第278話 【東京遠足】突撃マーケティング
おれと
それぞれの数こそ決して多くはないが、おれたち三人それぞれに向いている案件を見繕って纏めてくれるなんて……そんなにおれたちのことを見てくれているのだと思うと、なんだかとても嬉しくなってくる。
もちろん、ここにあるのはあくまで『概要』のリストだ。クライアントとなる企業名も案件の詳細もぼかして書いてあるので、せいぜいが『商品ジャンル』と『プロモーションの概要』くらいしか書かれていない。
そもそも企業さんから正式な打診があったわけでもなく、大田さんが抱えている――つまり企業さんから『こんなプロモーション考えてるんですが、良い子いませんか』と持ちかけられた――案件を、チラ見せしてもらっているだけだ。
しかしそれでも、軽く目を通させてもらった限り……ちゃんとおれたちの特徴をきちんと活かせそうな案件が並んでいた。
たとえば……
いえ、確かにこの子は
一方でおれのほうには……ものの見事に子ども用商品のプロモーションだな。仕方無いか、身体年齢的には十歳前後だもんな。もろJSだもんな。
文房具に子ども服に学習塾に……あとは食品コマーシャルの子ども役とか、旅行会社コマーシャルの子ども役とか、百貨店コマーシャルの子ども役とか……ちょっと大田さんや、これ子役欲してる案件入れまくっただけやろ。
それと、なんですかこの『変身ヒロイン玩具』って。ぷちきゅあですか。さすがに十歳は対象年齢外でしょ。
そして……今日この場には不在(ということになっている)のラニちゃん向けの案件は……テーマパークの大規模電飾イルミネーションの紹介動画と、あとは意外なことに化粧品や美容用品のコマーシャル。
なるほど、『魔法のような効果』ってことをアピールしたいのだろうか。主役じゃなくて魔法使い役かな。……なるほど、適役かもしれない。
あぁ、ちなみにここでいう『コマーシャル』とはあくまで『宣伝全般』のことで、テレビコマーシャルとはまた別物だ。
……テレビなぁ、あれは別次元だよなぁ。
「……とまぁ、軽く目を通していただきましたが……勿論先方にはこれから提案するわけですが、この中で『これはNG』というものはありますか?」
「ブフッ、あっいえ、スマセン……『どれなら出来そうか』とかいうんじゃ無いんすね」
「そうですね。私個人としても、なるべく多く打診してみたいなと」
「あの大田さん、すみません……
「あぁ、ご安心下さい。具体的にはまだ明かせませんが……
「はふ……よかった。…………じゃあわたしは……特には大丈夫です! わたしにできるオシゴトなら、なんだってがんばりますので! どうかお願いします!」
「わ、わわっ、わう……わたくしも! わたくしも、若芽様のお役に立てることがございましたら……!」
「ありがどぎりえぢゃんンン!! ウゥ……ちゃんとわたしもちゃんとケアするからね……いっしょにオシゴトがんばろうね!」
「えへへ……若芽様ぁ」
「おぉ……
「わかります」
……っと、まぁ、このあたりの会話なのですが……じつはですね。
わたくしの叡知の魔法をこっそり使って、ガラスの振動数をチョチョイと弄ってですね、音を少しだけ伝えやすくしてましてですね。
わたしたちが大声出したあたり……わたしの『特には大丈夫です!』発言から『いっしょにオシゴトがんばろうね!』のあたりまで、不自然じゃない程度に外に漏れるよう工作してましてですね。
(どう? ラニ。反応してるひといる?)
(いい感じいい感じ。ノワのプロフィールページ見てるひとめっちゃいる。何人かは今動画見てくれてるよ、あの『スケベモーニング』とか)
(ねえなんであれスケベっていわれてるの!?)
(やっぱ下手に『動画』って気取らずにさ、ユル~いオフの様子を映すほうがウケるのかな。スケベだし)
(ねえなんでスケベなの!?)
……と、とにかく。
おれの目論み通り、多くの方々がおれたち『のわめでぃあ』に興味を持ってくれたようだ。会議室のガラス越しなら聞こえないと思ってか、あちこちでおれたちの噂をしてくれているみたいなので……あとでラニに訊いてみよう。
大田さんのほうからも、さっきの案件の企業さんへおれたちを提案してくれる(とはいっても候補のひとりとして)らしいので、そちらも期待したいところだ。
ふと大田さんが時計へと目を遣り、つられておれたちも時刻を確認すると……現在時刻は、もうすぐ十六時。なんともいい時間である。
「それでは、
「ありがとうございました、大田さん。……案件のほうも、どうか宜しくお願いします。なんなら相場の半値でも良いので。浮いた分御社の取り分でも良いので!」
「そこまでの不義理はしませんが……ありがとうございます。先方へも提案し易くなるでしょう」
「すみません、お世話になります。……コーヒー、ご馳走様でした」
「お、ッ……お茶、ご馳走さまでございました!」
「いえいえ。お粗末様です」
大田さんとおれたち三人はそれぞれガッチリ握手を交わし、良好な関係をアピールしつつ、再びフロアじゅうの注目を浴びながら退室する。
エレベーターホールまで見送りに来てくれた大田さんに改めてお礼の言葉を告げると……クールな彼にしては珍しく『ニヤリ』と笑みを浮かべ、悪巧みが成功した子どものように喜んでくれた。
「場所は解りますか?」
「大丈夫です。住所も聞いてますし、あのでっかい門構えですよね」
「まぁ……良い目印っすよね」
「わかりました。ではまた近いうちに……朗報をお届けします」
「わあ心強い。……それでは、また」
おれのようなちんちくりんに最敬礼を取る大田さんを残して、エレベーターの扉がゆっくりと閉じ……今度こそ間違いなく『ひと仕事おわった』のだ。……いやほぼお茶してただけだが。
なのでこの後は車に戻り、そのあとは……もうおわかりですね!
待ちに待ったおたのしみ……リゾートホテルなわけですよ!!
都心の会員制リゾートホテル……きっと各界の著名人とか、経済界の重鎮とか、そういうすごくすごいひとがよく使うホテルなんだろうな!
それだけランクの高いホテルなんだろうな!
ギャワーたのしみ!!
――――――――――――――――――――
「……あっ、
「……! ………!!」
「あぁ、ただいま『リヴィ』、それに『アピス』。……『ソフィ』は、相変わらずかな?」
「うん、可愛い顔してずーっとスヤスヤ。……せっかくゴーカなホテルなのに、もったいない……よく飽きないね」
「それがあの子の『願い』だからね。……二人は、何か不自由は無いかな?」
「……!! …………、……! ………!!」
「……いや、しょうがないって、あたしから見ても食べ過ぎだったもん。……ねぇ
「ふむ…………そうかい。……解った、手配しよう」
「うん。……それで、それでね? あたしの
「……そうだね、
「やったー!! ……んふふっ。久しぶりだなぁナマ……んふふふふ……」
「…………、…………。……、…………?」
「あぁ。上手く行ってるよ。心配してくれてありがとう、『アピス』」
「!! …………♪ ……!」
「……さて、それでは……もう少ししたら『ソフィ』を起こしに行こうか。いくらあの子の『願い』とはいえ、ヒトは食べねば死んでしまうからね。……だろう? 『アピス』」
「……! …………♪ ♪」
「あたしも楽しみ! せっかくゴーカなホテルのディナーだもん……食べてから『食事』に行く!」
「それは良かった。…………
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