が無くなっちゃうので……も、もったいないので……むりしないで、くださいね?」


「……はいそれじゃあ、期待に応えるためにもずこばこ進めていこうね。本日のお品書き、キリちゃんおねがいね」


「は、はいっ! ほんじつの、めにう、ですっ! ひとつめ、『きりえのおともだち』。ふたつめ、『みんなであそぼう』。みっつめ、『だいじなおしらせ』……以上のみっつ、でございます!」



 ラニちゃんがカメラをズームさせ、ボードに纏められた『本日のお品書き』を映してくれる。

 コメント欄に溢れる『きりえちゃんかわいい』の文字列に紛れて……無理しないでねって言ったのに『すぱちゃ』を送ってくれるひとや、お品書きの内容についていろいろと考察してくれるひとの姿が見受けられる。いい感じだ。

 時間通りに配信を終えられるよう、テキパキキビキビと動かねばならない。というわけでさっそくだが、お品書きひとつめ……いってみようか!





「……はい。まず最初に……先日は『たび部』の活動にご協力いただき、ありがとうございました。伊逗半島南部にお住まいの視聴者さん、そして応援してくださった全国の視聴者さん……お陰さまでわれわれ『たび部』、大変有意義な活動をすることができました」


「あ、ありがとうございましたっ!」


「そこでですね……あれは、二十七日の夜でしたね。わたしがSNSつぶやいたーに上げさせていただいた写真のなかに、ひとつ『気になるもの』が……いえ、もう言っちゃいましょう。『謎の女の子』が写っていたと思います。……霧衣きりえちゃんが母親ママの顔で膝枕してた子ですね。写真でるかな……」


「…………っ!? わ、わかめさまぁ!!?」


「あーそういえば隠し撮りしてたね。ちょっとまってね…………あっ出た出た。いっぱい出」


「さてさてさて! われわれ『たび部』と行動を共にする謎の女の子! いったい何者なのでしょうか! 気になりますよねえ!!」



『きりえちゃん悲鳴たすかる』『きりえちゃん……』『「わかめさまぁ↑!?」定期』『らにちゃんじゃないのか』『おいおいひでーぞこの百歳児wwww』『まさかの新メンバー?』『らにちゃん「いっぱい出たね(はーと」』『盗撮魔の多い放送局ですね?』『ロリ多すぎん?』『【$98.75】I'm just glad my favorite talent is wearing a YUKATA.XD』『わかめちゃ……ここぞとばかりに笑顔で……』



 し、しょうがないじゃん。きりえちゃんがあんな表情見せるのがわるいんだよ(※わるくありません)。


 まあでも確かに、認識の不一致があったことは認めよう。

 おれはあのとき霧衣きりえちゃんへ『写真(SNSつぶやいたーに)上げてもいい?』とお伺いを立てたつもりだったのだが……とうの霧衣きりえちゃんはというと、どうやら『(知人に)あげて(=譲渡して・披露して)もいい?』というニュアンスで解釈していたみたいだな。

 慈愛に満ちた笑みで『はいっ。構いませぬ』っていわれたもんだから、おじさん勘違いしちゃった。ごめんね。……今度おねがいを聞いてあげるとしよう。


 というわけで、不幸な事故こそあったものの……隠し撮り霧衣きりえちゃんのおしゃしんを上げたのは、ほかでもない。つまりは謎の女の子ことなつめちゃんを、本日お披露目しようということなのだ。




「それでは、ご紹介いたしましょう! リハ通りにできるかなぁー…………? それでは、! お願いします!」


「う……うみゅ、っ…………うむ」


(かわいい)(かわいい)(かわいい)



 おれの出した合図と共に、猫耳幼女姿のなつめちゃんが画面横から姿を表し…………あまりにもカメラに接近しすぎているためその全貌を映し出せず、しかも三脚の高さの都合で頭頂部のみしか映ってない。

