第177話 【閑話休憩】思わぬ適性
画面の暗転が明けると同時に、自分達が乗せられた輸送機がマップ上空を横切り始める。
プレイヤー達が我先にと降下していくのを尻目に、私はどうしたもんかとしばし思考に沈む。
……まぁ別にどこでもいいや。どこを選んでもどうせ大して変わらないし。
低ランクでの試合なんて……知人からの頼みと上からの命令でもなければ、好き好んで入りもしない。
私とあの子達をコラボさせて盛り上げたいのだろうけど、実力の乖離した相手と無理やり組まされたところで普段通り楽しめるわけがない。それにサブアカウントを使っての『初心者狩り』なんて、格好悪いったらありゃしない。……この上なく気乗りしないが、業務命令とあらば首を縦に振るしかない。
せめてもの抵抗で『イメージダウンになるから
しかし……私の他に指導できそうな身内が居ないというのだから、仕方無い。
全てを諦め、盛大な溜め息と共に吐き出し……今はゲームに集中すべく、適当な地点を目指して降下していく。
……未来のコラボ相手(候補)が慌てたように後に続くが、正直見ている余裕があるとは思えない。どう動けばこの子を成長させられるのか、皆目見当もつかない。私はそこまで頭が良い部類じゃ無いのだから。
着地とほぼ同時、既に銃器を調達し終えた他プレイヤー同士の交戦音が、どこからともなく聞こえてくる。
いくら自信があるとはいえ、銃を持たない状況で勝てるとは思っていない。このゲームのジャンルはFPS、一人称視点のシューティングゲーム……銃を撃ってなんぼなのだ。
しばらく誘うように周囲を走り回り、地形を確認しつつ戦闘音を拾いまくる。ついでに囮になるつもりでもあったのだが、キルを譲ろうとしていたコラボ相手(候補)はいつのまにか何処かへ行ってしまった。……いや、私が気にしてやれなかっただけか。
自分の『向いてなさ』に呆れるとともに全てを諦め、加えて思っていた以上に撃たれないことに拍子抜けしながらも走り回り……まぁこのランクならこんなもんかと一人納得し、幾つかの家屋へと押し入り装備を物色する。
しかし……コラボ相手(候補)を早々に見失った酬いだろうか。銃の引きがなかなかに悪い。現在手持ちの武器は『ハズレ』と名高いサブマシンガンが一丁のみ。やってやれないことは無いだろうが、正直少々心もとない。
二軒目の建物に飛び込み、幸いにも比較的優秀なハンドガンと弾を拾う。半ば無意識に動く指が即座にリロード動作を指示し、画面内の自キャラが銃を構え直すと同時に……
―――すぐ隣のドアが開かれる。
「はい残念ー」
侵入者にとっても、完全に予想外だったのだろう。扉から侵入を試みる側からは完全に死角となる影に位置取り、ごく至近距離からの狙い済ましたヘッドショット。三発が三発とも後頭部に叩き込まれ、無抵抗なまま相手は死ぬ。
オマケに……そのまま引っ込んでいればいいものを、敵討ちを試みたのか漁夫の利を狙っていたのか、二人目の獲物が無防備に姿を現す。さすがにこちらの場所は把握されていたらしく、出会い頭にサブマシンガンを突き付けられるが……この距離ではこちらのほうが火力は高い。さっきの雑魚と同様に片付けられると判断を下す。
一発目。少し逸ったか。放った銃弾は胸のど真ん中へ。衝撃に獲物が硬直するが、まだ
二発目。手負いの獲物は生意気にも身を翻し、銃弾は肩をかすめるに留まる。浅くない手傷を与えたが、まだ生きている。
三発目。狙いを修正して頭のど真ん中へ。
とっさに振り向き、三発目。今度こそ殺ったと思ったが……ほんの数フレームの僅差で、発砲の直前に獲物の姿が消える。
……なんということはない、ただ
一方のこちらは、ハンドガンの六発を撃ちきったところだ。舌打ちしながら武器の持ち替えを選択、狙いを定めさせぬようジグザグに動きながら距離を取り、こちらもサブマシンガンを選択。
思わぬ反撃にかなり体力を削られてしまったが……それでも敵にマガジン一本分を撃ち切らせて尚、こちらはまだ健在だ。敵のリロードが終わるまでは一方的に攻撃を浴びせることが出来、しかも敵の残体力はほんの数パーセント。
一発一発が軽いサブマシンガンとはいえ、三発でも叩き込めば殺せるだろう。
……そう、思っていた。
「…………チッ」
距離を離すのではなく逆に詰め、まるでこちらの狙いがわかっているかのように、ただただ執拗に回り込むような挙動を取る眼前の敵。
こちらの銃口の向く先には決して立たず、その動きはちょこまかとすばしっこく……振り向いても振り向いても画面中央に捉えられない。
