第119話 【補足事項】神様のキャリアプラン
「ほんっと! 神様もひとが悪いよ!
『まァ
「えっと…………わたくしは、ワカメ様に拾っていただけて……その、とても嬉しく思って居りまする」
「………………んフフ……えへへ」
『あぁ、ノワ……キミって…………やっぱチョロいよね』
『チョロいな』
「うるさいな! このマスコットどもが!!」
日付が変わって早々たたみ掛けられた怒濤の第一波を凌ぎきり、おれとシロちゃん……改め、
おれは日付が変わる前にもちょこっと参戦していたので、そろそろいい感じに慣れて来た感覚がある。
とはいえなにぶんかなりの長丁場、しかも夜勤込みになるので……同僚の
時間の経過と共に疲労は蓄積していくだろうし、彼女たちはまだ若い。中には未成年の子だって居るのだ、泣き言が出たって当然責められることではない。
だが……一方で。おれが
前職は八時から十時まで働いて、小休憩
おれの元・職場は、それが二週間ごとでローテーションしていた。昼勤二週間のあとに夜勤も同様に二週間、それぞれ丸十二時間ズレるタイムテーブルとなる。おかげで夜勤にも適応できる身体になったわけだが……こんなところでそのときの経験が役に立つとは。
つまりは、まぁ…………あんまり疲れていないのだ、おれは。
だからこそこうして『一般人には見えないから』ってはしゃぎ回っている
一方で
「じゃあ、なに? 今まで『お役目』を終えた先輩シロさんたちは……今もふつうに、ばっちり生きてるの?」
『応とも。大抵は国の職員……『神社庁』とか云ったか? 籍を適当に
「せ、籍を適当に
『
「え……ぇえぇ? じゃあなに、おれってばつまり……単にワガママをゴリ押して、転職とキャリアアップの邪魔しちゃっただけ……っていう?」
『
休憩室として割り当てられた大広間の手前。そこかしこに慌ただしく関係者が往来する廊下の片隅にて、おれたちは長椅子に腰掛け言葉を交わしていた。
顎に手を当てて、落ち着いて記憶を掘り起こしてみると……確かに、『神力(=魔力)の供給は途絶える』とは言っていたが、それが『死亡』に繋がるとは一言も言っていない。
『
お役目を終えたシロちゃんが死んでしまうと早合点して、その後に用意されていた彼女のための人生プランを部外者に
「ごめんシロちゃん!! ……じゃない!
「おっ、お顔をお上げくださいワカメ様! 此度はわたくしが自ら選んだことにございまする! 微塵も後悔して居りませぬ!」
「ヴゥッ……ぎりえぢゃん……!!」
『はいはいご馳走様。やったねノワ。家族が増えるよ』
『
聞くところによると……フツノさまがシロちゃんの身体を使用し出陣することを決めたのは、おれがリョウエイさんに対処を依頼される直前の出来事だったという。
フツノさまにしてみても、可能であればシロちゃんを使いたくは無かったのだろう。『おれにどうにか勝利してほしい』という考えは嘘偽りないものだっただろうし、だからこそリョウエイさんに『カクリヨ』の行使権を預けたり『豊穣』の御守りを回してくれたりと、至らぬおれのフォローをしてくれていたのだろう。……まぁ結局おれの手には負えなかったんだけど。
彼女は依代(厳密には候補)としてのお役目に加えて、鶴城神宮の内務も幾らか請け負っていたとのこと。神使として『裏』の業務に通じつつ、チカマ宮司との連絡を請け負ったりと『表』の方々とも関わりがある。
いくら命を落とすことが無いとはいえ、神力を喪っては『裏』の方々と接することが出来なくなってしまうため、鶴城神宮がわとしても苦渋の決断だった……らしい。
そこへ来てふらりと現れたのが、何を隠そうこの世界で(たぶん)唯一のエルフ種である、おれだ。途方もない
おれと魂の契約を結び、おれの持つ魔力を授かる妖精種族……白谷さんの存在が決め手となった……らしい。
加えて、ほかでもないシロちゃ……
おれの人となりを観察していく上で……身内として抱き込むことのメリットが多いと判断されたこと。
というか……
『まァ……順は
「多少? ねぇ多少?」
『年始の祭事が片付いたら、あの娘の当面の生活費と……そうさな。此度の報酬に加えて、
「えっ!? そっち!? いや、嬉しいけど……あの、『ごめん』とかそういうのは」
『
「ぇえ……ブレないなぁ神様……」
……まぁ、おれとしても失ったものが特にあるわけでも、何か被害を被ったわけでも無い。
一回軽く死にかけたとはいえ、それはおれがこの副業を続ける限り避けられない危険なのだ。鶴城さんのせいでは無い。
おれ抜きで話を進められていたという点も……リョウエイさんからはちゃんと謝罪の言葉を貰ったし、結局のところおれも同じ結末を選択したのだ。
「えっと……で、では……ワカメ様」
「んへ?」
「ふつっ、
「…………んっ。よろしくね、キリエちゃん」
「……っ、はい!」
『まぁ……とりあえずは、この繁忙期を乗り越えないとね』
『
「うへぇ…………がんばります……」
あぁ……そうだ。そうとも。
おれたちの長い長い戦いは、まだまだ始まったばかりなのだ。
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