第346話 【一派団欒】旅番組といえば座談会



 隙をみてラニちゃんにえさを与えつつ、最後まで感動が尽きなかった夕食の席を終え……おれたち『のわめでぃあ』一派、おとな三名こども一名ようせい一名の総勢五名は、ライトアップされたお庭の石段を降って『典雅』の間へと戻ってきた。


 お部屋に戻ると、なんとびっくり。

 夕食前、おれたちがお部屋をあとにする前とは様子が様変わりしており……室内の階段を降りて一階の和室部分は座卓と座椅子が少しだけずらされ、開けられたスペースには二組のお布団がピシッと広げられていた。



「な……なんということでございましょう!? おふとんが! 既におふとんの用意が!」


「なんと、いつの間に……よもやこの館にも黒子衆が……」


「おれたちが夕食いただいてる間に敷いてくれたんだね。ありがたい」


「おぉ、注文通りっすね。ありがたいことで」




 なんでもお布団の敷き方についてだが、チェックインのときにある程度注文ができるのだという。

 今回の例でいえば――ようせい一名は一旦脇に置かせてもらうとして――宿泊者はおとな三名とこども一名(おれではないぞ!!)の、つまり四名だ。

 おとな一人はダブルベッドで悠々と休ませ、おとな一人とこども一人のなかよしコンビは和室で休んでもらい……残るおとな一人の寝床は、小屋裏ロフトスペースに一組敷いてもらえるよう注文していたらしい。




「というわけで、オレが小屋裏ロフトいただきますんで」


「あっ!! ずるい!! おれも屋根裏部屋で寝てみたいのに!!」


「じゃあ何すか。オタク君はただの一般三十路男性であるオレに美少女たちと同じフロアで寝ろっていうんすか」


「………………めんご」


「解っていただけたようで」





 というわけで眠る場所もスムーズに決まったので……あとは就寝までの時間を利用して、突然だが作戦会議を行おうと思う。腹をわって話そう。

 『のわめでぃあ』の今後の方針を決める、大切な会議。その議題というのは他でもない、なつめちゃんのことだ。



「…………? 我輩、か?」


「そう! なつめちゃんなんですよ!」


「お、おぅ……」



 議題はズバリ……一度『猫ちゃん』の姿で公開してしまったナツメちゃんの幼女ヒトの姿を公開すべきか否か、また公開する際はその懸念事項について。

 さっきの食事中、並列処理マルチタスクを有効活用して思考を巡らせ導きだしたおれの草案に対して、みんなから意見を募りたい……というものだ。



「ぶっちゃけ、猫耳美幼女ってものすごい貴重な人材資源だと思うんですよ」


「さ、さようか」


「こんな可愛い猫耳美幼女を埋もれさせることは、のわめでぃあはモチロン、全世界規模の損失なんですよ」


「そ、そんなに」


「なので可能であれば、猫耳美幼女のなつめちゃんにも、ぜひ霧衣きりえちゃんみたいに出演してほしいんですけど……」


「ま、まことか」


「いっしょに! なつめさま、霧衣きりえめと一緒に、でございますか!」


「いや……でも、先輩……ナツメさんは既に」


「うん、そうなの。……そうなんだよなぁ、良い考えないかなぁ」




 まず、おれは猫耳美幼女なつめちゃんをパーソナリティとして登用したい。

 しかし先日の配信にて、既ににゃんこのナツメちゃんを出演させてしまっている。

 ここで猫耳美幼女なつめちゃんを登場させてしまえば……仮に今後、全員集合シーンなんかを撮る必要が生じた際なんかに、不都合が生じてしまう恐れがあるわけだ。


 少しだけ考えたのは、新たにべっこう色の毛並みの猫ちゃんをお迎えして、その子を『猫のナツメちゃん』に仕立て上げるという手段。

 だがしかし……その猫ちゃんだって、れっきとしたひとつの命なのだ。おれの活動の、いうなれば利益のため、ひとつの命を他の何者かの代替品のように扱うことが……果たして道徳的に正しいことなのだろうか。


