第149話 【識者会議】お願いがあります



 へぃりぃ。おはようございます、視聴者のみなさん。

 実在エルフ美少女仮想配信者URーキャスター、魔法放送局『のわめでぃあ』局長の木乃若芽きのわかめです。

 本日わたしたちはですね……ほんの少し前にハチャメチャにお世話になりました、浪越市なみこし神宮区かみやく鶴城つるぎ神宮へとお邪魔しております。


 というのもですね、本日のご訪問ですが……主な目的は二つありまして。

 報酬として賜ったお屋敷の権利に関してと、霧衣きりえちゃんの『のわめでぃあ』出演依頼と……取り急ぎこの二点を片付けるため、リョウエイさんとの面会を取り付けたわけでございますが……





「おう。良く来たな我が縁者…………んん? 何だそのカオは」


「エッ!? なっ、ちょっ……いえ、その……どうして、ここに」


「……何を言って居る。此処ココは我が鶴城ツルギの宮ぞ? ワレの宮中にてワレが姿を現すことの何が悪い。……ソレとも何か、ワレに聞かれて困る悪巧わるだくみでも企てる心算つもりか?」


「いえいえいえそんなそんなそんなめめめめ滅相もございません!!」


「ぇえ、ウッソでしょ……神様カミサマがこんな身近でいいの……ぇええ」




 どこか疲れたような顔のリョウエイさんと一緒に現れたのは……簡素ながらも神々しい衣とどう見ても只者ではない雰囲気を纏った、勝ち気な表情を湛える少年。

 この神域の主にして、日本でも屈指の知名度と信仰を誇る『剣神』フツノ、そのひとである。


 まさかお会いするとは思ってもみなかった、そのままの意味でお方を目の前に……おれは思いっきり緊張しブルッてるし、ラニに至ってはなんだか頭を抱えてしまっている。

 つい最近まで依代シロとしてここで暮らしていた霧衣きりえちゃんだけが、若干緊張した面持ちながらも平静を保っていられたようだった。



「まァまァまァ、座るがいい客人共よ。些末事は気にするな。……我は只の、貴様らの邪魔をする心算つもりは無い。居ないモノとして扱うが良い」


「さ、さすがにソレは無理だと思います……」


「……済まないね、若芽ワカメ殿。僕らも立場上…………御方おかたにだけは、どうしても逆らえないから」


「えっと、あの……いえ。…………大丈夫……です」


!」



 胡坐あぐらを組んで上体を反らし、いったい何がそんなに面白いのか屈託の無い笑みを浮かべる鶴城ツルギの神様……ツッコミたい所は沢山あるのだが、このままだといつまでたっても話が進められない。

 正直言って割り切ることは難しいのだが……お言葉に甘えてあまり気にしないようにして、こちらの話を進めさせてもらおうと思う。


 ……あっ、マガラさんお茶ありがとうございます。




「……して? 天繰テグリめに会いあの館を見たのであろ。如何どうだ? 気に入ったか?」


「アッ……えっ、えっと、その……………率直に言って、とても魅力的だと感じました。……周辺環境的にも、間取り的にも……インフラ環境的にも」


! そうかそうか! それは良い! ……して、何だ? 大方『さすがにアレを貰い受けるは気が引ける』……とったところか?」


「!!? えっ!? そんな……読心術!?」


たわけ。『術』に頼らずともの程度、人間ヒトカオを何千年も眺め続けて居れば造作ぞうさも無いわ。……まぁ尤も、貴様の場合は殊更ことさら解り易くは在ったが」


「わあああーーーんラニぃーーーー!!」


「あぁ……よしよし、しかたないなぁわかめちゃんは……」




 別の世界から来た美少女妖精に、未来の世界から来た猫型ロボットのような慰め方をされる。みじめだとは思わない。だってラニちゃんは可愛いから。

 しかし一方で、長年に渡って人間ヒトを見続けていたという点は事実なのだろう。やっぱり神様はつくづく得体の知れない存在であると、おれは再認識することとなった。


 とはいえ……こちらの理解者となってくれているならば、心強いことこの上ない。おれの内心を当てられたのはシャクだというか泣きそうになるが、事情を察してくれているというのならば話が早い。



「いくら報酬とはいえ……あんなに高価なものを頂くのは、さすがに気が引けてしまうというか…………えっと、ぶっちゃけますと贈与税とか市民税とか固定資産税とか、そのあたりの処理が気になるっていうか……おれそのあたりの知識無いですし」


「うーん…………物件そのものの価値が然程さほどでも無いから、税に関してはあまり心配は要らないかと思ったんだけど……まぁ不動産や収税関係は面倒だからねぇ、若芽殿が不安だとう気持ちも解る」


「ならば貸借で良いのではないか? 要は『譲渡』で無ければ気にならんので在ろ? 贈与に纏わる面倒事も霧消しよう。ソレで貴様の気が済むので在れば、易いものよ」


「あぁ、確かに。しくは……所有権を霧衣キリエに授けるのは? これならば実質的に若芽殿が所有出来ましょう」


「ふゥむ……ほどな。何だ、如何様いかようにも出来るでは無いか」




 おぉ……最初は『うわマジかよ何で居るのこのヒト』と思っていたけど……最高責任者であるフツノ様みずから改善案を提案してくれるとあっては、さすがに話の進みが早い。あっけに取られるおれたちの目の前で、あれよあれよという間に具体的な解決策が組み上げられていく。

 しかもそれらは決して絵空事を言っているわけではなく、ちゃんとおれの意図を汲んでくれているというのがすごい。なんだかんだで味方になってくれるこの神様、やっぱり非常に好感が持てる。


 お陰さまで……この分ならば、思っていたほど時間は掛からなさそうだ。



「うむ、概ね纏まったな。後で蓬乾ホウケンに回しておけ。我が名を出して構わぬ」


ソレは非常に助かります。僕もつい先日コッテリ絞られたばかりですので。…………じゃあ、議題一つ目は取り敢えず大丈夫かな」


「アッ、えっと……ハイ。ありがとうございます。……それでですね、もうひとつのご相談なんですけど」



 ふたつめのご相談。それはこの霧衣きりえちゃん……鶴城神宮の面々が可愛がってきた狗耳少女を、わが放送局チャンネルの出演者として起用させていただくことは可能か……というご相談だ。




「…………つまりは……何だ? 霧衣キリエに貴様の演目を手伝わせるに、我の言葉が必要……と?」


「えっと……はい。フツノさまに許可を頂けるなら手伝っても良いと、霧衣きりえちゃんには同意をもらってますので……」


「…………成る程な。後は我の許可次第、と云う事か」


「……はい。……いかがでしょう、フツノさま」


呵々カカ! 見くびるでない」



 からからと笑う神様の表情に、おれは勝利を確信した。

 そうだ、そもそもこの神様はなんだかんだいって身内に甘い……立ち振舞いとは裏腹にとても優しいかたなのだ。


 彼の表情に引かれるように頬の緩んだおれの顔は……しかし。





「我は『許可』など出さぬ。認識を改めよ」


「…………………………えっ?」




 一瞬のうちに真顔へと変貌したフツノさまの、底冷えするような声色によって……心臓を鷲掴みにされたような悪寒に見舞われることとなった。



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