捉えたと思いトリガーを絞るも、動き回る敵を捉えられずにことごとく外していく。そうこうしている間に敵のリロードが完了したらしく、こちらへ銃口が向けられようとしている。
止むを得ないかと身を翻し、開け放たれたままの扉から外へと飛び出す。
距離さえ離せば、あの鬱陶しい回避は使えないだろう。……そう思っての一手だったが。
「はっ?」
外へ飛び出たところで、鉢合わせした他プレイヤーに至近距離から銃撃を浴び、体力ゲージが削りきられ画面が赤く染まっていく。
反射的にログへと視線を送ると……自分をキルしたプレイヤーとは、他でもないコラボ相手(候補)。
『私FPS苦手なので……プロに勉強させてほしいんです!』と涙ながらに頼み込んできた、同期の一人だ。
……生きていたのか。
彼女自身も、全く予想外のことだったのだろう。たまたま正面に飛び出てきた他プレイヤーがいたのでビビり散らして撃ってみたら、なんと殺した相手は同盟相手のはずの私だった……といったところか。
混乱して立ち竦むのも無理はないのだが、そんなところで棒立ちしていると……あーあ。
「……まぁ、初心者だもんね。仕方無いか」
私をキルしてのけた同期は、私をここまで追い込んだ敵にあっさりとキルされ……私達ペアは早々に敗退を喫することとなった。
同期をキルした、私から生き延びたプレイヤーIDは……『FairyRANI』。
…………フェアリー、ラニ。
「……いや……一周まわって逆にセンスあるわ。フェアリーて」
この初心者ランク帯にありながら、いろんな意味でセンスの塊である、見知らぬ相手。
笑うしかない状況へと追いやられた私は……火曜夜九時現在、初心者ランク帯で特訓配信を行っている、恐らくは凹んでいるであろう同期の配信枠へと飛んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「くあー!! 二位かぁー!!」
「ラニちゃんすっげ! カッコいい! なでなでしてあげる!!」
「えへへぇー」
『初見って言ってなかった……?』『惜しかった』『てぇてぇ』『まぁ初心者帯だし』『てぇてぇ』『のわちゃん何も出来なかったね……』『デレデレラニちゃんくそかわ』『よわちゃん強く生きて』
現在の時刻は、火曜の夜九時をいくらか回ったところ。
モリアキに譲ってもらったノートPCを順調にセットアップし終えたおれは、同じ『のわめでぃあ』の構成員でありアシスタントである妖精ラニと、念願である初の協力プレイでゲーム配信を行っている。
……とはいえ、実際に配信されているのは、メインPCに映るおれの画面だけ。配信チャンネルはひとつしか確保していないので、さすがに複数のPC画面を同時に配信することは出来ない。
そこを解消するためには……それこそ『のわめでぃあ』内で複数の配信アカウントを取得する必要があるだろう。
まあしかし、とりあえず今は
プレイ中の彼女はカメラに映らないが、マイクはちゃんと彼女用のものを設置してある。プレイの合間合間にはカメラの前へ姿を現してくれるので、『いっしょにプレイしてる感』は伝わることだろう。
「やー……でも悔しいなぁ。わたし本当何も出来なかった」
「見事に瞬殺されちゃったもんね……狙いがめっちゃ正確だった。ノワが即死したの本当びっくりした」
「言わないで!! わたしもびっくりしたんだから!! ドア開けたら死んだんだもん!!」
『よわちゃんかわいい』『完璧な不意打ちだった』『敵討ちに向かうラニちゃんの忠犬っぷりよ』『よわちゃんはどうしてのわのわなの?』『「よくもノワをォ!!」すき』『ラニちゃんかっこよすき』『どっちが局長かわかんねーな』
「ぐおおおお悔しい!! わたしだってね!! 不意打ちされなきゃ強いんですよたぶん!! いいですかラニちゃんもっかいリベンジですよリベンジ!! たすけてくださいラニちゃんさま!」
「はははは、よきにはからえ」
FPSというゲームを初めて経験するはずの白谷さんは、その後もめきめきと頭角を現していき……そんな期待の新星におんぶにだっこされているおれも、なんとか人並み程度のレベルには至っていた。
ついには一位をもぎ取るまでに上達したラニに比べ、おれは結局途中でリタイアしてばっかり、一度も生き残ることは出来なかったんだけど。
二人で協力してゲームを遊ぶって、こんなにも楽しいんだということを……ひさしぶりに思い出すことができた。
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