第337話 【催事終了】波紋拡散いんしでんと
『仮想発の実在妖精!? 神秘のベールに包まれた謎多き新人配信者【木乃若芽】とは?』(URサーチ)
□2o2x年1月26日17:28 □ジャンル:URcaster
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Live2Dや3Dモデルを活用したアバターを操作し、動きや声を当てることでキャラクターを表現する、現実には存在しない配信者……すなわち、
にじキャラ(株式会社NWキャスト)とユアライブ(株式会社ウィズダムヴィジョン)の二大巨塔に牽引される形で隆盛を誇るこの『仮想配信者』界隈において、昨今
実在仮想配信者騒動とも呼ばれるこの事件は……昨年末、とある一人の(自称)仮想配信者がデビューしたことに端を発する。
彼女の名こそ、表題にある『木乃若芽(きのわかめ)』さん。紛れもなく日本人であろう名前をもつ彼女だが……驚くなかれ。なんとファンタジックなエルフの少女の姿を持つ、敢えてこう書くが
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『アウトドアブームに新たな風! キャンフェス会場に『森の妖精』現る』(キャンパーズプレス)
□2o2x年1月26日17:33 □タグ:アウトドア
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昨今、キャンプやアウトドアレジャーを題材とした漫画作品やアニメーションの台頭もあり、にわかに活気づいて久しいアウトドア分野において、またしても新たな展開が巻き起こった。
ジャパンキャンピングカーフェス(東京臨海展示場ビッグボックス:一月二五日・二六日)の二日目メインステージイベント、アウトドア芸人の『わんわんながしまグリル(※以下長島)』さんに招かれる形で現れたのは、なんと新緑色の髪と尖った耳を持つ、年端もいかぬ少女であった。
まるで童話や小説の中から飛び出してきたかのような容姿ながら、自身もハイエースベースのキャンピングカーを乗り回すオーナーであるという、木乃若芽(きのわかめ)さん。普段インターネット上で動画コンテンツを提供している
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『アウトドア芸人、未成年少女とまさかのツーショット!? 所属事務所は静観の構え』(週刊ホットインフォ)
□2o2x年1月26日20:26 □カテゴリ:芸能
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自身のブログや動画投稿サイトにて、愛犬との生活やソロキャンプ関連記事を数多く投稿しているアウトドア芸人『わんわんながしまグリル(本名:長島王一(きみかず))』氏に、とある疑惑が浮上している。
発端となったのは、東京臨海展示場ビッグボックスにて開催された『ジャパンキャンピングカーフェス』での一幕。トークイベントに招かれた長島氏だったが、本人が出演するステージイベント開始直前、演出に関して強引ともとれる方針転換を図ったのだ。
当日ステージイベントに携わっていたスタッフに詳しい話を聞いたところ、当初は長島氏とインタビュアーによる一対一の対談形式を予定していたものの、登壇十五分前になって突如対談相手として『とある少女』の登場が決まったのだという。
わんわんながしまグリル氏といえば、これまで女性関係の報道が滅多にされてこなかった『独身貴族芸人』であるが、この異例ともいえる強引な人員変更は彼の判断によるものなのか、はたまた誰かの指示によるものなのだろうか。
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『探せばまだまだありそうですよ。大人気ですね、若芽さん』
「ゥオオォォオゥオゥオゥオ…………」
「おぉ…………スゲェことになってるっすね……」
都合二日間に及ぶ展示即売会『ジャパンキャンピングカーフェス』……おれがキャンペーンガールとしてお手伝いさせていただいたイベントは、大きなトラブルもなく無事幕を閉じた。
三納オートサービスの方々に見送られ、とりあえずおれたちは一足お先に開場を後にした。彼らはこれから撤収作業があるらしく、本当ならおれも手伝おうとしたんだけど……なんか、全力で断られた。
『拒絶』の感情まで感じてしまっては、おれにはどうすることもできない。……しかしまぁ普通に考えれば、ちまい部外者がうろうろしてるほうが邪魔だったな。
