第186話 【配信終了】とてもすごかったです



※ 突然ですが配信終了をお知らせします。



――――――――――――――――――――





 き……緊張した!!


 めっっっちゃ緊張した!!!




 どういうことなの……なんかいつもの三倍くらい視聴者さんいたんだけど!!






「ふ、ふたりとも……おつかれさま」


「いやいやいや……局長こそおつかれさま。プレゼン良かったよ」


「さっ、さすがお二人とも……場馴れして居られまする……」




 毎週(ほぼ)恒例となっている、金曜夜のライブ配信をなんとか乗りこえて……おれたち三人はスタジオの床にへたり込み、しばしの余韻に浸っていた。

 ……と思ったらへたり込んでるのおれだけじゃん。ラニはぷかぷか浮いてるし、きりえちゃんは背筋伸ばしたおんなのこ座りだし。つええ。


 同僚たちの可愛らしさとタフさにひっそり驚愕しながら……おれは今しがた無事終えた放送の内容を思い返す。

 今までに無い視聴者さんの数と、予想だにしていなかったお客さまの出現に、内心めっちゃビビり散らしていたおれだったが……スタジオ背景の【投影クルエクトラ】を微塵も揺らがせずに維持できたのは、われながら誉めても良いと思う。




「良かったね、ノワ。ウニちゃんとミルクちゃんさまさまだね」


「ほんとにね……いやー『にじキャラ』半端無いって。この数字『にじキャラ』さんの宣伝のおかげでしょ絶対」


「ふふっ。嬉しそうでございまする」



 うふふふ……嬉しいかって。そりゃあもちろん嬉しいですとも。



 まずなによりも……今日のお昼のミーティングを受けて、うにさんとミルクさん両名から正式に『コラボします!』の告知がなされたこと。

 またその際、今晩の定例(にしたい)配信の宣伝つぶやきを拡散してくれていたので、いざ本番になってみれば彼女たちのフォロワーさんが多く来てくれることとなったのだ。


 しかもなんと、それだけではなく……うにさんとミルクさんお二方本人が、視聴者さんとしておれの配信を見に来てくれたこと。

 さらにさらに、お二方だけではなく他の『にじキャラ』メンバーの方々も、何人か見に来てくれていたらしいこと。

 ただでさえ(嬉しいことに)流量の増したコメント欄のみに集中することは出来なかったので、大御所の方々のコメントすべてを把握できていた自信は無いが……偉大なる先輩配信者キャスターにお褒めと励ましの言葉を送ってもらえたというのは、やっぱりとても嬉しい。


 さらにさらに、三つ目。おれたちのわめでぃあが手にした、貴重な企業案件……その一部。

 今月末、東京の臨海国際展示棟にて開催される『ジャパンキャンピングカーフェス2020』……そこに出展するメーカーのひとつ『三納オートサービス』さんにて、二日間イベントコンパニオンのお手伝いをさせていただくことを、やっと視聴者の皆さんにお知らせすることができた。

 関さんとか大田さんとか、見ていてくれただろうか。



 イベント告知は、おれが思っていた以上に盛り上がった。さすがに首都東京ともなれば、浪越市よりも多くの視聴者さんが行動範囲なのだろうか。

 そのリアクションたるや……年末年始の鶴城神宮初詣の助勤アルバイト決定報告のときよりも、明らかにコメント欄のスクロールが速かった。体感で七割増しくらい。


 三納オートサービス営業部の多治見さんいわく……おれを起用することの目的のひとつとして『今までキャンピングカーというものに触れたことの無い方々に、少しでも興味をもって欲しいから』というのがあるらしい。

 なので、このお知らせを聞いた視聴者さんたちの中で、一人でも多く『そんなイベントあるのは知らなかったけど、珍獣エルフが見れるなら行ってみようか』みたいなことを考えてくれるひとが増えれば……作戦第一段階としては、成功といえるだろう。



 ……そして、どうやら。

 放送中のコメント欄や、放送終了後のSNSを流し見した限りでは……なかなかの成果が期待できそうである。


 イベントまでの期間もあと二週間くらいあるし、そもそも土日開催の予定だ。なので首都圏在住の方々であれば、無理なく足を運べることだろう。

 ……初詣のお知らせは、本当に直前だったからなぁ。その節は本当に申し訳ないと思ってる。





「そういえば、途中でコメントが何回か『おるやんけ』で埋まってたけど……あれ、なに?」


「あー、あれね。うにさんとかミルクさんみたいな、おれなんかよりずっとずーっと有名な配信者キャスターさんがね、ありがたいことに見に来てくれてたみたい。……いやほんと『にじキャラ』横の繋がり強いなぁ」


「えっと、つまりは……うにちゃんたちのギルドの……有名人? のひとが見ててくれてた、ってこと?」


「そうそう。おれが気付けた限りだけど……うにちゃんたち除いて、三人くらいは見た気がする」


「へぇー。コラボ増えるといいね」


「えへへ。そうだね」




 増えるかなぁ。増えるといいなぁ。


 一応うにさんたちとのFPSコラボのお知らせをした際に、『わたし変なエルフですけどいろんな配信者キャスターさんとコラボしたいです!(ちらっちらっ)』とアピールしてきたので、布石そのものは打ってある。

 もちろん、受け身でいるだけじゃ良くないって解っちゃいるけど……まだまだ人脈も何もないおれにとっては、今はこれで精一杯なのだ。


 もっと知名度が上がって、おれの配信者キャスターとしての実績が積み重なってきたら……そのときはあの子やあの子にコラボ打診してみたい。

 夢は大きく。ふふふ。




 ……と、まぁ……そんなかんじで、大変有意義な定例(にしたい)配信だったのだが。

 じつはもうひとつ、振り返っておかなければならない『いいこと』があるのだ。


 いや、正直『いいこと』の域を軽く逸脱しつつあって……ヤバさすら感じ始めてることなのだが。



 ともかくそれは、ほかでもない。SNSや『わかめちゃんスレ』なんかでも度々視聴者さんに突っ込まれていたことだ。



 じつはですね……このたび、晴れて『収益化プログラム』の認可が降りましてですね。

 視聴者ユーザーさんから配信者キャスターに、直接支援を送ることができる制度――端的にいうとまさに『投げ銭』システム――である通称『スパチャ』を、この度やっと導入することができたのですが。





 ……えっとですね。



 大変なことになりました。


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