第120話 【補足事項】延長入りました!!



 そこからは……とりあえずの契約期間である元日の夕方まで、おおよそ丸一日。

 おれと霧衣きりえちゃんは小さくたって高性能、獅子奮迅・一騎当千・八面六臂の大活躍だった。ちょっとドヤッとしそうになる。



 ……というわけで。

 一月一日、おれが鶴城さんに貢献した活躍の数々を、ダイジェストでお届けしよう。



 まずは、SNSつぶやいたーでの宣伝告知に対するリアクション。

 ありがたいことにおれの宣伝工作は功を奏し、『来てくれたら嬉しいなぁ』くらいの気持ちいでいた視聴者さんたちが、なんと結構な人数参拝に訪れてくれたのだ。

 時期が時期だけに、また場所が場所だけに、長々とお話しすることは出来なかったが……「へぃりぃ!」「SNSやいたー見て来ました!」「局長さんお疲れ様!」などと一言添えてくれる参拝者さんが、思っていた以上にたくさん会いに来てくれた。


 正直言ってとても嬉しかったので、嘘偽りの無い心からの笑顔が自然と湧いて出ていたことだろう。そのときの嬉しさといったら……頒布物の授与のときに、思わず視聴者さんの手を握ってしまうくらいだ。

 もっと言うと、握ったままブンブン上下に振って『ありがとうございます!!』を連呼したかったとこだけど……お守りとか縁起物の『頒布』は厳密に言うと『物販』なんかとは異なるため、『(お買い上げ)ありがとうございます』の類いの言葉を使うのは良くないらしい。霧衣きりえちゃん先輩が言ってた。


 なので……せめて感謝の意を少しでも伝えられるよう、ほんの一瞬とはいえちゃんと手を握って、心を込めて『良い一年でありますように』を告げていく。

 神社のしきたりもあり、すぐそこで神様が睨みを利かせている状況と在っては、いろいろと自由が少ないことがよくわかったので……次はもっと、こう、ダイレクトに感謝の意を伝えられるような方法も考えたいと思った。

 ……っていうかフツノさま仕事しろよ。



『ねぇ神様、サボってないで仕事したら? ってノワが』


「ちょっ!? …………ン゛ンっ」


『失礼な奴よ。の『我』は写身うつしみが一つに過ぎぬ。……見くびるな、歳始めの儀に我が子ないがしろにする神が居ようか』


(ァッ、えっと、その……スマセン。ハイ)


『ごめんなさい、だって。神様』


! 理解わかれば良い。ホレ、異国からの旅人だ。貴様の出番だぞ』


(はひ……がんばりマス……)



 なんていう一幕があったりもしたんだけど……本当にこの妖精さんは。




 そうだそうだ。あとはやっぱりなんといっても……授与所窓口での通訳対応だろう。


 神職にあって外国語に堪能な方々は、総じて神宮各所の重要処を任されており……この授与所にも一名配されていたのだが、残念なことに全く手が足りていなかった。

 助勤アルバイトの巫女さん達はほとんどが若い学生さんで、英語はせいぜい学校の授業で習った程度。こちらも残念だが、いきなりの実戦投入はちょっと厳しかったようだ。


 そも、ジャパニーズトラディショナルシュラインで迎えるニューイヤーフェスは、昨今のインバウンド需要の中でもなかなかインポータントなマターであるらしい。

 フォーリンカントリーからのカスタマーをアテンドするにあたって、やはり彼らのメインランゲージでのコミュニケーションを試みることはプライオリティが高く、重要なファクターであると判断できよう。

 おれが通訳としてカスタマーとコミュニケーションを図ることで彼らのニーズに的確にコミットできる上、品揃え豊富な頒布物のディテールもスムーズにエクスプレインすることが出来る。つまりはこの授与所と鶴城神宮にとって、大きなベネフィットとなるベストプラクティスなのだ。



『えー、っと…………日本語でおk』



 ……うん、まぁ、要するに。

 おれであれば海外からのお客様に不自由させることなく、ほぼほぼ彼らの母国語で案内することが出来るのだ。

 漢字が読めない彼らにとって、希望通りの用途のお守りを選ぶことは極めて困難だろう。一つ一つ効能を説明、あるいはどんな用途で求めているのかをヒアリングし、適切な縁起物を提案する。