 つまり今現在画面には……おれと霧衣ちゃんを背景に、画面いっぱいに鼈甲べっこう色の頭頂部と……不安げにピコピコ揺れる同色の三角耳が映し出されている状況なのだ。



 そんな衝撃的な光景を前に……カメラの後方モニターに表示されたコメント欄が、混乱と歓声の坩堝へと成り果てたのを、おれのエルフアイはばっちりと確認している。

 このチャーミングな猫耳を真っ先に晒したことで……そこには流れが出来上がりつつあった。



「な、なつめちゃん近い近い近い近い!! お顔映ってないよ! お耳しか映ってないよ!!」


「お、おう……? す、すまぬ。しばし待たれよ」


「……はい、ではあっち、カメラ向いて……よし。それでは、改めまして……わが『のわめでぃあ』四人目となるパーソナリティー、なつめちゃんです!」


「う……うむ。……えんって、此方こちらに厄介となっておる……名を『なつめ』、という。……よろしく頼む……頼、み? …………おねがい、します」


「はいよくできました! アーかわいい」



 三角形の猫耳。特徴的な鼈甲べっこう色の毛並みと、尻尾。

 そして……同じ響きの、そのお名前。


 それらの符号は、視聴者さんたちに『ある推測』をさせるには充分のものだっただろう。ここまで外見的特徴が露であればそれも当然だろうし、むしろおれはそれを狙っていたのだ。……わかってもらわなければ、困る。



「はい、というわけで……棗ちゃんです。ちっちゃくてかわいいです。わたしがお姉さんみたいですね! …………いえ実際にお姉さんですが! 百歳なので皆さんよりもお姉さんですが!」


「ノワ横道逸れてる。おとなげない」


「ングゥッ!! ……さて……お気づきの視聴者さんも居られると思います。なんとなつめちゃん……皆様には先んじてお披露目させて頂いた猫ちゃんと、同じお名前なんですよね。……どういうことだと思いますか?」



『うそでしょ』『擬人化!!!』『にゃんこがロリになるとかマジかよ』『ねこちゃんはどこ』『人化とかあるわけないだろ』『なつめにゃんは!!!』『かわいい』『服装イマドキなのに喋り方wwww』『うそやん』『どういうことなの』『かわいいからオッケーです!』『人化???』『わかめちゃんよりちっちゃい……』『わけわかめちゃんじゃん……』




 ……うんうん、いい感じに混乱していますね。


 そろそろいい頃合いだろう。おれは目の前で『きをつけ』をしているなつめちゃんのあたまに手を置き、さらさらの毛並を感じながら『なでなで』を始める。

 これは決しておれが棗ちゃんに辛抱たまらなくなったわけではなく――いや、その気持ちも少しはあるのだが――れっきとした演出の一貫であり……なのだ。


 おれの合図……事前に決めておいた算段に従い、演出をまた一段階前進させ……なつめちゃんが振り返りおれの目を見上げてくることで、それは『状況は順調に推移』の合図となる。


 そう……順調。ならば問題ない。なつめちゃんはに集中させ、こちらはおれが場を受け持とう。




「じつはですね! ……もうお気づきの方も居られますね! こちらのなつめちゃん……先日お披露目させて頂いた猫ちゃんの、なんとなんと『人化』した姿だったのです!!」


「「な……なんだってー!!」」


「恥ずかしさが残る霧衣きりえちゃんかわいいね」


「わかる」


「わ、わうぅぅぅぅ」



『うそでしょ』『おへそかわいい』『なん、だと』『どういうことなの』『ウッッソだろwwwwwww』『んなアホな』『かわいい』『わけわかめちゃんじゃん』『人化とかありえるんか??』『マジかよ』『意味不wwwwwwwwたすけてwwwwww』『わけわかめちゃん』『ありえんwwwwwww』『乳首八個あるの?』『ちょっとまって無理わかんない』



