第250話 【途中迂回】一日哀願エルフ



「なにいってるのラニ!! おまわりさんの制服はそんな軽いもんじゃありません!! おれみたいな部外者が気軽に袖を通していいもんじゃないの!!」


「なんでさ!! ボク知ってるんだから!! ケーサツって組織は市井で話題の可愛いコに制服着せて愛でたり自慢したりするんだろ!? 『いちにちショチョー』って呼んでさ!!」


「「ン゛ン゛ッ……!!」」


「それは…………たまにやるけど! それだって著名な文化人とか、最近活躍してる子とか、かわいいゆるキャラとか……そういう、ちゃんとした立派なひとにオファーするんであって!!」


「だからその『立派なヒト』にノワを登用して、って言ってるのボクは!! 将来有望な配信者で最近大活躍してて可愛いロリキャラなんだから、要素としては申し分ないじゃん!!」


「そうかなあ!!」


「そうだよお!!」




 おれとしては、昨年末に鶴城神宮へと持ち込んだ案件のようなものを考えていた。県警タイアップ、といえるほど大それたものにできるかはわからないが……たとえば『交通事故へらそうキャンペーン』とか、『飲酒運転撲滅キャンペーン』とか、『おれおれ詐欺にご用心キャンペーン』とか……そんな感じの告知動画を作って公開して、それを愛智県警のバックアップを受けて公開するような案件を考えていた。

 これでおれの知名度が上がり、今まで届かなかった層にもコンテンツを見てもらったり、チャンネル登録者数や再生数が急上昇して注目ホットワードに載っちゃったり……なんていう未来絵図を思い描いたりしていた。


 しかし……なるほど『一日署長』。

 ラニがどこからこの情報を見つけてきたのか、相変わらずの得体の知れない発掘能力には若干ヒくが……言われてみれば確かに、その業務内容としてはおれが思い描いていたものにけっこう近い気がする。

 おまけに『就任式』はその広告力も高いし、テレビや新聞やネットニュースにも取り上げてもらえる。おれの放送局チャンネル『のわめでぃあ』の広告手段としては申し分ないし、この身体のスペックであれば問題なくこなせると思う。


 選定理由の第一に『制服の魅力』をもってくるのは、さすがラニって感じだけど……相変わらずいいトコ突いてるのが地味にすごい。

 ただやっぱり懸念としては……現状無名・かけだし配信者キャスターのおれでは、さすがにまだまだ相応しくないというところだろうか。





「いや…………いい考えじゃないか? 広報担当に声掛けてみるか。春日井君、内線を」


「はっ!」


「えっ!?」




 まじかよ、ほんきかよ、いいのかよ、と思考停止しているおれの目の前で、春日井さんが傍らの受話器を手に取って何事か話し始めた。

 おれのエルフイヤー(地獄耳)がとらえた限りでは『コーホータントーのトヨカワ』を呼んでいたようだが、これはつまり『広報担当の豊川さん』を召喚したってことだろう。


 ほかならぬ最高責任者である署長自らの指示である。話の流れから察する限りでは、これは本当にもしかするともしかしてしまうかもしれない。



 つまりは……おれが。かわいいエルフの幼女である『木乃若芽ちゃん』が。

 浪越中央警察署の一日署長として……凛々しい女性用制服を纏い、おまわりさんのおしごとをすることになるのだ。




 ……そんなの。



 …………そんなの!!





「いいんですか!? おれおまわりさんの制服着れるんですか!? ベストとかベルトもいいですか!?」


「えぇ、まぁ……明確な採用基準や採用人数が定められているものでも無いですので。それが若芽様の報酬となるのなら」


「うわぁぁぁぁぁぁ……!!」


「ど、どしたの……いきなりテンション上がったじゃん」


「だって……だって! おまわりさんの制服だぞ! かっこいいじゃん! 憧れるでしょ! おとこのこなら!!!」


「「…………?」」


「ウゥーーン…………ごめんミルちゃん、やっぱこの子理解わかってないみたい」



 クソザコ一般市民であるおれなんかに、そんな光栄な大役が勤まるかはわからないが……もし、もし本当にそんなチャンスが得られるのなら、おれは誠心誠意がんばらせていただく所存でございます!!


