第210話 【祝日騒乱】ダメもと現地調査
たった六人とはいえ、視聴者さんの前で無様なところは見せられない。
その意気で臨んだ、
まぁ……喜んでもらえたなら、何よりだ。
その後は少しだけお話をさせてもらい、しかしあまり時間はかけずに……カラオケボックスに入ってから合計で二時間そこらで、楽しいひとときは終わりを迎えたのだった。
厳密に言うとめっちゃ渋られたのだが……『今晩のゲーム配信の準備したいので』と申し訳なさげに告げたところ、みんながみんな
さすがにこれ以上交流が増えると本業に支障を来すので、これ以降の連絡先交換は控えさせてもらいたい……とさりげなく釘を刺しておいたので、こういうケースは今回が最後になるだろう。……たぶん。
……ということで、彼女たちと別れたおれは配信準備のために自宅へ向かう……と思わせておいて。
例によって周囲の視線が無いことを確認した上で、【
……いやぁ、『こんなこともあろうかと』じゃないけど……この【
「空飛ぶエルフ、って……かなりシュールな絵面だよなぁ」
「まぁ普通は
「ラニのいた世界には【
「あったけど、要求魔素量が膨大すぎてね。あと姿勢制御に細かな魔法式を複数同時操作する必要があるとかで、つまりそもそも難易度がクッソ高い上に……おまけに、難解すぎて飛行中は他の魔法が実質使用不可能になるっていう、大きすぎる欠点があって」
「そ、そうなの……?」
「うん、そうなの。……だからせいぜいが移動専用魔法、だけどそれでも利便性で言えば【
「…………つまり、おれって……すごい?」
「すごいっていうか、ありえない。どれくらいありえないかっていうと……この世界の人間種諸君で例えると、水面を走りながら片手で頭上に
「なにそれ無理ゲーじゃんキモ」
「だから……そうだよ(真顔)」
日頃からラニは『ノワはすごい』『非常識』と度々口にしていたけれど……やっぱりおれにとっては比較対象が存在しないので、どの程度の『非常識』なのかいまいちピンと来ていなかった。
しかし今(あくまでひとつの例えであるとはいえ)どれくらいヤバい難度なのかを教えてもらったことで……この世界におけるおれの立ち位置というか、優位性というか、どれくらいのアドバンテージを得ているのかということが……やっとわかってきた気がする。
水面を走りながら片手で頭上にトランプタワーを立てながらもう片手でナイフ六本ジャグリングしながらフラフープ回してるような、そんな変態じみた曲芸行為……それでさえおれにとっては、全処理能力のうち三割程度でしかないのだ。
ラニたちへの魔力譲渡や【
しかし……そんな破格といえるほどの高性能を秘めているのなら。
使えそうな魔法をとりあえず片っ端から試してみたりすれば……もしかすると、手がかりを掴むことが出来るかもしれない。
そんな可能性にときめきはじめた、おれたちの眼下。大きな楕円の白線が引かれた地面や、これまた大きな扇型の広場を……陸上競技トラックや屋外野球場を擁する学舎の姿を、上空からばっちり捉える。
先ほど別れた吹奏楽部木管チームの子らの言うとおり、扇型の競技場には白い練習着姿の人影がちらほらと……月曜日の祝日とて相も変わらず練習中の、浪越大附属明楼高校野球部員たちの姿が見てとれる。
校舎の壁に掛けられた巨大なアナログ時計の針は、まだ午後四時にも届いていない。
今夜の配信は二十時からの予定なので……準備の時間を確保するにしても、あと二時間程度は余裕で浪費できる計算だ。
「いやぁー……すごい、立派な学校だね。おれの通ってた高校よりずっとすごい」
「ホンットすごいね……でっかい学院。……いや、この世界の建築技術が半端無いって知ってるつもりだったけどさ」
「ラニこんど
「へぇ、絶対。……じゃあもしボクがビックリしなかったらバンソーコーね」
「んへぁ……っ!? …………配信は……ダメ、だよ?
「そんなにかぁ。……そりゃあ楽しみだ」
「ふふふふ」
こっそりひっそりちゃっかりと地面に降り、【
おれの気配と姿を限りなく掻き消す魔法により、どうやらおれたちの侵入は気づかれずに済んだようだ。帰宅途中の学生さんと何人もすれ違ってきたが、誰にも存在を感じ取られていない。よっぽど大声や騒音を出さない限りは見つかることも無さそうだ。
もこもこカーディガンとレイヤードスカートに身を包んだ、ちょっとおしゃれな見た目十歳そこらの女の子エルフ。……高等学校には全くそぐわない存在のおれが、平然と運動部練習場をぶらついているのだ。普通であれば声を掛けられないはずがない。
若干のなつかしさを感じながら、学校施設をのんびり眺めるのも楽しくはあるのだが……当然だが、ただの散策や気分転換のために
「まー……そんな都合よく犯行現場押さえられるとは思わないけどさ」
「帰宅途中を狙われてる、って情報もあるし……タイミングだけ定めてしばらく警戒しとく? なんなら【
「そうだね、現状それがいちばん近道かなぁ……あとはメグちゃんサキちゃんに情報集めてもらうとか……」
コンクリートで舗装された通路を運動部員にまぎれて歩き……おれたちはいちばん突き当たりの運動施設、野球場の一塁がわ応援席へとたどり着いた。
通路から段々に降りていっている応援席と、そこから更に降りた位置にある野球場競技グラウンドでは……どうやらそろそろ練習を切り上げようとしているのだろうか、丁字形のグランド整備道具を持ち出す部員たちの姿が見られる。
「ねぇ、ラニ……あの子」
「…………ノワも気づいた?」
陽が陰り始めたとはいえ、まだまだ四時そこらだ。公園で友達と遊んでいたとおぼしき子どもたちの姿が、三塁側応援席にはちらほらと散見される。
そしてそんな子たちの中で、おれたちが無意識のうちに注視してしまうような……とても油断ならない、ただ者ではない佇まいの少女が、ひとり。
「…………ピンク、かぁ」
「あーあ、可哀想に……野球部の子たちもめっちゃ気にしちゃってるじゃん」
「そりゃ気にしちゃうよ。あの子ゲームに夢中で気づきそうにないし。ノワも隣座って勝負してくれば?」
「おれ
「ピンクとイエローだと、どっちのほうが強いんだろうね? やっぱピンクかな?」
「ねええええちょっとおおおおお!!」
健全な高校生男子野球部員たちを刺激してしまっている……とても開放的な格好の女の子。
この距離から見た感じだが……人間でいう十歳程度のおれよりも、外見年齢でいえばもう一回りは年上であろう。……実年齢はおれの方が年上だけど!
このときのおれたちは……特に何一つとして危機感や違和感を抱くことなく、『いやぁーいいもん見たわ』くらいの心境でいたわけだが。
まさか……こんな形で『アタリ』を引くことになろうとは。
おれたちの直感も、どうやらまだまだ捨てたもんじゃないようだ。
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