第309話 【第七関門】お持ち帰り
楽しい時間というものは、あっという間に過ぎるもので。
十八時から始まった『ミルミルおひさしぶりの会(withのわめでぃあ)』は
この会食の間で、おれたち『のわめでぃあ』と『にじキャラ【
おれなんかもリーダーでありコラボ屋でもある
たとえば……おれは
これまで
あとは……今日はいろんなひとに可愛がって貰ってた
気になる内容は……細かいところはまだ未定のようだが、オフコラボで『百人一首』や『初心者活け花選手権』などをやってみたい、とのこと。ふはは、いい度胸だ。
ほかの方々……
「ほいじゃあ……のわっちゃん、すまんけど頼むわ」
「任せてください。お二人もお気をつけて」
「ほなな。りえっちゃんも、またなー」
「はいっ。……おやすみなさいませ」
ほかの皆さんがそれぞれ家路についた後……残されたのは
身体が変わってしまったことでお酒に弱くなっているのか、はたまた心のつっかえが取れたことでいつも以上にお酒が進んだからなのか……真っ白ストレートロングヘアの可愛らしい男の娘は、いつしかスヤスヤと寝息を立て始めてしまっていた。
お開きの時間になっても目を覚まさず、うめき声をこぼすだけだったので……同じ宿に泊まっている(ということをポロってしまった)おれたちが、お部屋までお届けすることになったのだ。
なお……うにさんからは『後で詳しく聞かせて貰うからな』と言われてしまったのだが……そこはまぁ、そのとき考えればいいや。……うん、気にしないことにしよう。
「ラニちゃん【探知】。人の少ない方へ」
「おっけー任せて。……うん、良さげな路地裏があるね」
「ん……案内お願い。
「んゅっ!? れ、連絡、でございますか!?」
「落ち着いてキリちゃん! こないだお勉強したことを思い出すんだ!」
「あっ! わかった! わかったでございまする! こちらの『ねずみさんのおくち』印を押すのでございます!」
「「なんて???」」
えーっと、ねずみさんのおくち…………あぁ……『受話器』のマークね。
な、なるほど……まぁ、その……確かに『出っ歯の何者かが斜めになってニッコリしてるお口』に見えなくも無いのだが……うん、解ってるなら良いか。
まるで表彰状を読み上げるように、背筋をピーンと伸ばして両手でしっかりタブレットを構えて、
うーーん……おれの両手が塞がってなければ、存分に写真撮ってたんだけどな。残念ながらおれの両腕と背中は現在使用中なので。思ってたより軽いぞミルさん。……いや
おれの背中に感じる温かさと、小さな身体(とはいえおれよりは大きい)の重量と、頬に感じる健やかな吐息と……おれのおしりのあたりに感じる、なんというか、その……グニュグニュしたモノの感触と申しますか、名状しがたい大きな袋状の存在感と言いますか。
……うん、疑って悪かった。ミルさんはちゃんと男の子でした。しかもなかなかご立派そうだぞ。
「かっ、かすもり様! 夜分恐れ入ります!
『こんばんわ
「やほーモリアキ。おれおれ。おれだっておれ。おれわかめちゃん」
『あぁー今流行りのオレオレって
「上から六八の四九の六六でピンクの星柄」
『『(ぶふーーーーっ)』』
『アァーーッ!!? だ、大丈夫すか!? ちょ、ちょっと若芽ちゃん!?』
……ん?
ちょっとまて。なんで今通話の向こう側から二人分の『飲み物を噴き出したときの音』が聞こえてきたんだ?
「おい待て!! スピーカーしてたんか!! そこに
『いやスミマセンホントスミマセン!! ちょっとしたお茶目心で……!!』
「(おろおろ)」「(爆笑)」
「そ、ッ……そこ、そこまさか他に人居ないでしょうね!? パンツの色公開したんですよこちとら!!」
『……………………ハイ!!』
「その間は何ぃーーーー!!」
『大丈夫っす! 部外者じゃないんで!! ヤバイことにはならないんで!!!』
「パンツの色晒すのは十分ヤバイことだろぉがバカぁーーーーーー!!」
「(おろおろ)」「(大爆笑)」
ああもう……言いたいことが次から次へと浮かんでくるが、話が進まないのでこの場は『ぐっ』と呑み込むことにする。
モリアキには後日、しっかり謝罪と賠償を要求してやるとして、この場は早々に切り上げるとしよう。
「おれ…………わたしたちは、もう切り上げますから! ミルさん送って、先にホテル戻ってますので!」
『(ホテルって!? まさか烏森さん若芽ちゃんと同じ部屋!?)』
『ち、ちが…………えーっと……』
『(ちょっと本部長! これフ◯イデーですよフラ◯デー!)』
『(ブッハッハッハッハ!! やべーっすよ、炎上案件ですよこれ!!)』
『いえ、あの……ホテルは同じっすけど、部屋はちゃんと別ですから!』
「……賑やかになってる気がしますが、じゃあそういうことで。わたしはちゃんと伝えましたからね? 飲みすぎないで下さいね?」
『(やさしいーーーー!!)』
『(かわいいーーーー!!)』
『えっと、その……あの! わかめちゃ』
はい、
賞状持ちしてくれてたままの体勢で『あわあわ』している
……いや、べつにそこまでキレてるわけじゃ無いんですけどね。ほんとですよ。おれキレさしたら大したもんですよ。
というのもですね、そろそろくだんの『人けの無い路地裏』に着いたわけでして、つまりはラニちゃんに【門】を開けてもらう準備が整ったわけですので。
なので……ほんとにおれは、いうほどキレてないわけです。
……ちょっとだけです。
「はい到着ー」
「いぇーい!」「い……いえーい」
高速道路で二十分の距離を一瞬でひとっ飛びして、ベイエリアの高層ホテルの地下駐車場へと戻ってくる。
出現場所は駐車したハイベース号の車内なので、防犯カメラとか他のお客さんとかに見咎められることもない。
あとはこのままエレベーターで一階に上がって、フロントで鍵をもらって、もう一回エレベーターにのって……十九階のお部屋へ帰れば、任務完了である。
というわけで、フロントロビー。今からチェックインのセレブリティな方々が、あちこちで優雅にくつろいでいる中……両手が塞がっているおれに代わり、
そのまますごすごと退散し、エレベーターを呼び寄せる。四基あるうちの一番端のエレベーターが到着し、澄んだベルの音と共に滑らかに扉が開く。
背中にミルさんを乗っけたままのおれと、鍵を握った
小さな可愛らしい、十歳くらいの女の子が、するりと滑り込んできた。
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