第274話 【遠足計画】抱き込み既成事実



 八代やしろさんからのお返事もあり、先方のオッケーも頂いたので……おれと玄間くろまくろさんとの顔合わせやらミーティングやらヤンヤヤンヤの日取りが、二十一日火曜日の十時からに正式決定した。

 二泊三日の東京出張、その二日め。場所は東京都渋谷区にある『にじキャラ』運営会社さんの本社ビル。

 宿泊地が東京港湾エリアの一等地なので、ホテルからのアクセスも不便じゃない。……いや、東京都の密度ぱないわ。


 というわけでつまるところ、ミルさんの『運命の日』が決まってしまったわけだが……そういえばミルさんは宿泊ってどうすんだろ。一緒に行こう、とは言ったけど……それこそ『ここからあっちまで一緒に車に乗ってく』ってことしか決めてなかった気がする。



 …………いやいやいや。

 これ、もしかしてだけど……冷静に考えてヤバいんじゃなかろうか。






『そうですよね! うわあああどうしよう! うわー、ううー…………いつもは事務所の近くでホテル取ってて……その、一階のレストランのごはんも美味しくて、女性専用フロアもある行きつけのホテルがあるんですけど……そこ女性用大浴場あるし、男女でフロア別れてるから安心できるし、配信者キャスターの子たちも贔屓にしてるおすすめなんですよ。若芽さんも事務所に用があるときは…………って、ああもう! そういうことじゃなくてですね!』


「落ち着いてくださいミルさん。……つまり泊まろうとしてたホテル、泊まれないんですよね? むしろホテル予約取れないんですね?」


『そうなんですよぉ!! ぼく背丈こんなですし、成人済みって信じて貰えないでしょうし……身分証だってまだ無いですもん!! うー、あうー……わ、わかめさんおねがいです! あの……また車泊めてください! お願いします何でもしますから!』


「ん?」「ん?」


『うわびっくりした! いたんですかラニさん!?』


「へぃりぃミルちゃん。いたよーボクだよー」



 とりあえずミルさんの言質は取ったので、先程大田さんに送ってもらったホテルのURLを送信して共有する。

 ……というのも、ほかではない。予約を入れてもらったホテルはなんと、定員五名ツーベッドルームのすごいお部屋なのだ。

 なんとこちらのホテル……お値段体系は『一部屋いくら』で勘定される『ルームチャージ』形式というやつらしい。仮に一人で泊まっても五人で泊まっても、宿泊費用自体は変わらない。まぁ朝食代は人数分増えるわけだが。


 つまり元々、あと三人ぶんは増やせる余地があったわけだ。そこにミルさんが増えたとしても、何も問題はない。……むしろ楽しくなりそうなので、おれ的には大歓迎だ。



『うっ、わ…………すご…………え? ……えっ? 本当にいいんです……か……?』


「えーっと……ご自身のお食事代だけ出してもらえるなら、おれは全く何も問題ないですよ」


『い、いやいやいやそんな! ちゃんと宿泊費もお支払しますって! ……でも、若芽さんすごいですね……いったい総額お幾らするんですか……?』


「それがですね……二泊で合計…………こんな感じで」


『は? あっ、いえ…………で、でも五桁っておかしいでしょちょっと。二泊でしょう?』


「そう、二泊なんですよ。……つまり一人あたり負担とすると……これくらいです。二泊で」


『いや払います全然お支払します。マジで払います。こんな機会滅多に無いですし。……すみませんほんとう助かります』




 おれと霧衣きりえちゃんと(あとラニと)……そしてミルさん。四人で割れば一人あたりの負担もたかが知れている。いやぁルームチャージ制ほんと半端ねぇわ。

 しかし……そうだな。せっかくのメッチャゴーカルームなのだ。ここはもう一人メンツを揃えてみるべきだろうか。一人あたりの負担も下がるし。





『いやいやいや冗談でしょう!? 美少女だらけの中に男が一人って拷問以外の何物でもないっすよ!?』


「だ、だって! ミルさんは男の子だよ!?」


『あのナリで中身が女性だったら何の慰めにもなんないっすよ!!』


「じ、じゃあ! おれは中身ちゃんと男だから」


『今の先輩と同じ部屋で寝るくらいなら風呂場に寝袋で寝ます』


「あっ、リビングのソファがベッドになるって書いてあるわ。おれともミルさんとも別の部屋いけるぞ」


『えっ、マジすか。ちょっと前向きに検討して良いっすか』


「おうおう。ほれ、URL今送った。スゲーぞ」


『ウォォォォ何これスッゲェェェェェ!!』


(ちょろいぜ)(ぬるいぜ)




 こうしておれたちは、負担を更に減らすことに成功した。

 一人あたりの最終的な費用は二泊朝食つきで……なんと、ちょっと贅沢なビジホシングル並のお値段にまで下がったのだった。


 大田さんに予約訂正のお願いも済ませ、感謝の気持ちを込めて自撮りをもう一枚送信する。……あんなに喜んでくれるとは思わなかったもんな。大田さんの誤字は貴重だと思う。





 というわけで、これで明日からのプチ出張について、懸念はほぼ払拭できたと考えて良いだろう。

 総勢五名(うち一人は手のひらサイズ)、北陸旅行のときと同じ顔ぶれが揃っての、しかし今度は贅沢な高層ホテルステイが待っているのだ。



 ……ではここで、三日間の出張予定をおさらいしておこう。


 一日め。朝の九時頃にミルさんとモリアキを【門】で迎えに行き、揃い次第おれのハイベースで一路東京を目指す。

 途中何度かおしっこ休憩や昼休憩を挟みつつ、十四時ころを目処に品川区へ。十五時から『ウィザーズアライアンス』さんで大田さんとお会いして、それが終わったらお待ちかねのホテルへと案内してもらって……そこからはおたのしみの時間である。


 二日め。ラニと霧衣きりえちゃん(もちろんおれも)お待ちかねの朝食バイキングを堪能し、十時から今度は『にじキャラ』さんの事務所へお邪魔する。……ここがひとつの山場だな。

 玄間くろまくろさんとの顔合わせもそうだけど……ミルさんの身に起きた『秘密』を、【Sea'sシーズ】の方々に説明しなければならない。

 その日の夜は、村崎うにさんがなにやら張り切ってくれているようだが……ミルさんのことも含め、はっきりいってどう転ぶかはわからない。


 三日めは、特に予定は入っていない。とりあえず朝食バイキングは予約しているが……チェックアウト後の予定は、まるで未定だ。

 ミルさんの諸問題がどう転ぶかわからないし、行動できる余力は残しておいた方がいいだろう。

 何事もなく『めでたしめでたし』で終わったら……そのときは、東京観光なんかしてみても良いかもしれない。



 願わくば……この東京出張が、おれたちはもちろんミルさんにとっても良い結果で終わりますように。


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