 やはり言葉が通じることの安心感は半端無いらしく、皆めちゃくちゃ喜んでくれた。……ふへへ。


 しかし……幾つかの外国言語の知識があることは理解していたが、通訳業務はぶっつけ本番だった。

 おまけにおれの通訳スキルが英語や中国語といったメインどころに限らず、フランス語・スペイン語・ドイツ語・ベトナム語・イタリア語・タガログ語などなどにまで対応していたのは……ちょっと、我ながらビビった。

 叡智のエルフは伊達じゃないな。さすがは世界ランク二桁位の実力者だ。

 ……この代償が、あの悲惨な結果を残す原因となったクソザコフィジカルか。ここまでハイスペックな語学力とトレードオフなら……まぁ、仕方無いか。




 あとは……おれが休憩に入ろうかというタイミングで、忙しいだろうにリョウエイさんがわざわざ足を運んでくれた。

 さすがに疲れが見え始めていた霧衣きりえちゃんは先に休憩室に入らせ、彼女を除いて二人(とラニとプチフツノさま)で話の場を設ける形となった。


 いわく『やっぱり直接謝罪しておかないと』とのことであり……ここに来て今回の、依代シロ改め霧衣きりえちゃんを巡っての思惑と計画の全貌を、改めて知らされることとなったのだ。


 とはいっても、話の大筋は既にフツノさまから伝えられていた。

 『シロちゃん』の神力を全喪失させることを避けたいがために、魔力の供給元としておれを利用したという……極めて端的に、身も蓋もない表現を取るとすれば、大変身勝手な話なのだ。

 ……だが、まぁ……今回こういう手段を選ばざるを得なかった理由……霧衣きりえちゃんに対する心配りも、ちゃんと包み隠さず教えてくれた。



 まず歴代『依代シロ』さんたちのような、国の職員としての第二の人生。……結論から言えば、あれ霧衣きりえちゃんのような幼い子に適用するのは少々難しかったらしい。

 既に大人の年齢に達している『依代シロ』さんであれば、一人世帯として戸籍をほにゃほにゃすることも容易みたいだが……霧衣きりえちゃんみたいな無垢で世間知らずでバチクソ可愛いくて幼い娘を放り出すには、さすがに不安が大きかったとのこと。

 人間年齢換算で十三歳程度、初等教育をようやく終えたあたりだという。……そりゃ確かに不安だわ。


 ……なので、しばらくの間。可能であれば、霧衣きりえちゃんが神使の保護者の手を離れ、成人として自立できるようになるまで。

 ある程度の期間を定め、信頼のおける協力者のもとでヒトとしての生活を送らせたい……とのことだ。



 そもそも、霧衣きりえちゃんの実戦投入は十年単位で先のことと想定されていた。今回彼女が『御役目』を務めたこと自体が、まずもって想定外だったとのこと。

 本来今日このとき鶴城つるぎに配備されていたはずのベテランの『依代シロ』さんは……なんと現在、東京に出張中らしい。

 昨今の国際情勢が不安定で混迷を極める中での年越祭事ということで大々的に執り行うため、また主神のみならず相添神にも直々のお世話係を付けるため……と、全国から応援がかき集められたのだという。

 鶴城つるぎさんには『依代シロ』として霧衣きりえちゃんが居たため真っ先に目をつけられ『まさか御役目実戦投入があるわけでも無いし、お世話係ならでもこなせるだろ。ベテランこっちに貸せ。こちとら首都東京様やぞ』との御意見が押し通されてしまったらしい。


 そのの事態、神様自ら出陣するような事態に陥ろうなんて、この平和な国では確かに全く想定外だったとはいえ……首都最優先・地方蔑視思考の一端を垣間見てしまったようで、なんだか世知辛い。



