第106話 【配信終了】反省会はじめ
金曜の夜、およそ二時間の長丁場。ひと仕事終えて全身の力を抜いたおれは、とりあえず巫女装束を脱いで楽な部屋着へと着替えていた。
ハンガーに掛けた巫女装束一式は、白谷さんがひとつひとつていねいに【
とりあえず
とりあえずは以上をもって、今日の対外的おつとめはすべて終了したこととなる。おれは昂っていた心を鎮めるため、レンチンしたホットミルクをちびちびと
「巫女服、ありがとね白谷さん。ホットミルク飲む?」
「飲む飲む。こっちのミルクって臭みが無いし、めっちゃおいしいんだよね」
「ほへぇ、そうなんだ? 火傷しないようにね」
白谷さん専用のマグカップ(というか、喫茶店とかでコーヒーに入れる別添ミルクを提供するときの、あのちっちゃい器)でおれのカップからホットミルクを汲んで、周りを除菌タオルでぐるりとぬぐってから白谷さんへ渡す。
ちょっとお行儀の悪い注ぎ方だ、という認識はあるのだが……あの小さい器に牛乳パックから注ぐのは至難の技だし、あの器だとレンチンの加減も難しいので仕方無い。あの少なさでは一瞬で沸騰してしまう。
白谷さん本人も納得してくれてるので、おれたちはこれで良いのだ。
それにしても、あの器……ああもう、いいや。ラニカップを両手で抱えて、ちびちびとミルクを飲む妖精さん。
控え目に言って、クソ
「とりあえず……九十五点かな」
「んぐっ、こくん……ぷゃっ。……そうお? ボクは百点満点だったと思うけど」
「内容はほぼほぼ問題なかったし、満点だと思うんだけどね……時間が」
「あぁ、急遽日本語版のも増やしたやつね。ちょっとびっくりしたけど……まぁ、確かに
「そうなんだよね。……なんかね、なんかわかんないけど……今入れなきゃいけないような気がしたんだよなぁ、『蛍の光』」
おうたのコーナーを最後に持ってくることは予定調和だったが……メロディラインは同一とはいえ、二曲分披露するのは少々予定外だった。
二曲目の『蛍の光』とその歌詞解説が追加された分、事前に立てておいたタイムスケジュールからそれだけ逸脱することとなってしまい……配信動画の尺も、百二十分に収めることが出来なかったのだ。
ただまぁ……逆に言えば、
完全個人勢のおれは企業の雇われ
そもそもペナルティなんか生じるはずも無いし、時間超過分の割り増し費用が生じるわけでもない。ぶっちゃけ軽く数時間超過しても、本来何も問題は無いのだ(体力面を除く)。
予定していた時間通りに収まらなかったというのは、完全におれの独りよがりに過ぎない……不要なこだわり部分なのだろう。
「まぁでも、概ね良い感じの内容だったね。視聴者さんの反応も上々……ふふふ、よかったねラニ。可愛いって」
「当然。ノワとモリアキ氏が手掛けた『白谷さん』だもんね」
「モリアキ神マジぱないよな……っと。…………やっぱだ。『二人ともお疲れ様! 今日もかわいかったっすよ!』だって。噂のモリアキ神から」
「おお、律儀だね彼も。……彼からもお叱りが無いなら、やっぱ何も問題無いんだよ。良く頑張った」
「えへへ…………」
金曜夜の生配信を乗り切り、明日からは三日連続で動画投稿の予定だ。
動画そのものの完成度は、現段階で八割ほど。朝起きて作業に取りかかれば……うん、昼頃には完成させられるだろう。
投稿予定時刻は、とりあえず十七時頃を目処に考えている。時間的スケジュール的にも問題は無さそうだ。
…………なので。
「よし……とりあえずお風呂はいって寝よう。もう夜遅いよ、零時なっちゃう」
「そうだね。背中流すよ」
「んぅ…………じゃあ、お願いしよっかな」
「まーかせて。なんなら前も洗おっか?」
「そッ!!? それわ丁重にこことわりします!!」
「遠慮しなくて良いのに~」
そんなとりとめのない会話を交わしつつ、お湯張りスイッチを押す。お風呂に入れるようになるまで二十分程度は時間があるので、飲み干したホットミルクのカップを洗ってしまう。
以前であれば、当然だがこの部屋の住人は……おれ一人。
ほほえましく暖かい会話を交わす相手も居なかったし、洗い物をしながらこんなにニコニコ顔になることも無かっただろう。
……単身向け物件の貸借契約上、同居人との同居が問題になる可能性は無きにしもあらずだが……まぁ、そこは今更だ。フェアリーだもんな。
人間種の法律がそのまま適応されるとは思えないし……要するに、バレなければ良かろうなのだ!
「ねぇノワ、パンツこれでいい? ピンク」
「やだよ青がいい! ピンクなんてそんなガーリーな!」
「ガーリーも何も……ノワは可愛いエルフガールじゃない。いい加減諦めたら?」
「そう簡単には諦めません!! おれはブルーがいいの!! ブルーは男の子の色なの!! だからおれは男の子!! いいね!!」
「はいはい。かわいいブルーのおんなのこショーツね。わかったわかった」
「きぃぃぃぃ!!」
……少々、いたずらっぽくて掴み所がないところがあるとはいえ。
日常生活を程よく依存でき、ときに助け助けられ、苦楽を共にできる相棒がいるっていうのは……良いものだ。
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