 動画に配信に一日署長(※まだ本決まりではありません)……ちくしょう、がんばりたいことがたくさんだ……!






………………



……………………



……………………………………





 どうしてこうなった。


 おれは確か……いわゆる『苗』対策の報酬に関して、詳しいお話を聞かせてもらおうとしていたはずだ。



 春日井警部補が内線で呼んだ、広報担当の豊川さん……および、彼女の部下らしい広報部の婦警さん二人。

 彼女たち三人に『一日署長』についての詳しい説明をしてもらうのだと、おれはてっきりそう思い込んでいた。


 事実、最初のほうは確かに要項や規約等の説明だったはずだ。そのはずだったのに。




「もう一枚いきますよー! もう一回笑顔お願いしまーす!」


「(にこっ)」


「おホッ! 良いですね! 可愛い! いただきまーす…………はいオッケーです! ありがとうございます!」


「ふぅ……ありがとうごいまs」


「次こっち! こっち視線お願いします!!」


「ちょっと背伸びする感じ! オトナっぽさアピールするような感じで!」


「(きりっ)」


「アァーかわいい!!」


「フヒッ、やば……アッ、アッ」


「イイヨいいよぉー! ありがとうございます!!」


「あふぅ…………ありがとうg」


「次こっちへ! ちょっと上目遣いな感じでお願いします!」


「(じっ……)」


「キャァァァァァァかわいい!!!」


「黒髪も可愛い……緑髪も可愛い……魔法ってすごい……」


「いや、待っ…………やばいですよ、署長これはやばいですよ……」




 もっとこう!!


 打ち合わせとか!!


 そうゆうの無いのか!!!!



 事情聴取あらため打ち合わせが行われている応接室に、新たに入ってきた婦警さん三人組。

 彼女たちは浪越中央警察署の広報部に所属する方々らしく、例の『一日署長』についてそこそこの決定権を持っている部署らしく……署長の『彼女(=おれ)を『一日署長』に立てられないか?』との意見を耳にするや否や目を輝かせはじめ、いきなり『資料用ですので!』『検討する際に必要なので!』と写真をバシャバシャ撮り始めたのだ。こわい。




「まぁ……『一日署長』のような広報企画なら庁の介入もほとんどありませんし。いち警察署の『一日署長』であれば……まぁ告知したい内容にもよりますが、比較的自由に決められるんですよ」


「そ、そうなんですか……」


「あとは署内に通達を出して意見を聞くくらいですが……でも若芽さんであれば、問題なく受け入れられると思いますよ」


「そ、そうなんですか?」


「そうですよぉ! 小っちゃくて可愛いから画面映えもオッケー、浪越市民だから地元との関連性も問題無しだし、ネットで話題のファンタジック配信者キャスターで話題性もバッチリ!」


「そ、そうなんですか!?」



 ま、まじで。おれいつのまにネットで話題になってたの。ていうかそんな大きな話題になってるの。わたししらない。

 ファンタジックキャスター……なんだかとってもこそばゆいが、確かにおれの特徴を端的に表してくれてるとは思う。……ちょっと恥ずかしいけど。



「ではまぁ……豊川君。そういう方針で企画書を頼む。はそのあたりで」


「……うぅ…………わかりました。あとはポスター撮影のときのお楽しみにしておきます」


「えっ!!?」


「というわけで。報酬に関する要望の擦り合わせは、何とか落ち着きそうだね。……改めて、協力をお願いしたく」


「は…………はいっ。……こちらこそ、宜しくお願いします」


「感謝します。……それでは今後、若芽様との連絡窓口は春日井警部補に一任する。『一日署長』企画は広報部主導で進め、当面の目標を年度末……三月中に設定する。若芽様との折衝は春日井警部補を介して進めるように」


「「はっ!」」





 えーっと…………はい。


 わたくし木乃若芽の……『のわめでぃあ』の新しい企業案件、どうやら決定したようです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る