第263話 【共演準備】収録前ご挨拶



 午前中は昨晩おふろで立てた予定通りにお仕事をして、霧衣きりえちゃんのおいしいお昼ごはん(今日はなんとカツ丼だった)をむせび泣きながらいただく。

 そのあとは鳥神とりがみさんに編集しごとを一件依頼したり、出来たての新作動画『環境音動画【小川のせせらぎでリラックス】編』を投稿したり、すぱちゃのお礼メッセージを録音したり、買い物リストを作成したり、今後のToDoリストを作成したりして……なんだかんだで現在時刻は夕方十七時。そろそろいい時間だろう。

 今晩の『例のコラボ』に万全の態勢で臨むため、照明と空調と周辺機器の調整をそれぞれ進めていく。集中力を保つためにも、快適環境を心がけたい。


 フェイスカメラとアームに固定したマイクも準備万端、それぞれ位置と動作を確認する。特にマイクは先日導入したばかりの新型なので、視聴者さんのリアクションが楽しみだ。

 二つ備わる音声感知素子を使用し、バイノーラル音声も収録できる高精度の逸品である。……よろこんでくれるかな。

 この新型マイクがあれば、唐突に至近距離でささやきバイノーラルを繰り出し……視聴者さんをビックリさせちゃうことだってできるのだ。ふっふっふ。




「んんー…………カメラ入力、おっけー。……マイク入力、おっけー。いい感じに声入ってるかなぁー? ……うふふふっ。……こぉーんなのは……どぉーですかぁー?」


「……なにそのマイクテスト。ちょっとエッチが過ぎるんだけど。ボクのココこんなんなっちゃったんだけど」


「どこのことかな。エッチが布巻いて飛び回ってるラニちゃんに言われたくはないかな」


「ひどい~~~~」




 いつも通りのひどいやり取りを交わしながら、ラニ用のノートPCも同様に立ち上げていく。この前までおれがメインで使用していたマイクは現在こっちに繋がれているため、こちらのノートPCでも会議通話に参加することで、ラニちゃんのかわいいお声をより高精度で拾うことができるのだ。

 なおカメラは(うっかり女の子の部分が見えちゃったら即アカBANなので)残念ながら未実装だ。危険回避のためにも、ラニちゃんのアバターは立ち絵で我慢してもらおう。


 というわけで二台のPCを立ち上げ終えて、それぞれゲームコラボの準備を進めていく。Deb-Code会議通話アプリには既に『にじキャラ』のお二人(とマネージャーさん)がログインしているのが確認でき、専用会議通話ルームで流れの確認が行われていた。

 マネージャーさん主導で事細かにタイムラインが明示されており、お二人はそれを確認していた様子。『にじキャラ』のみなさんの勤勉な姿勢と万全のフォロー体制に、あらためて感心してしまう。



「うっそでしょ。ねぇノワ、あちらさんもう準備万端だよ」


「すっげえなぁ……マネジメントりょくっていうか」


「大まかな流れをちゃーんと決めてくれてるわけね。こりゃあ楽ちんだ」


「そうだね。痒いところに手が届く……」




 念のためのご報告だが……決して、おれたちが遅刻したわけではない。コラボ放送の開始は二十一時から、直前の準備を含めても二十時から繋げば充分間に合うのだ。

 重ねて言うが、現在時刻はまだ・・十七時。集合時刻の三時間も前だ。いくらオンラインだから、常時着席している必要がないからとはいえ……こんな早くから準備を整えようとする彼らのプロ意識には、ただただ感心するしかない。




「あー、あー……こん、にち……は?」


『!! わかめさん! こんにちは!』


『あぁ、っと……若芽様、お世話になります。本日はどうぞ宜しくお願いします』


「は、はひっ! よろしくおねがいします!」


『うにさんは今、買い出しに出掛けてます。晩ごはんと飲み物と……エナドリを買いに』


『予定時刻までまだ時間がありますので、若芽様もお好きなようにされて大丈夫ですよ。晩御飯とか済ませて来て頂いても』


「あっ、ありがとうございます。晩ごはんは霧、っ、……っと…………同居人の子が用意してくれるので」


『『霧衣きりえちゃんですか!!』』


「エッ!? あっ、あっ、えっ…………えっと……ハイ」


『『おぉ~~~~』』


「なっ、なんですか? あの、その……なにごとですか……?」


『『いえ、なんでも』』


「???」




 やっぱりというか、この時間はだいぶゆったりまったりとしているらしい。

 『今晩は大仕事があるぞ!』という意識を与えつつも、あえて開始時間まで大幅なゆとりを持たせることで、連帯感とモチベーションを高めつつも程よくリラックスさせることができるのだろう……と思う。


 さすがは大御所にじキャラさん……いろいろとよく考えられている。




「せっかくなので……わたしも、段取り確認させていただいて良いですか?」


『ええ、お願いします。念のためもう一度ペーストしますので』


「ありがとうございます、八代さん」


『光栄です』




 ここまで良くしてもらって、ご迷惑をお掛けすることは許されない。なによりおれ自身が許せない。

 せっかくお誘いいただいたコラボ企画……おれたちに(正確にはラニに、だが)初めて声を掛けてくれたうにさんたちとの、楽しい楽しいゲームコラボ。


 おれたちもおもいっきり楽しんで……視聴者さんにも、おもいっきり楽しんでもらわないとな!!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る