第276話 【東京遠足】片道五時間弱の末
「ほらほら先輩、東京インターっすよ東京インター!!」
「ぅおー……やっぱ車多いなぁー」
「ホラホラあれ!! 三軒茶屋って書いてありましたよ今!!」
「三軒茶屋!! なんか聞いたことある!! テレビで聞いたことある!!」
「先輩!! あれ! あのデッカいビル!!」
「ヒルズってやつか!? すっげデッケ!!」
おれたちの暮らす浪越市は、いわゆる政令指定都市というやつである。その肩書きにふさわしい都会であり、駅前の高層建築郡は天を衝かんばかりだ。
道路網も鉄道網もバッチリ整備され、高層ビルのオフィス街が広がり、基幹駅の付近には飲食店や飲み屋が軒を連ねる。
申し分のない都会だと思っていたし、おれもかなり愛着ある街である。
しかし……これを目にしてしまっては。
高さも、密度も、慣れ親しんだ浪越市とは比べるまでもない、超高層建築の林立するさまを見せつけられては。
「………すっげぇなぁ、東京」
「でっかいっすねぇ…………東京」
「…………た、楽しそうですね……お二人とも」
「ミルさんは……あんま驚かないんですね」
「えぇ、まぁ。……
「「ほへぇー…………」」
東越基幹高速からダイレクトで接続される、首都高速道路……われらが首都東京の交通と物流を担う大動脈は、ビルとビルの間を縫うように高架が架けられている。
目まぐるしく変わる景色と遠くからでも見える巨大建築物は、レーシングゲームとかでもよく取り上げられる程度には楽しい風景だと思う。
浪越市の都会っぷりに慣れていたつもりのおれたちでさえ、こうして『おのぼりさん』感が拭いきれないのだ。
現代日本の都会の街並みに耐性がない子がこの光景をお見舞いされては……いったいどうなってしまうのか。
「……先輩、撮れてますか?」
「そらもうバッチリよ。和装美少女はじめての大都会やぞ」
「本当……絵に描いたように窓に張り付いちゃってますね……」
「おてて広げて『ぺたっ』てね。くっそかわいいが」
「「わかる」」
お屋敷で大切に育てられた
天高く
ハイベースの車窓から見えるそれら『都会の光景』に、もはや声も出ないようだ。
「あったあった五反田。五反田! 五反田! ベッド! ダブルベッド!」
「五反田! はい降ります五反田! 新橋! 二酸化マンガン! ベーコンエッグダブルバーガー!! ……ミルさん、このあたりって土地勘あります?」
「…………えっ? いえ、あの…………すみません。東京っていっても……渋谷駅から事務所まで歩いたくらいしか……」
「了解っす。まぁナビに従えば着くっしょ。先方には連絡してます?」
「いま『五反田で降りました』って送ったよ。まぁここまで何度か送ってるし、把握してくれてるとおもう」
「うーっす」
いよいよ車は高速道路から降り、長い長いトンネルから地上へ。都心ならではの密度の濃い大通りをゆっくり進み、車はやがて目的地付近……大崎駅近郊へと差し掛かる。
カーナビが示す目的地までは、あとほんの少し。……いや、ここまで近づけば目視でも見てとれる。
ゴールである『ウィザーズアライアンス』さんの事務所が入るビルのすぐ近く、
……魔法のアシストがないのに、見事に駐車マスに収めてみせた。モリアキやりおる。やりおるマンかよ。
「……っと、十四時半……三十分前か。まぁ許される……かなぁ」
「大田さんは何て言ってます? ここまで特にヤバそうなリアクション無いなら大丈夫なんじゃないっすかね?」
「あ、噂をすればだわ。……一階受付前で待ってます、だって」
「あぁ、なら大丈夫そうすね。行きますか…………行けますかね?
「きりえちゃーん起きてー。きりえちゃーん? 大丈夫ー?」
「…………はっ!?」
あ、帰ってきた。よかった。
箱入りのお嬢様には、あまりにも衝撃が強すぎたのだろうか。
本来なら東京についての知識とか、現代の日本について色々教わるはずだったんだろうけど……まあしかたない。
今はおれが、あの子の後見人であり保護者なのだ。一緒にいろんな経験を積ませてあげよう。
「
「だっ、大丈夫にございまする! ちょっとびっくりしてしまっただけにございますゆえ……」
「むりしないでね。……ラニちゃんは、大丈夫?」
「…………うん…………ごめん、大丈夫。……いやぁ、すごいね、トーキョ。……正直なめてたかも」
「でっしょー。スカイツリーとかも昇ってみたいよね」
「良いっすね。もうここまで来たら『わかめちゃん』を存分に見せ付けてやりましょうよ。歩く広告塔作戦」
「ふへへ……トレンドワード載っちまうかなー!」
浪越市在住のおれだが、東京観光は数えるほどしかしたことがない。今回の予定全てが無事に片付いたら、ラニと
そのためにも……今回の『やること』そのいち。
広告代理店『ウィザーズアライアンス』さんへの……顔見せ兼『のわめでぃあ』の売り込み。
「よしじゃあ……いきますか!」
「「おーー!」」「お……おーっ!」
「が……がんばってきてくださいね!」
「ありがとミルさん! ちょっと待っててね!」
フロントカーテンとシェードを下ろして目隠しを施したキャビンに、ミルさん一人をおるすばんで残し……もしものときはエンジンを回せるように鍵を預け、おれたち四人は(うち一人は姿を消して)車両をあとにする。
おれたちのポテンシャルがどの程度のものなのか……いっちょ確めてみようじゃないか!
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