うん、さすがに軽率だった。
というわけで、とりあえず先日と同様港湾エリアの某パーキングエリアに
自室へ戻ってメインPCを立ち上げたところに、すかさず会議通話を繋いできてくれたミルさんによって、各方面でおれのことが話題になっていることを教えてもらった……というわけだ。
そもそも今回の『ジャパ(略)ス』……クライアント様である三納オートサービスさんいわく、最終的な成果は例年の同イベント比で、なんとおよそ四倍。
有力顧客候補も数多く獲得することができたので、疑う余地無く大成功とのことである。
取締役の関さんをはじめ、重役の方々に直々にお褒めの言葉をいただいたのだが……いやいやいや、おれのほうこそ感謝してもしきれない。
とても便利な移動拠点を提供してくれて、こんな晴れ舞台を用意してくれて……そのおかげで、今日なんか芸能人のお方とお話しする機会を得ることができ、おまけにこうして様々なネットメディアで取り上げてもらえたのだ。
おれの知名度も、結構上がったのではないだろうか。嬉しいことだ。
ただ……さっき流し見たなかでもあったように、ときと場合によってはおれの存在が誰かの迷惑となり得るということも、しっかりと認識しておく必要があるだろう。
長島さんのような……それこそ芸能界で戦っている人々なんかは、こういった疑惑やスキャンダルが致命傷となりうる可能性だって秘めている。
今回は現場の責任者に『楽しそうだからオッケー』との許可を得たとはいえ、急なねじ込みであったことは事実なのだ。噂好きなひとがあれこれ思考を巡らせ、良からぬ噂が立たないとも言えないだろうし……事実、立ち始めてしまっているのだろう。
センセーショナルな見出しの記事は、数字もウケも良いのだとか。取材らしい取材もせず、伝聞に自身の推測を織り込んで、有ること無いことをそれっぽく仕立て上げる。当事者に迷惑が掛かろうと知ったことではない。むしろ当人から弁明が出ればそれを拾って記事にできるので、記者としては話題に事欠かないから都合が良い。
……あの記事からは、そういった自分勝手な『悪意』ともとれるものが感じられる。
「……とりあえず、長島さんには謝っといた方がいいかな」
「そうっすね。多分事務所の耳には入ってると思いますが、念のた………………えっと、どうやって?」
「えっ?
『「えっ?」』
「えっ? あ、いや……あのあと舞台袖で意気投合しちゃって。キャンピングカー旅の先輩だし。アドバイスとかお願いできませんか、って聞いたら交換してくれたから……」
「………………先輩、あの」
『若芽さんそれ……絶対に、絶ッッ対に、ぜっっっったいに!! この場以外の誰にもバレちゃダメですからね!?』
「えっ? あっ、アッ、う、うん」
さすがにおれだって、長島さんが住む世界の異なるひとだということは解っている。彼はミルさんうにさんたちや、あるいは一般JKのメグちゃんサキちゃんたちみたいに、おれなんかが気軽に連絡を取り合えるような方ではないのだ。
連絡先を交換していただけたことは嬉しいのだけど……彼にアドバイスなんかを求めるのは、もしかするとよくないのかもしれない。
「とりあえず、お礼と、記事のお詫びと。それだけ送って、あとは……残念だけど、連絡取ることは無いかもなぁ」
『…………すみません。ぼくは仕事柄どうしても、スキャンダルとかそういうのに対する警戒心が……』
「いやいやそんな! むしろありがとうね、ミルさん。記事になってるなんて気づかなかったし」
『ずーっと配信してましたもんね。仕方無いですよ。……本当に、お疲れ様でした』
「そうっすよ。取り敢えずは、お疲れさまでした……先輩」
階下の台所から、お醤油とみりんのいい香りがほんのりと漂ってくる。例によって
おおきなお仕事、おおきな山場を無事乗り切ったことを祝して……今日の晩ごはんはなんと、ちょっとふんぱつして『すきやき』だ。
お肉もネギもおとうふも、たまごもたくさん。ビールだって準備万端だ。
「わかめさまぁー! 夕餉の支度が整いましてございまするー!」
「ねぇねぇねぇノワ! すごいよたまごが! お肉にたまごつけて食べるんだって! ノワ早く早く!」
「わかった! 今いくから! ……じゃあ、ミルさん。また」
『ふふっ。……はい、また。お疲れさまでした』
おれたち『のわめでぃあ』の成功と、三納オートサービスさんの成功を祝して。
今日のところはとりあえず、細かいことは考えずに祝杯を上げようではないか。
明日から、またがんばろう。
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