第85話 【鶴城神域】神案件
さてさて、場面は再び先程の畳の間へと戻ります。
おれが衣装合わせに時間を取られている間、完全に待ちぼうけとなってしまっていた、この
この年の瀬のクッソ忙しいところ本当に申し訳無いと、戻ってくるなり半泣きになっていたおれに対し……チカマ宮司は相変わらずの優しい笑みを湛えたまま。
古式ゆかしい施設や着衣にはそぐわない最先端の技術の結晶、りんご印のタブレットを駆使して雑務を片付けていたらしく……加えてリョウエイさんと顔を合わせる機会を得たことで、普段保留となっていた案件をここぞとばかりに相談していたらしい。
つまりは……いたずらに時間を浪費させていたわけではなく、ちゃんと時間を有効活用してくれていたらしい。よかった、たすかった。
「いや……でもノワがお二人を待たせてたって事実は変わらないから……」
「すみませんでしたァ!!」
「まぁまぁまぁ。
「左様でございますな。大層お綺麗でおられる。将来が楽しみなお嬢様だ」
「えと……お、お褒めにあずかり……恐縮、デス」
おれの心というか内面は、未だに
在りし日のおれが(若干の
……そう、ちょっとくらいの代償。
おれの心が深い傷を負う程度の、ほんの些細な代償だ。
「それじゃあ、役者も揃ったところで『擦り合わせ』を続けようか。シラタニ殿の提案の通り、
「『神域』の
「えー……っと、…………はい。ありがとうございます」
若干引っ掛かるところはあるが……これで
大事なのは……あくまでもこの装束と引き換えに、おれが提供する内容。
「では……わたしたち『のわめでぃあ』の提案と致しまして、幾つか。……まずは、ひとつ。境内の見所を紹介する動画の作成」
境内の見所紹介動画。単純だが、だからといっておざなりに出来ない。なにせこの
境内各所には
欲を言えば……昨今の刀剣ブームにあやかり、宝物殿なんかもじっくり紹介したいところだが……さすがにそこは一般撮影禁止区画だ。
駆け出しの配信者であるおれなんかには、さすがに過ぎた願いというか……高望みというやつだろう。
「……いや、べつに良くない? なぁ
「えっ!?」
「ふぅむ…………確認ですが、ワカメ殿のお使いになられるカメラ。……いわゆるストロボ、フラッシュの
「えっ、と…………無いです」
「……なるほど。では
「えっ!!? 良いんですか!?!?」
「えぇ。
「おほーーー!! ……えっと、失礼しました。ありがとうございます!! 念のため公開前には、作った映像を確認して頂きに伺いますので……!!」
「えぇ。そうして頂けるのならば……此方としても安心ですな」
やばい、一気にテンション上がってきた。めっちゃ気合い入る。
何てったって……特例だ。普通は撮影が許可されない宝物殿を……今回限り、のわめでぃあに限り、動画撮影の許可を頂けるというのだ。
数年前の刀剣擬人化ゲームに端を発する若者の刀剣ブームは、未だに健在だ。有名な刀剣類を数多く収蔵する宝物殿を取材させて貰えるなら――
おれは
「二つ目は……茶屋のお食事の食レポというかですね、『こんな名物がありますよ』『こんなに美味しいですよ』ということをアピールできる動画を撮らせて頂ければと。勿論、飲食のお代はちゃんとお支払いさせていただきますので、単純に店内での撮影許可を頂ければ」
「あー……あの茶屋ね。厳密には
「えっ!? ……あー、業務委託的なあれですか?」
「そうそう。餅は餅屋ってね。……まぁ我等との関係も悪くないし、やんわりと協力を促すくらいなら出来るだろう。……というか、ワカメ殿みたいな可愛らしい子に『お店紹介したいので』って言われれば、普通に許可してくれると思うよ。あの子らにも利がある話だし」
「なるほど……後程ご挨拶に伺ってみます」
「なら、その際は
「えっと……それはですね……」
良いところに気づきましたね、と偉そうなことを言いたくなるお姉さん
確かに茶屋は
だが、それでは足りない。おれの狙いは単純に、観光動画とはまた別の切り口としてのアプローチを試みる。
つまりは……
グルメ動画というのは、そのジャンルそのものを好む層が存在する。ラーメン好きにとってはラーメン屋さんの情報さえ得られれば、喫茶店好きにとっては喫茶店紹介の動画さえあれば良いのであって、その他の情報がメインの動画は眼中にも無いのだろう。
そんな方々に向けた、あくまでも飲食をメインに据えた動画。
観光動画ジャンルとは別のジャンルにも釣糸を流すことで、より広い間口からの関心を集めようといのが、この作戦の本質である。
「なので……せっかくなので、先程許可を頂いた宝物殿……これだけでも一本別枠で動画作っても良いかなって思いました。歴史好きの方々向けのアプローチって形で。第三の釣糸ですね」
「成程……色々と考えてくれて居るんだねぇ」
「
作戦内容も、おおむね理解してもらえたようだ。複数の動画を作るとなるとその分手間も増えるのだが、どっちみち
まぁ……肝心の茶屋への打診がまだ残っているが、いわく何度かテレビや雑誌の取材も入ったことがあるらしい。意地の悪い経営者ってわけでもないので、断られる心配は少ないだろうとのこと。
つまりは……施策その二も、なんとかなるだろう。
そしてここで……トドメとばかりに、最後の施策を放つ。
これこそが本命にして……おれのダメージも最も大きい、いわば諸刃の
……
なにわろてんねん。誰や。……おれか!!
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