第102話 【報告配信】年末年始業務のご案内




 一昔前の……まだ『動画配信者ユーキャスター』という職業が一般的では無く、今のような知名度も社会的立場も持ち合わせていなかった頃ははいかなかっただろうが。

 最近は自身の配信チャンネルから飛び出して、様々なイベントを企画したり大々的に企業と組んで活躍したりする動画配信者ユーキャスターも、決して珍しいことではない。


 おれは出自にかなりイレギュラーがあったとはいえ……仮想アンリアルの隠れみのを取っ払われた現在とあっては、駆け出しとはいえいち配信者キャスターである。

 さすがに、初心者であるおれが大手振ってイベント主催できるなんて、決して思っているわけじゃないが……『どこどこでアルバイトするので、よかったら来てね!』とアピールするくらいなら、特に問題は無いはずだ。

 というか……から告知の許可も貰ってるし。



「んふふふふ! いい反応ですね! わたしとしても嬉しいです! ……こほん。えー……そういうわけで! わたくし木乃若芽きのわかめ、初めてのアルバイトでございます!!」


「年末年始って、ものすっっごく混雑するらしいよ? 鶴城つるぎ神宮。……ノワ大丈夫? 潰されない? 迷子になっちゃわない?」


「大丈夫です! お姉さんですから! ちゃんと巫女さんのお仕事できますから! ……えっと、とりあえず確定事項としましては……大晦日から元日にかけて! 浪越市なみこし鶴城つるぎ神宮にて、わたくし木乃若芽きのわかめが巫女さんの助勤として出没します!」


「あくまでアルバイト……もとい、助勤? として、神宮のお仕事をお手伝いさせていただく形だね。ただあらかじめ言っておくけど、お仕事が優先だから……不馴れなノワは、正直あまり自由に動けないだろうと思われる。……そこはまぁ、色々と勘弁してあげてほしい」


「記念撮影……とか、何かそういうことが出来れば良かったんですけどね。鶴城つるぎさんにもご迷惑お掛けしてしまうので、今回は『はたらく若芽ちゃんが観察できるよ』ってことで、勘弁してください。すみません……」


「とはいっても……可愛いノワを直で観察できる機会だからね。どうせ初詣行くつもりなら、是非鶴城さんに……可愛いエルフの女の子が甲斐甲斐しく働く様子を、どうか観察しに行ってあげてほしい」


「はたらくよー! 巫女さんだよー!」



 一般的な動画配信者ユーキャスターさんたちが行うようなオフラインイベントとは大きく異なり……今回のおれのお披露目はあくまでもアルバイトであるため、正直なところ参加者に提供できる見返りは非常に少ない。

 さっき言ったように――需要があるかは謎だけども――記念撮影なんかに応じることも出来ないだろうし、一人一人とゆっくりお話しすることも難しいだろう。

 率直に言って……これを『イベント』と言い張るのは、いくらなんでも無理がある。顧客満足度の観点から鑑みてもたいへん不出来極まりない体たらくであり、こんなに大々的に告知するほどの内容とは言いがたい。


 ……だというのに。

 コメント欄に押し寄せる視聴者さんたちの『声』は……こんな情けないおれに対して、こんなにも優しい。

 今回は『鶴城つるぎ神宮境内に可能な限り多くの人々を招く』という目的ありきでの、多分に苦し紛れな企画だったが……視聴者の皆さんに楽しんでもらうことを念頭に置いたイベント企画とか、なにか恩返しできる催しを考えるべきだと思う。


 しかしまぁ、とりあえず先のことは保留しておこう。要検討リスト入りだ。

 とりあえずの目的である、鶴城つるぎ神宮への集客……視聴者さんの反応を窺う限りでは、その手応えはなかなかのようだ。



「おしごとの内容とか、当日の配置とか……そんな感じの公開できそうな情報が出ましたら、またSNSつぶやいたーでご報告しますので! …………更新頻度少ないってウワサの若芽ちゃんSNSつぶやいたーですが! 今後はちゃんとこまめにつぶやきしますので!!」


「がんばりすぎて体調崩さないようにね」


「大丈夫です! お姉さんですから!! 当日もわたしがんばりますので……皆さんぜひぜひお誘いあわせの上、初詣はつもうで鶴城つるぎさんで! 屋台もいっぱい出るって!!」


「おお、良いね! ヤキソバ食べようよヤキソバ」


「お仕事優先だって。それにラニひとりじゃ食べきれないでしょ? …………はんぶんこ、ね」


「ありがとノワ! 好き!!」


「んっ。…………えへへ」




 元々、見目麗しい女の子二人の絡みを想定してあったとはいえ……そのに引きずられたからじゃ無いだろうけど、白谷さんはことあるごとに『好きだよ』アピールをしてきてくれる。

 おれ自身正直いってとてもうれしいし、なんだか心がぽかぽかと暖まってくる感じがするし……なによりも、視聴者さんの反応がかなり良い。ファンタジー色濃いめのなかよし女子二人組は、どうやらお気に召して頂けたようだ。なお中身は考えないものとする。



「それでは……ご報告は以上になります。長々とご清聴、ありがとうございました!」


「あれ、もう終わりの時間? まだ時間あるよね? 何するの?」


「んふふふふ……よくぞ聞いてくれました。前回の生配信ではフィッチの輪っかで非常に痛い目に逢ったので、リベンジ……とも考えたんですけど…………さすがにこの装束で運動して、汗とかで汚しちゃうのはよくないので……」


「あー…………うん。仕方ないね。運動系はね……」


「なので! 今日はこれ! 頭脳トレーニングで遊びます! かしこいエルフの叡知ってモンを見せてやりますよ!」


「おー! …………というわけで、ちょっと休憩入れよっか。ゲーム画面出さないとだし」


「そうですね。では視聴者の皆さまも、いっしょに休憩しましょう! 今から……そうですね、十分間! 休憩です! おしっこ行くなら今のうちですよ!」


「ノワもちゃんと行っといでね。漏ら」


「漏らしません!!! お姉さんですから!!! それじゃ一旦いったん……ヴィーャばいばい!」




 可愛らしくひらひらと手を振るおれたちの映像から、モリアキ神謹製のアイキャッチイラストへと画面が切り替わる。

 休憩用の穏やかで牧歌的なBGMが流れ出し、カメラとマイクの入力レベルがゼロになっていることを確認し…………とりあえず、『ほっ』と一息。


 目を引く鮮やかな――しかし動きやすいとは決して言えず、汚さないようにめっちゃ気を使う――巫女装束のまま、重要な報告事項を無事につつがなく伝え終えたおれたち。

 配信後半の演目を開始するにあたって、まずは一旦場の空気を入れ替えるべく……アイキャッチ画面を挿入しての休憩を設けることにした。



 長々とぶっ通しでやるよりかは、緩急つけたほうが何かと気が楽だろう。

 視聴者さんにとっても……そして、他ならぬおれたちにとっても。給水とお手洗いのタイミングは、確保しておくに越したことはない。




「ラニ、ほらお水」


「ありがとノワ。……いやー、たのしいね」


「んふふ。でしょでしょ。後でコメントゆっくり見ようね」


「大好評だったね。楽しみだ」



 和気藹々わきあいあいと騒ぐおれたちへの、好感に満ちたコメントを嬉しく思いながら……おれたちは演者二人体制での『のわめでぃあ』収録に、新たな可能性を見いだしたのだった。




 CM(※無いです)のあとは! げーむで遊ぶのコーナーだよ!

 チャンネルはそのまま!!


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