「まぁ実際、あちら様の無理を飲まされてコッチは被害を被った訳だからね。むしれるだけの補填はむしり取る心算つもりだよ、……アイツら最近ちょっと調子乗ってるからね」


『然り。奴等の見栄の為に我等が不便を被る等、そもそもが気に喰わぬ話よ。此所ここらで灸を据えて遣らねばなるまい』



 ……垣間見たくもなかった関係性を垣間見てしまいながらも、今後鶴城つるぎさんの人員体制に穴が開いたりはしないみたいだとわかり、とりあえずはほっとした。



 まぁ、諸般の理由は理解したけど。

 なら最初からすべて相談してくれればよかったのに、とも思ったのだが……そこはなんとも神様らしい、身勝手な理屈で押し通されてしまった。



依代シロを使う事態コトとならぬのが最善であったが、な。此方コチラの事情をあずかり知らぬ貴様が、の上でみずから我が縁者と縁を結んだ……と云う事実が必要なのだ。『我等が鶴城つるぎを深き縁を結ぶべき相手であると、貴様が自らの意思で選んだ』と云う事実がな』


「要するに……他の神様にマウント取りたいわけだ、布都フツノ様は。『ワカメ殿は鶴城つるぎを選んだぜ、どうだ羨ましいだろザマァミロ』って」


「ざ、ザマァミロ……」



 この世界この国この時代に、奇跡魔法起こせる使えるほどの神力魔力をもった人間なんていうのは……たぶん、ほとんど存在しない。エルフとなったおれを『人間』とカウントしていいのかは解らないけど、神族ではない一般人という意味では該当するだろう。

 そんな『例外』ともいえる存在であるおれは、今後増えていくであろうわざわい……『苗』に対処するにあたって、極めて有効な手札となるらしい。神様たちのコミュニティの中でも、ちょっとした『話題のひと』なのだとか。


 そんな話題性をもつおれを、自陣営に引き入れることが出来たとなれば。

 しかもほかでもない、おれ本人がそう望んだのだとあれば。……なるほど確かに、フツノさまにとっては自慢できること……になるのだろうか。


 ま、まぁ……つまりはていよく利用されただけだともいえるのだが……おれだってちゃんとは頂けることになっているし、理不尽で一方的な要求というわけでもない。

 当事者であるおれや霧衣きりえちゃんが納得しているので、問題ないということにしよう。




 …………というわけで、この話題はこれでいい。問題ないということにしたので、問題ない。

 問題だったのは……リョウエイさんが持ち込んだ、もう一点の話題。


 これにはさすがのおれも、顔がひきつるのを自覚せざるを得なかった。



「つまり、だ。ワカメ殿の風貌と仕事ぶり……特に語学力が、ちょっと各方面で絶賛されててね。実際我々も非常に助かってるし、お陰様で命拾いしてるところもあるし……となると、恥ずかしながら明日以降がかなり不安でね」


「………………というと、つまり」


「…………三が日の間、延長お願い出来ないかな」


「やっぱりかー」



 はははは。そうだろうそうだろう。なんてったって、おれはやるからには全力でご奉仕させて頂いたのだ。

 研修期間数日の見習い巫女エルフとはいえ、手際の良さではこの授与所で一・二を争うレベルだという自覚はある。それに加えての完璧な通訳業務、更には非常識なほど可愛い容姿ときたもんだ。

 容姿端麗、才色兼備。リョウエイさんや他の管理職の方にとっては、そりゃもう喉から手が出るほど欲しい人材として映っているだろう。……だってそうなるよう頑張ったもん。



「いや、無理を言ってるのは承知してる。……延長の二日間は、時間単価五割増しでどうだろうか」


『もう一声。本来の業務に加えて通訳も任せるつもりなんだろ? ノワの働きっぷりは頒布だけでも軽く二人分以上はこなしてる筈だよ。七割』


いやソレは認められぬな。劣悪な待遇を強いるようでは我が鶴城ツルギの沽券に関わろう。倍だ。倍出せ龍影リョウエイ


『がんばろノワ! 気力と体力の回復ならボクがなんとかする! SNSの告知もボクが引き受けるからさ!!』


「う、うん…………まぁ、そこまでいうなら……」


「…………恩に着る。……まぁ、布都フツノ様直々の指示だ……勘定方も納得するだろう」




 おれの正月三が日は鶴城さんからの熱烈なラブコールによって、こうして働きづめとなることが確定し……


 この三日間だけで本業(まだ収益支援プログラム未対応)が軽く霞むくらいの収入を得ることとなり……



 おれは自分の存在意義について、しばし自問自答する羽目になった。



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