第165話 【披露配信】おまたせしました!



ヘィリィこんにちわ! 親愛なる人間種諸君! 今日も一日お疲れさまです。魔法情報局『のわめでぃあ』局長、かわいいエルフの木乃若芽きのわかめでっす! やー!」


「おなじく『のわめでぃあ』技術アシスタント兼局長補佐兼その他いろいろ、かわいい妖精種のシラタニだよ! やー!!」



『へぃりぃ!』『かわいい』『へぃりぃ!!』『待ってた』『は?かわいいが??』『はじまた』『ヘィリィ!!』『癒したすかる』『ママ……』『ヤーかわいい』『のわちゃの笑顔すき』『かわいい』『やーかわいい』『ラニちゃん見えそ』



 いつものように軽快なオープニングBGMを流し、新しくなったスタジオの壁に背景映像を【投射】し、親愛なる視聴者さんたちへと笑顔を振り撒く。

 改めまして、こんばんわ。一月六日月曜日、時刻は二十時を回ったところです。


 定例配信ではないイレギュラー気味のライブ配信ということもあり、視聴者さんが来てくれるか内心不安ではあったのだが……早めのSNSつぶやいたー告知が功を奏したのか、いつもと変わらないくらいの閲覧者数から始めることができた。

 ……いや、むしろいつもよりやや多い説まであるぞ。



「まず皆様にご報告、というかお礼というか……恐らくはこの画面のちょっと下、概要欄のあたりに記載されてるかと思うんですけど……あの、えっと、あの、あのですね、あの」


「お、落ち着いてノワ」



『どういたしまして』『すごい』『どもるとこかわいい』『なるほどね?』『今夜はお赤飯ね』『すげいよなぁ……』『ママがんばって』『やりやがった』『おめでとう!!』『すごい!!!』『敏腕局長わかめちゃんママ』



「ッスゥーー……はい、ありがとうございます。……あのですね、わが『のわめでぃあ』のチャンネル登録者数がですね……な、な、なな、なんと! 一万人を(大きく)突破いたしました!! 皆様ありがとうございます!!」


「いぇーい! みんなありがとう!!」



『おめでとう!!!』『おめでと!!!!』『ママおめでとう!!』『一ヶ月で一万はすごい』『おめでとう!!』『もう一万七千なんだよなぁ……』『わかめちゃんすごい』『だいたい切り抜き動画のせい』『ラニちゃん効果』『OMEDETO!!!』『しこしこ動画のせい』『おめでとう!!』『おめでてぇてぇ』




 今日のライブ配信を行うにあたり、ユーザーページからここ数日の各種数字を眺めていたのだが……とりあえず登録者数が五桁に達していたところで目を見開き、しかも千の桁がもう後半になってたことに軽く取り乱した。

 慌ててモリアキに音声通話を繋ぎ、騒ぎを聞き付けてきたラニと霧衣きりえちゃんとひとしきり興奮してはしゃぎまわったのは記憶に新しい。……まあ今日のお昼のことだもんね。


 それで、いったいなぜこの短期間で一万近くも増えたのかと気になったわけだが……パラメーター解析ページとSNSつぶやいたーと、おまけにラニが持ってきた謎情報を統合したところ……どうやら、おれの声を使った……その…………淫靡な雰囲気のまとめ動画が、ひとつの原因らしかった。

 白谷さん演出によるあの会のライブ配信、そこで発言させられた『そういうふうに取れる発言』を『そういうふうな雰囲気』に仕立て上げた逸品。元凶である白谷さんも中々だけど、実際に動画にするやつも絶対ロクなヤツじゃない。

 しかしそれでも……我が身のことながら可愛らしく、それでいてセクシーに纏められていた動画の完成度は……ぶっちゃけかなり高かった。くやしい。


 それと加えて、もう一つの大きな要因として考えられるのが……どうやら海外からのアクセス数がものすごい勢いで伸びてきているらしいということ。

 モリアキの話にあった……なんだっけ、ドスケベフェアリーガールシラタニだっけ。そんな感じの海外ニキネキに『モーニングルーティーン』動画が受け、そこからおれの見た目に興味を引かれてチャンネル登録してくれて、おまけに彼らの間のクチコミでじわじわ広がってくれた……という形らしい。

 特にセリフや語りが無くても楽しめる動画だったからこそ、言語の壁を越えて受け入れて貰えたということだろうか。英語タグ仕込んどいてよかった。


 ……なので。



「……こほん。失礼しますね。Dear viewers. Thank you so much for your support of our channel. I'm very happy to say that we reached 17,000 reviews in about a month.」


「えーっと……『親愛なる視聴者の皆様。私達のチャンネルを支援してくれて、本当にありがとうございます。約一ヶ月で一万七千もの評価に届いたことは、とても嬉しく思っています』だね」



『!!?』『つっよ』『は?』『なんて?』『Whoa!!?』『AHHHHHHH!!!!』『wtf!!!』『まじか』『What the heaven!!!』『Woohoo!!!』『かしこい』『グローバルロリエルフ……』『Thank you so much too!!』『Mum!! I love it!!!』『歓喜の雄叫びが』『ほええ』




 もしかしたら、といった希望的観測から企んだ一計だったが、どうやらなかなか覿面な効果を発揮してくれたらしい。

 慣れ親しんだ言語での挨拶を受け、海の向こうの視聴者さんたちは喜びの声を聞かせてくれた。


 せっかくに声を届ける技術があるのに、それを使わないのは勿体無い。動画のほうには字幕設定を行えば良いんだろうけど、ライブ配信はそうはいかない。

 海の向こうからわざわざおれのチャンネルに興味を持ち、時差もあるだろうにわざわざ繋いでくれているのだ。……せっかくなら、彼らにも楽しんでほしい。



「じゃあ、ここからはボクが。……えっとね、今日の配信はみんなに『お知らせ』があってね。……っていうか、もうどこかで知ってるヒトも居るかもしれないけど……実はわが『のわめでぃあ』に、新しい仲間が加わります!!」


「はい。それでは失礼して。Our viewers, we have an announcement for you today. We're delighted to announce the addition of a new member to our "Nowa-Medias"!!」



 お知らせを告げ、様々な言語で沸き上がるコメント欄を満足げに眺めながら、おれは何気ない動作でカメラの死角でカチコチにこわばるメインゲストの和装美少女へと視線を送る。

 リハーサルは充分に行ったし、本番前には【鎮静ルーフィア】もばっちり掛けておいたのだが……やはり初めてのライブ配信、不安の方が大きいのだろう。


 だが……それでも、瞳に秘められた強い意思は揺るがない。

 おれたちの助けになりたいと、彼女自信が言ってくれたこと……そこに揺らぎは見られない。


 ……だから、心配は要らない。




「……ではお待たせしました! 登場していただきましょう……どうぞ!」



 さあ、視聴者諸君。度肝を抜かれるがいい。

 この『かわいい』を前に、果たして平静でいられるかな!


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