 順調に混乱が広がっている、われらが視聴者さん。……日頃からファンタジー感あふれるおれたちに触れているだけあって、荒唐無稽ともいえる『人化した猫ちゃん』説を『そうかもしれない』と受け入れ始めてしまっている。……まぁそうなるように企てたのおれだけどね。

 というわけで、最終段階。なつめちゃんもきっちり打ち合わせ通りに動いてくれているようで、さっき視界の端でを確認できた。大丈夫そうだな。




「というのも、昨年末と今年のお正月にお世話になりました鶴城さんにですね、ねこのナツメちゃんを連れていったときにですね、こう……神がかり的なことが……ワーッていう感じにすごいことが起こりましてですね、それでにゃんこのなつめちゃんがですね、」



『wwwwwwwwwww』『おまwwwwwwwwww』『あーあ』『wwwwww』『台www無wwwwしwwwwwww』『あーあーあーあwwwww』『イェーイわかめちゃん見てるー?』『海草大繁殖不可避wwwwwwww』『わかめーーー!!うしろーーー!!』『コチカメのBGMながそうぜ』『wwwwwwかわいそうwwww』『後ろwwwwwww』



「…………? うしろ? …………アァーン」


「あーあー……ノワやっちまったねぇ」




 視聴者さんたちが気づき、コメントでおれに指摘した、

 おれたちの『うしろ』、壁面棚をのんきにヒョイヒョイと進んでいくのは……鼈甲べっこう色の毛並みと三角耳と尻尾を持つ動物。

 ……まぎれもない、にゃんこ


 その姿を認識し……表情が一気に引きつる(演技をしてみせる)、局長わかめちゃん



 この瞬間、おれが主張しようとしていた『猫耳少女の正体は人化した猫ちゃんである』という筋書きは見事に瓦解し、それは『猫耳(超リアル)をつけた幼女を猫ちゃんの人化として仕立て上げようとした(が、失敗)』というポンコツストーリーへと差し替わる。

 人化したことになっているはずの猫ちゃんが、演出担当の思惑を無視してフレームイン……つまりなつめちゃん(猫耳幼女)とナツメちゃん(にゃんこ)が同時に存在することが露見してしまったのだ。



 それこそが……おれたちが立てた、いわば真の計画。

 なつめちゃんの『分身の術』で生み出した猫ちゃんを用い、不本意を装い同時にフレームインさせることで、両者が『演出としては同じ存在だと印象づけたかった』『しかし実際には別々の存在だとバレてしまった』ということを視聴者さんたちに周知する。

 別々バレはあくまで不本意、演出としては同一存在として扱いたかった……ということをアピールしておくわけだな。



 最初にを行っておくことで……今後はなつめちゃんがどちらの姿で映っても、視聴者さんに『なつめちゃん』として受け入れて貰える下地が出来上がる。

 これ以降は常に『分身の術』を用いずとも、猫耳幼女と猫ちゃんどちらの姿で登場しようとも、『もう一方はどこかで遊んでるのか』と、勝手に推測して勝手に納得してもらうことができるわけだ。


 今ごろ視聴者さんたちの中では『そっかー猫ちゃん人化できたのかーwww』『まぁ猫が人に化けるとかあるわけ無いよな』『両方なつめちゃんなのねwww了解www』という流れができていることだろう。……できているっぽい。

 ……なんだか想定以上におれわかめちゃんのポンコツっぷりを揶揄するコメントが多い気もするけど……ま、まぁ、ゆるそう。




「…………っ、……と、ひうわけで……かわいいなつめちゃんを、今後ともヨロシクねッッ!!」


「んに。若輩者ではあるが、よろしく頼むのである」


「ノワ声震えてるし。キレないで」


「キレてないですし! わたしキレさしたら大したもんですし!」




 お披露目は、どうやら無事に終了。作戦通りだ。

 それじゃあ後は……『のわめでぃあ』みんなで、楽しいときを過ごそうではないか。



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この番組は、魔法情報局『のわめでぃあ』の提供でお送りします。

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