第212話 邂逅



 妖精フェアリー種であるボクのハネは、それそのものが物質化立体魔法陣の塊だ。

 七色の輝きを湛える大小四枚の美しいハネ……ボクにこの身体を与えてくれた張本人は『ゲーミング妖精さん』とかつぶやいて笑ってたけど、ボクは我が身のことながら『美しい』と思っている。この身体同様、大切なものだ。


 そんな美しい四枚翅だけど、勿論見た目だけの飾りじゃない。

 このハネが持つ力とは……大地の重力による支配に別れを告げる、半自律揚力展開魔法。


 ヒトが座るように、あるいは立ち上がるように。息を吸うかのように自由自在な浮遊・飛翔を可能とするは、妖精フェアリー種ならではの基礎代謝といっても過言ではないものだ。



 まあ……要するに。


 妖精フェアリー種である今のボクは、このハネがこの身に備わっている限り……を自由自在に飛翔させることが出来るわけだ。




「……っ、しっつこいわね! このストーカー!」


『はっはっは。ごめんね、キミがあまりにも可愛いくて。ねぇねぇどこ住み? さっき何してたの? てかREINやってる?』


「ッ!? キっモ……! マジで近付くんじゃないわよ! 【落ち葉よトリックスター】【舞い上がれスクランブル】【行く手を阻めインターフェアー】【実行エンター】!」


『そう、だよ。……だからこそ逃がすわけにはいかない』



 辺り一面に散らばる落ち葉……木々に生命力を送る役目を終え、枯れて地に落ちたそれらが、突如意思を得たかのように舞い上がる。

 一つ一つが小さなそいつらは大群を伴い、大きな流れと化してボクの行く手を阻もうとする。


 複雑な軌道を描くそれは、この世界の常識に当てはまらない混沌の法。

 神サマの影響と庇護を拒否し、カガクギジュツと歩むことを選択したこの世界には……身近な例外ノワを除きはずの、その力。

 その力を振るう者、それでいてボクらと関わりの無い者が……あの『魔王』と無関係であるはずがない。




『……メイルスの眷属か。なるほど、してるじゃないか。彼は今どこで……何を企んでいる?』


「ぎ、ッ!! ……知らないわよ! 知っててもアンタなんかに……『勇者サマ』なんかに、このあたしが教えるわけ無いじゃない!!」


『へーそっかー。……じゃあ気は進まないけど……実力行使で聞き出すとしよう』


「やってみなさいよ! 【全体突撃命令ブルートフォース】【実行エンター】!!」




 ボクの行く手を阻もうとしていた落葉の濁流は、今やその規模を更に増し……周囲一帯を巻き込み、撒き散らす『渦』へと変貌を遂げている。上方へ飛び上がって迂回する方法も無いわけではないが、それでは恐らく逃げられてしまう。


 どうやら、ボクの因縁の相手は……なかなか良い父親を演じられているようだ。彼を揶揄するようなボクの言動に、眼前の美少女はあからさまな怒りを向けてくる。

 ……生半可な刷り込みなんかではない。これは本気の慕われようだ。




(なら容赦無く……思いっきり突っ込むだけだ)


(ホエェ!? ど、どどっ、どうしたのラニ!? おれなんか気に障るようなボケしてた!?)


(あー今まさにだね。帰ったら存分にツッコミさせてもらうから)


(そんなあ!?)


(そういうわけで。


(…………もう……わかったよ)




 そもそも……この鎧はそんじょそこらの鎧ではない。

 攻城兵器や巨龍の口腔砲ブレス、また対龍魔法の直撃でさえ凌ぎきる名品だ。いかに密度を増した魔力の奔流とて、それで削りきれるはずがないのだ。



我は紡ぐメイプライグス……【蔵守ラーガホルター】』



 思考は一瞬。最愛の相棒との議論じゃれ合いも一瞬。使い慣れた魔法の蔵の扉を開き、昔々は使い慣れていた――しかしここ最近は持つことすら叶わなかった――愛用の装備を、懐かしさとともに引っ張り出す。


 その『愛用の装備』とは……剣とは逆の手に構える、もうひとつの

 敵の攻撃そのものを受け止め、その質量をもって押し返し、押し潰し、一方的な攻勢に転じることを得意とする……一般的には『盾』と呼ばれ防具に分類される、



 白亜の全身鎧の重量、左手の凧型盾の重量。それらを纏うを……可愛い可愛い相棒に与えられた虹色のハネの力で、一気に翔ばす。




『よい……しょォっ!!』


「ひ、っ!?」



 ごうごうと音を立てる枯葉の竜巻を、高質量を伴った高推力の身体で一点突破。


 鎧と盾と魔力の肉に守られたボクには、当然すこしも被害は無く。



 妨害をものともせずに突っ込むボクの見つめる先、意表を突かれその身をすくませる美少女を確保せんと、剣を手放した右手を伸ばし……








「……えっ?」


『………………まいったね』





 攻城兵器や巨龍の口腔砲ブレス、対龍魔法の直撃でさえものともしない、白亜の全身鎧。

 装甲面よりはいくらか強度が落ちるとはいえ、それでも一級以上の強度を備えているはずの……肘関節から先。



 そこは今や……【義肢プロティーサ】で再現された中身ごと、綺麗に削り取られていた。






「なっ……なんで、つくしちゃん…………っ、まさか! シズちゃんが!」


『へぇ、つくしちゃんっていうんだ? こんにちは、初めまして』


「……? …………、…………(ぺこり)」


『…………なるほどね。嫌われてないみたいで良かったよ』


「ちょ、っ!? あ、あんた……今さら何ふざけたこと!」


『ボクは…………そっちの子には『勇者サマ』とか呼ばれてたけど、『ニコラ』っていうんだ。よろしくね』


「…………(ぺこり)」


「つくしちゃん!?」


『いやぁー…………待って、やばい。めっちゃ可愛い』


「……………………まぁ、そうでしょうね」


「…………?? ……?(きょとん)」




 一人目の美少女を確保せんと手を伸ばしたボクの前に……仲間を庇うように突如として姿を表した、『つくしちゃん』と呼ばれる二人目の美少女。

 年齢的には、一人目の子よりも幾分が幼いだろうか。全体的に小柄で線が細く、背丈や胸なんかもノワといい勝負だ。


 ……美少女が増えること自体は、ボクにとっては大歓迎なのだが…………一見純真無垢な言動の『つくしちゃん』だが、その脅威度は見た目と全くそぐわない。




 ちらちらとこちらを気にしながらも、一人目の美少女に叱責されている『つくしちゃん』の、その口もと。


 そこには見る影もなく咬み千切られ、噛み砕かれ、今なお咀嚼し嚥下されている……右腕鎧ガントレットが、無様な姿を晒していた。



――――――――――――――――――――



※まあこのお話は大したシリアスにはならないので


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る