第248話 【途中迂回】奥の手を見せよう



「なるほど…………日本由来の化生ケショウやらアヤカシやらのたぐいではなく、異世界からの侵略者……と。…………どう思うね? 春日井警部補」


「いえ、あの……自分は正直、いまいち実感が湧かないと言いますか……まるでお伽噺のようだな、としか……」


「……そうか。……まぁ、それが反応なのだろうね」


「…………申し訳、ございません」


「ああいや、済まない。決して責めている訳じゃ無いんだ。少々言い方が悪かったな」




 …………結局、ほぼすべて白状すゲロることになりました。だってしょうがないじゃない、フツノ様と繋がってるっていうんだもん。

 おれの本名と住所を知られていて、免許証更新前の情報も押さえられていて、トドメにフツノ様がバックにいるとなったらそりゃもう詰みよ。何も隠せることなんて無いさ。つまりは丸裸ってことだよこんちくしょーめ。

 ……でもわかめちゃんの丸裸って聞くとちょっと興奮する。



 幸いにも名護谷河なごやがわ署長は『決して悪いようにはしない』と、わざわざフツノ様の名を出してまで誓ってくれたので、とりあえずはそれを信じることにする。……というかそれを信じないとやっていけない。

 なんでも……おれが協力してくれるならば、プライバシーやプライベートが脅かされることの無いよう取り計らってくれるらしいし、今後『苗』の処理で世間様を脅かすことがあった場合にもできる範囲でという。


 つまりは、おれの個人情報や新居の情報を伏せることはもちろん、それらの情報がこれ以上拡散しないように協力してくれる。

 加えて今後『苗』による騒動が生じた場合は、実働班への(あくまで『正体不明の協力者』という体裁での)協力を条件に、メディア等の情報規制や『魔法使い』関連情報の秘匿、いわゆる情報統制とかそういうやつに協力してくれるという。


 いつまでも隠しきれるものじゃないとは理解しているが……それでも、不安を感じるひと・暗い気持ちになってしまうひとが、一人でも少なくなるに越したことはない。

 それに……県警のような大きな組織の広告バックアップを受けられるということは、ネガティブな情報の拡散を抑制できるだけではなく、ポジティブな情報の拡散を後押しすることもできるのだろう。これは使い方によっては非常に強力な武器になり得る。



 ……あれっ、もしかしてこれ……おれとしてはめっちゃ助かるんじゃない?



(いやぁ……もしかしなくても、かなり良い条件だろうね)


(あ、やっぱり? ……ラニもそう思うなら間違いないのかなぁ)


(うんうん。やっぱ領主に連なる組織の庇護下は、いざというときの安心感が半端無いよね。施しを受けるためには、それなりに貢献する必要もあるけど)


(おれの『副業』…………あの『苗』の駆除がそのまま、おまわりさんたちへの貢献になるんだもんね)


(ボクらの行動はそのままで、今後はずっとやり易くなるんだろ? ばんばんざいじゃん)


(うん……ばんばんざいだね)



 おれの……というか『魔法使い』の存在をとして扱い、今後はおまわりさんからこそこそ隠れる必要は無くなる。

 とはいえ一般の方々まではさすがに御しきれないので、これまで通り適宜【隠蔽】関係の魔法を使わなければならないことは変わらないが、現場での立ち回りは圧倒的に楽になるだろう。場合によっては協力を得ることもできるかもしれない。

 ……あっ、あと『羅針盤』も置かせてもらえるかもしれない。専用の連絡窓口のおまわりさんとか設置してくれるかもしれない。


 そうだ、きっと色々とやりやすくなる。そうにちがいない。ポジティブに考えることにしよう。




「……つまり、おれ……アッ、アッ、すみません、わたしの行動に対するとかは……特に無いと捉えても良いのでしょうか?」


「お咎めも何も、我々は協力を要請する立場です。一度ならず二度までも…………三度か。三度も助力を頂き、本来ならばこちらから頭を下げねばならないところを」


「いえいえいえいえいえそんな!! お……わたし、も……後処理とか、色々とご迷惑お掛けしましたので……」


「ご迷惑などと。あの様な事態は、養成校の訓練でも想定されて居りません。正直なところ我々には、少々手に余る事態ですので」


「じゃあじゃあ、ショチョーさん。がんばってお手伝いするからご褒美ほしいな!」


「えっ!?」


「ええ、尤もです。そのことも含めた対策予算を……現在…………な、っ!?」


「えっ!? あっ! ちょっ!?」


「予算組んでるって! よかったねノワ!」


「ラぬぁあああああああ!!!??」



 激シブおじさまである名護谷河なごやがわ署長も、実動部隊の責任者(だと思う)の春日井警部補も……揃って目を大きく見開き口をあんぐり開けて凝視する、その視線の先。


 突如割り込んできた見知った声に――この場に聞こえてはいけないはずの声に――盛大に焦り、言葉を失ったおれの見つめる先。



「もむ……もむ…………こくん。……ねぇねぇノワ! これ……ケーキ? めっちゃ美味しいよ! あまぁい!」


「あぁこれはね、カステラっていって…………じゃなくてですねえ!!」


「エヘヘぇ」



 それは、今までのおれの供述……この世界が『異世界』からの干渉を受けたのだという事実を裏付けする、非現実的な光景。

 おくちのまわりをカステラの糖でベトベトにしながら、センシティブになりかねない服もどきの長布を危ないところまではだけながら……現代日本には存在し得ない幻想種族『フェアリー種』の少女が、何一つ臆することなくその身を晒していた。



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