第347話 【一派団欒】泊まりといえば朝襲撃



((おはよぉーございまぁーす!))



 伊逗いず半島の南端、嘉茂かも南伊逗みなみいず町の温泉旅館『時之戯』さんにて、盛大に羽を伸ばしているおれたち『のわめでぃあ』一派。

 昨晩は今後の展望について、まさに望む形での解決策を見つけることができ(ほんと天繰てぐりさん半端ない)……それを喜ぶ霧衣きりえちゃんによって、非常にしあわせな情景が作り出されたわけだけど。


 そのですね、非常にしあわせな絡みを見せてくれた、わが『のわめでぃあ』において『最もてぇてぇ』と名高いカップリング(おれ調べ)である神使義姉妹、霧衣きりえちゃんとなつめちゃんペアがですね……



(今まさに……このふすまの向こうで、なかよくいっしょにスヤリスヤリと眠っているわけですよ、ラニちゃん)


(そりゃもーたまんないよね、ノワ)



 これはもう……是非ともその健やかなおやすみ顔を、カメラに収めさせていただかなくてはなるまいて。

 ……もちろん、本人が嫌がるようなら、公開はしない。おれとラニが私的に堪能する限りだけど……すごいものが撮れそうだと、おれの直感が告げているのだ。





(では……いきましょうか、相棒)


(おうよ。まかせとけ、相棒)



 空間と幻想に特化した技能を操る【天幻】の二つ名持ちにして、その長所を更に伸ばす幻想種族である相棒ラニの、全力の存在隠蔽魔法……第一線級といえるそれを纏ったおれたちが、一切の音を立てずに襖を開いていく。

 いかに感覚が鋭い霧衣きりえちゃんとて、おふろとお料理と妹分とのスキンシップでリラックスしきった状況下とあっては……かの世界では『魔王』直属の配下さえ欺いて見せたと嘯くラニの幻想魔法を看破することは困難だろう。

 事実、おれたちがこうして二人が眠る和室に侵入したというのに……おふとんのふくらみは微動だにせず、寝息に応じて規則正しいリズムを刻んでいる。


 しかし……おれはここで、ひとつの違和感に気がついた。

 二人が眠っているはずの寝室、二人分敷かれたお布団。……しかし片方の掛け布団は平たいまま、人が入っているとおぼしき膨らみは一人分しか見当たらない。



(待ってウソでしょバレてた!?)


(そんなバカな! ボクの全力だぞ!?)



 襲撃を察知されたのかと思い、細心の注意を払い周囲を警戒してみるも、しかしそこに可愛い子ちゃんの姿はない。おれたちの侵入を察知し、布団から離脱した……というわけでは無いようだ。


 であれば、どういうことなのか。

 二つの布団、一つの膨らみ。消えた少女の謎。


 その謎を解く鍵は……うん。

 これはまた……なんとも尊いものだった。




(ラニ……!! ねぇ……これ!!!)


(ちょっ、待っ…………うわ……うそでしょ)



「……くぅー、……くぅー、」


「……すぅ、……すぅ、」




 その真相は……どうということはない。

 ひとつの膨らみに、二人が密着して……一緒に収まっていただけのことだ。


 横向きになって、少し背中を丸めて『くぅくぅ』と可愛らしい寝息を立てる霧衣きりえちゃんと……その胸元に寄り添うように丸まり、『すぅすぅ』と健やかな寝息を立てている三角耳……なつめちゃん。

 回された腕と掛けられたおふとんによって、なつめちゃんの表情を窺うことは出来ないが……きっと、いや間違いなく、幸せそうな顔をしていることだろう。



(ラニ、消音魔法)


(オッケー【静寂シュウィーゲ】)



 浴衣猫耳美幼女を胸に抱いて眠る、浴衣白髪狗耳美少女。

 やばすぎる。尊いが過ぎるが。これは普通にお金取れるレベルの芸術作品だが。


 公開できるかどうかは、置いといて。

 おれたちはこの芸術遺産を後世に残すべく、とにかく夢中でシャッターを切り続け……




 それからおよそ三十分後の、朝五時半。

 いつもどおりの時間に健全な起床を果たした霧衣きりえちゃんに、恥ずかしそうに咎められるまで、写真データを蓄積していったのだった。






………………………………………





「モリアキおはよおーー!! こんちわーー!! こんばわーー!! ゥ起きてェーーーー!!」


「ウワアアアアアアアアア!!!?」


「この扱いの差よ……」





………………………………………




 というわけで。


 賑やかな朝のひとときを過ごし、お食事処で目にも美味しい朝食和膳を堪能(なおラニちゃんはおんせんたまごに大興奮の模様)したおれたちは……チェックアウトまでの間、部屋に戻って温泉ロケを敢行することにした。



 まずモリアキに詫びながら『庭園でも散歩してきて』と蹴り出し、浴衣を脱いでバスタオルをきっちり巻いて、『はらり』しないようにカメラからは映らない部分でバッチリガッチリクリップで止めて……とりあえずは準備完了。

 あとは自撮り棒と防水無線コントローラーを駆使しながら、お湯に浸かってお風呂レビューを撮影すればいいだけだ。


 まぁ念のためバンソーコーは貼ってあるし、下もパンツで保護してあるので、万が一『はらり』しても『ぽろり』する心配は無いわけだが(まぁでもパンツは透けるかもしれないな)……しかし健全には万全を期す必要があるので、編集のときにはより一層の注意が必要だろう。



 それにしても、いいお湯である。

 元々きれいだったおれのお肌だが、目に見えてつるつるになってしまった。昨晩霧衣きりえちゃんが磨き上げてくれたおかげもあるのだろう。テクニシャンだこと。


 これなら美肌モデルの案件だって受けられちゃうぞ。大田さん案件お待ちしてます。




 そんなこんなで、およそ三十分ほどの朝風呂兼撮影は順調に進み、宿紹介動画のお風呂パートには充分であろう尺が撮れたので……うん、そろそろ撤収することにしよう。

 ちゃんと服も着たので、そろそろモリアキを部屋に入れてあげないと。






「悪い、時間かかった」


「いえいえ。朝の散歩も良いもんっすね。お庭がまた綺麗で」


「あー……そういえば隅々まで見てなかったな……」


「到着も遅かったですもんね。出発もそこそこ早いですし」


「それなー」




 というわけでその後は各々荷物をまとめて、帰る支度を整えて……チェックアウト時刻の十五分前には、みんな揃って準備完了。

 全員が全員『いい宿だった』の感想のもと、安らぎのひとときを提供してくれた『時之戯ときのあそび』さんと別れを告げ……モリアキの運転でハイベースが動き出した。




 帰りの都合上、きょうは半日だけの活動となるが……『せっかくとりっぷ【伊逗半島南】編』二日目。


 きょうも張り切っていきましょう!


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