 …………正しくは、ないと思う。




「……っというわけで、八方塞がりなわけで。ああーー失敗したなぁーー……こうなったらもうなつめちゃんに分身してもらうしかないよぉーー」


「……ふむ。話は解った。遣ってみようかの」


「だよねぇーー……ニンジャじゃあるまいし、いくらなんでもそんな分身なんて…………えっ?」


「姿で良いのなら、然程さほど難儀なものでの無いのでな。…………さて」




 表情を引き締め『すくっ』と立ち上がった、子ども用浴衣姿の猫耳美幼女なつめちゃん。

 おそらくは【蔵】の一種なのだろうに片手を突っ込むと……そこから一枚の、白くてひらひらした紙片を摘まみ出す。




「……真似化まねけや、まねけ。……【分身具現わけみよきたれ】、【八海山やつみやまなつめ】」




 何事かと注視するおれたちの前、目蓋を閉じてぶつぶつと呪言を呟き……白い紙片を『ひょい』っと放る。

 ひらひらと宙を舞う紙片は床の畳に落ちると同時……『ぼんっ』という小さな破裂音とともに、見覚えのあるべっこう色の毛並みをもつ猫ちゃんの形へと、その大きさ・姿を変える。



 とてとてと四つ足で畳の上を進み、おめめをまんまるに見開いている霧衣きりえちゃんのお膝へと『ひょい』と飛び乗り……手足を畳んで丸くなって、可愛らしくあくびをひとつ。


 その愛らしさ、そのふてぶてしさ、その自由気ままな様子……どこをとっても『猫ちゃん』そのものの、その姿は。




「媒体となる形代に己の神力を注ぎ、指示のままに働く擬似的な従者を造り出す、影を司りし執行者らが得意とする秘法……『分かち身』の術。……かの大天狗殿に手解きを受けてな、こうして姿形ではあるが、どうにか会得に漕ぎ着けたものよ」


「ぶ、ぶぶっ、ぶん、ぶんっ、ぶぶぶんっ、」


「モリアキ落ち着け、なつかしの数取団みたいになってんぞ」


「今の我輩では……業腹ながら、技能も含めた完全な『分かち身』を織り上げることは叶わなんだが……こうして限定的で在れば」


「……その、『全員集合』のシーンだけでも、分身の術で『猫ちゃん』の姿を披露できれば」


「うむ。…………これならば我輩でも、家主殿らの……霧衣きりえ殿の手助けをすることも、可能であろうか?」


「さすがでございます! なつめさま!」



 きちっと着付けた浴衣の膝の上で、のんびりと安らぐ錆猫を優しく撫でながら、霧衣きりえちゃんはそれはそれは嬉しそうにその思いの丈を露にする。

 なつめちゃんの技を褒め、共に活動できることを喜び、共にたのしいひとときを過ごせるとを期待してやまない。


 そんな思いを込め、膝上の猫ちゃんをデレッデレの表情でなでなでする霧衣きりえちゃんに。




「…………んっ!」


「ひゃわっ!?」



 ふてぶてしく丸まる錆猫を無理矢理押し退け、その抗議の声を無視するように……姉のように慕う白髪狗耳美少女の膝に頭を預ける、小さく愛らしい猫耳美幼女なつめちゃん。


 やがて目を細め、妹分を優しく撫で始める霧衣きりえちゃんの、その包容力たっぷりの母性の片鱗に。




尊いてぇてぇ」「もぅ無理」「しぬ」



 おれたち(中身)男性三人組トリオは完全に語彙力を喪失し、泣きながらカメラを回すだけの存在となり下がったのだった。




――――――――――――――――――――




@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】そうそう、これね、母性たっぷりのマジてぇてぇ浴衣霧衣ちゃん。きりえちゃんにはないしょだよ

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なぞのロリはラニちゃんじゃないよ。その正体は次の生わかめをおたのしみに。




@kinowaka-media_NOWA-IT:【#わかめ旅】本日のこうしんはこれで最後。お布団しいてもらったのでねるだけ。せっかくなので浴衣じどりのおすそわけだよ。温泉旅館きぶんを味わってね。わたしかわいく撮れてるかな?

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それではみなさん、おやすみなさい。ヴィーヤ!




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