第289話 【第二関門】はじめまして
心行くまで優雅な朝食ブッフェを堪能し終えたおれたちは、部屋へ戻ってお出掛けの準備へと取りかかる。
今日は特に大切な用事があるので、くれぐれも粗相がないようにしなければならない。……というか、ミルさんは果たして大丈夫なんだろうか。心配のあまりごはんが喉を通らないかもしれな……めっちゃもりもり食っとったな。
「……ぼく一人だったら、途方に暮れてたと思いますけど……若芽さんたちが居てくれるので、心強いですよ」
「き…………恐縮ッス」
……うん。心配はなさそうだ。
なんだかんだで、やっぱりおれなんかよりも肝が強い。さすがは
他人の心配よりも……自分達の心配をしなきゃ、ですね。
「じゃあ昨日の予定通り、タクシーでいこうと思います。コンシェルジュさんには手配お願いしといたので……そろそろ行きますか。覚悟は良いですか?」
「はいっ! ぼくは大丈夫です!」
「わ、わたくしも……大丈夫、ですっ!」
「オレは全然問題ないっす。ただのマネージャーさんですし」
「がっつり食べたからね。ボクもしっかり働くよ!」
みんながみんな、心構えもバッチリきまっていたようだ。……大丈夫だな。
部屋の時計はもうそろそろ、九時を示そうかというところだ。打ち合わせ会場である『にじキャラ』さんの事務所があるのは、渋谷区の一等地。コンシェルジュさん情報では二十分程度で着くらしいので、それを信じて行動開始する。
シースルー眺望良好エレベーターで一気に下り、ホテルの正面玄関へ。
するとそこには……おれの考えていた『タクシー』とはちょっと毛色の異なる車輌がバッチリ待機しており、運転手さんがにこやかな笑顔とともに出迎えてくれた。
「木乃様、四名様でございますね。お待ちしておりました。本日皆様の御案内を務めさせて戴きます『帝國旅客車輛』の
「え……あれっ!? あ、はいっ! お世話になります!」
スライドドアを開けてもらい通された車内は……四つの完全独立キャプテンシートが配された、ゆったりとぜいたくなつくりの特装車両。天井が高く全長も長い、たしか『グランエース』とか呼ばれる高級志向のミニバンだった気がする。……おれも一時期めっちゃ憧れてたやつだ。
この車なら後部座席に三人が『ぎゅっ』てなる必要も無いし、ダークトーンとレザー調で落ち着いたインテリアは単純にめっちゃ好みだ。運転席に収まる瀬戸さんの所作もキビキビと心地よくて……まるでおれがえらいひとになったみたいな、そんないい気分にさせてくれる。
「それでは出発致します。狭い車内ではございますが、到着まで暫しの間お寛ぎ下さい」
「えっ?
おれたちが目的地を告げることも無く、黒くて艶々でかっこいい大型タクシーは静かに走り出す。……たぶんだけど、コンシェルジュさんに予約お願いするときに目的地聞かれたからな。そこから伝えてくれたんだろうな。スマートだ。
道中の車内の様子は簡単にまとめるが……なんとぜいたくにも首都高速を使って、めっちゃスムーズに送り届けてくれた。途中かの有名な『虹の橋』を渡るときなんかは、誰とは言わないけど五人中二人が大はしゃぎでした。
ちなみにやっぱ言っちゃうけど、正解はモリアキとおれです。
「道中大変お疲れ様でございました。到着でございます」
「アッ…………ありがとう、ございます。……スッゴク快適でした」
「お粗末様でございます。お足元お気をつけ下さい」
高速道路のおかげで渋滞にも捕まらずに済み、前情報どおり二十分ほどで到着したのは……東京都渋谷区の一等地、賑やかな通りに面したオフィスビルの前。
事前に
そう……八階建てのこのビルのてっぺんツーフロアが、今ちまたで話題の超大手
「本拠地、とは少し違いますね。……正確には『拠点のひとつ』って感じでしょうか?」
「えっ!? そうなんですか!?」
「そうなんですよ。ここは最も対外的なやり取りを行う拠点でして…………えっと、もしかすると社内秘に片足突っ込むかもしれないんですけど……いわゆる『収録』や『配信』を行ったり、
「……はえー…………そっか。
「あるかもしれないですね。……単純に、スタジオセットや防音室を組み立てるには手狭だっただけかもしれませんが」
本日のお相手である八代さんに到着の旨を
フロアレベルを示すデジタル表記がひとつひとつ進んでいき、運命のときが刻一刻と近づく中……恐らく一番重大な告知事項を秘めるミルさんは、まるで平然とした穏やかな佇まいだ。
そんな堂々とした様子を見せつけられては……おれだって、いつまでもあわあわしているわけにはいかない。
畏れ多くもお招き頂いた、大事なお話し合いの席なのだ。くれぐれも粗相のないように……失敗しないように、ちゃんとしていなければならない。
「………では、手はずどおりに。まずはおれたちが前に出ます」
「はい。お願いします。一通り皆さんのご紹介が終わったら……ですね」
「おれたちも全力でフォローするので……どうか、気を楽に」
「心強いです。……ありがとうございます」
最終確認を済ませたところで、いよいよデジタル表記が『八』階を示す。軽い電子音が鳴り響いて無機質な音声が到着を告げ、自動扉がスムーズに開く。
エレベーターホールの向こう側、ライトグレーの壁に掛かるスチールのフロア案内表示には『八〇一・八〇二・八〇三:株式会社NWキャスト』の表記。……間違いなく、ここだ。
向かって右手側が八〇一と八〇二、左手側が八〇三号室なわけだが……おれたちがお呼ばれしているのは八〇三号室なので、左側だ。給湯室とお手洗いの横を通って廊下を進むと、正面にスッケスケのガラスの間仕切り壁とガラス扉が立ち塞がる。東京のオフィスビルってスッケスケ度高くない?
そして、その向こうから……おれたちの姿を認識し、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる(※室内で走ってはいけません)女の子が一人と、そのすぐ後ろを必死な表情で慌てたように追い掛ける男のひとが一人。
「のわっちゃーーーーーーん!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!?」
「村崎さん抑えて!! 廊下!! ここ廊下です!! お静かに!!」
突如響き渡った女の子の喜声に……目の前の八〇三号室だけでなく、背後のほうの八〇一と八〇二号室のほうからも、こちらを窺う気配の動きを感じる。
しかし、あくまで気配を感じるだけだ。その人々の動きをおれの視界では確認することはできない。……なぜなら。
「ちっちゃいなぁ!
「う、うにふぁ…………ふご、あもっ」
屈託のない笑みを浮かべるショートヘアの女の子……口調や声色から察するに『村崎うに』さん(の
……そして、そのせいで……おれが予定していた自己紹介や、その後のフォローをこなすことが出来なかったばっかりに。
「……? あ……っ…………? え……あの!? ちょ、ちょっと……ミルク、さん?」
「んお? なんやぁミルも一緒…………に…………」
(あっ、これやばい)
(ごめんノワ、これちょっと阻止無理だわ)
うにさん(の
今まで接してきた
硬直する彼に釣られるように……アバターそのものの姿で現れた同僚の姿を目撃した、村崎うにさん。
この感情を素直に表に出す女の子が、果たして平静を保っていられるハズもなく。
「……ご無沙汰、してます。……うにさん」
「お゛わぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!??」
腹の底から響き渡る、本気の『絶叫』と表現して差し支えないであろう大声が……このフロア全体隅々へと届かんばかりの声量を伴い、それはもう盛大に響き渡った。
……ふつうの人間種よりも圧倒的に高い感度を誇る……おれの
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