第174話 進みながら撮りながら



「『違和感なしの美幼女エルフ』『弓めっちゃ似合う』『衣装クオリティたっか』『タイツ越しのおみあしたすかる』……ふふふ、そうだろうそうだろう。よーく解ってるじゃないか視聴者諸君よ」


「ラニー! このへん! このへん撮ってー!」


「おっけーまかせて! はいさーん、にーい、いーち、はいポーズ!!」


「ぽーず!! ……って、おれまで映る必要ある? 地形とか環境撮れれば良くない?」


「必要アリアリのアリだよ。だって比較対象なきゃ大きさわかんないでしょ、これ」


「…………うん、たしかに」




 ボクのでっち上げたそれっぽい理屈に、どうやらあっさりと納得したらしい……わが最愛の女神。

 実際説明した通りの効果もあるといえばあるので、当面の間は『本音』のほうを勘づかれる心配は無さそうだ。ちょろかわいい。


 新たに紡ぎだした【義肢プロティーサ】を駆使し、ボクの身体よりも圧倒的に大きく重い『タブレット』を器用に操り……ノワの指示する環境写真を撮り溜めながら、彼女の後方やや上空よりふわふわと追従していく。

 ノワの言い出した『視聴者さんに見せる庭の写真とるよー』との基本方針から逸脱しない範囲で、ボクは知恵を総動員して『周囲の地形が映る資料写真でありながらにもなる写真』を撮りためていく。


 ノワ本人は無頓着だけど……今の服装の写真がものすごい需要を秘めていることを、ボクは知っている。



 出掛ける前に撮った写真……本格的なエルフ族弓士の衣装を纏ったノワの写真は、既にSNSつぶやいたーへ投稿済みだ。ちなみにこちら、本人には『この後に投稿する予定のアナウンスとして』『後続の投稿に注目してもらえるように』と説明しでっち上げて許可を貰ってあるので、何も恥じ入る必要はない。

 ボクは撮影地点を探るノワの後に続きながら、時折彼女の指示通りに(彼女ごと)撮影しながらこっそり名詞検索エゴサを行い、先程の呟きの行く末を観察していたのだ。


 その結果として、やはり彼女のコスプレ(と思われている)写真を数多く撮っておくべきだという結論に至った。






「わ、ラニラニ! 水の音……あっち! 川あるよ川!」


「ちょっ……落ち着いて。ちょっと枝葉が濃い……払おうか?」


「や、おれがやるよ。大丈夫」


「あっそのナイフね、魔力を吸って疑似刀身を伸ばす『お約束』なやつだから」


「そんな『お約束』お目にかかったことねぇよ!!」


「いやほんと気を付けて。ノワが本気で伸ばせば十三キロとか届きかねない」


「マジかよこわ」



 おっかなびっくり二、三度ナイフを振り、周囲の下草を何度か刈り払ったところで、魔力量の調整と『刃』の伸ばし方をだいたい掴んだようだ。

 やっぱり……彼女はすごい。魔力の総量だけじゃなく制御技術コントロールもずば抜けている。

 ボクがここまで自在に魔法を行使できるのも、ボクの縁者がひたすらに優れた人材だからに他ならない。


 優秀で、つよくて、優しくて……可愛い。

 義務感とか打算とかではなく、単純に本心からこの子の助けになりたいと思える。


 だからこそ、彼女の願いが現実のものとなるように……彼女の知名度と人気が少しでも上がるように、ボクは最善を尽くす。



「……いや、良いねここ。今度は水着でも持ってくる? 水着グラビア撮ろうよ」


「なッ!? そ、そんなのやらにゃいよ! ……でも、泳げるようにするのはアリかもね。着替える小屋みたいなのつくって、石とか動かして流れ穏やかにして」


「完全プライベートだもんね。……敷地境界もまだ先みたいだし、真っ裸で泳いでても大丈夫だよ。夜営にももってこいだ」


「マッパはやだ!! ……でも、ここで一晩過ごすのは気持ち良さそう。…………あっ、写真! 撮らなきゃ!」



 川の真ん中あたりに鎮座する大岩の上に飛び乗り、気分が高揚してきたらしいノワは可愛らしくポーズをとる。

 ボクはそんな彼女を写真に収めながら、同時に本来の役割もきちんとこなしていく。ふざけるのは自分の仕事をこなしてからだ。やるべきことをやらずに欲望を優先するなんて唾棄すべきことだ。


 川のおおまかな形状や幅、水流量や周辺の地形。必要と思われる情報を写真で、ときには音声メモを用いて記録していく。

 規模的には……川というよりは『沢』と呼称するほうが近いかもしれない。幅はいちメートルから広いところでもメートル程度。そのまま浸かってもノワの膝くらいまでだろう。とても泳ぐには至らない。

 しかし……あたりの岸辺は、今でこそ低木や下草が繁茂しているが、そこそこの広さの平地が確保できそうだ。拠点として整備するのも、水を引き込み遊泳地を造るのも、やろうと思えば充分可能なスペースはある。



「……んん。だいたいメモった。ラニも良い?」


「オッケーだよ。じゃあ次どっち行く?」


「結構入ってきたからなぁ……そらそろお昼近いし、一旦引き返そう。んで午後からは別の方向行ってみようか。おうちの近場から探ってく形で」


「了解。……足下気を付けてね。帰りは登りだよ」


「ありがと、大丈夫。……タイツと靴がめっちゃつよい」



 ボクの所持品が可愛い彼女の助けとなれたなら、ボクとしても非常に嬉しい。

 楽しそうな笑みを浮かべながらひょこひょこと踏み入っていく彼女に続いて、ボクもひとたびの帰路についた。



 かえったらお昼ごはん。キリちゃん特製のおいしい『オヤコドン』が待っている!



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