第80話 【鶴城神域】神前問答
まず……おれ達と
もともとこの地・この国に根差した神様である『
すぐ近くで生活を営み、度々参拝に訪れる氏子に『変なもの』がちょっかいを掛けてくるのは、さすがに赦しがたいらしい。
しかしいくら赦しがたいとはいっても、その力を振るうことが出来るのは……実質的に、この神宮の境内のみ。
このことは、この国の人々が神頼みを止め、自らの力で歩むことを決めた以上……どうしても覆せないらしい。
覆すとすれば……それこそ大昔のように、大多数の人々が神託と占術を重んじるようになってから。
国家の運営が神職によって行われる程までに神様が影響力を持つようになれば、ワンチャンあるかもしれない。……らしい。
まあ要するに、ほぼ無理ってことだな。
……さて。
氏子を……人々を助け、
そんな御社にわたしどもが提供させていただけるお力添えとしましては……ずばり、インターネットを通じての『
おじいちゃんおばあちゃんと同居していたり、元々信心深かったり、そもそも神社仏閣が好きだったりする人を除いて。
特定の神社に参拝してもらうためには、やはり動機付けが必要だと思う。
わたしが『
そんないきなり言われたところで『なんで?』という疑問がまず浮かぶだろうし……近場の視聴者さんならまだしも、遠くからだと少なくない時間と費用が掛かってしまうからだ。
だからこそ、本腰を入れてこの『
わたしが動画を通して狙うのは……視聴者の方々に『よくわかんないけど行ってみようか』ではなく、『そんなに魅力的なところなら行ってみたい』という感想を抱かせることである。
幸いというべきか、今は師走も後半。もう幾つ寝ると……そう、お正月だ。
お正月には神社へと初詣に赴くことは、何も不思議なことではない。そこへわたしがこの
「この計画の大きなメリットは、動画の撮影や編集その他もろもろに関して『わたし独りで行える』という一点にあります。
「……私どもは、何もする必要は無い……と?」
「はい。言い出した以上、わたしが単独で事に当たります。ですので、お願いがあるとすれば……境内の、一般公開が許されているエリアにおける撮影の……カメラを回し、声を出しながら徘徊することの許可が頂ければ……」
「とても魅力的に聞こえる御提案ですが……
「信じ難い。……何か裏があるんじゃないか、と?」
「左様。……
若干すまなさそうに俯くチカマさんだが……言わんとしていることは解る。わたしが何故そこまでするのか、そこのところを彼は気にしているのだ。
そもそも、鶴城神宮にとってのデメリットは特に無い。懸念されるとしたら境内の撮影に関してだが……一般参拝客はスマホでバシャバシャ撮ってるし、祭事の際なんかはテレビ局の取材だって入っている。
非公開の区画でもなければ、今さら『撮影はご遠慮頂きたい』なんて言われることは無いだろう。鶴城神宮がわが気にするような要素は皆無であり……ぶっちゃけ、わざわざ許可を得ずともやってしまえば良いのだ。
だが……チカマ宮司はわざわざ『
その後に続けられた言葉こそ、『怪しい、いまいち信用できない』といったニュアンスを含ませているが……
優しく、柔和で、見る者全てを安心させるような雰囲気。
それこそ神か仏かのように優しい彼は……わたしにメリットを見いださせようと、なにかしら
隣で腕を組んでうんうん首肯しているリョウエイさん(笑顔)を見る限り……この推測は恐らく正解だろう。
「わたしにとっても、勿論メリットはあります。まず何よりも、
「そういえばマガラが言っていたね。その『苗』を探す装置を作るために、境内の霊木を伐ろうとしたのだとか」
「それは本当に申し訳ない……」
「わたしの方からも。……ごめんなさい」
「ははは、だから気にしなくて良いって。実際に伐り傷を付けられたならまだしも、ね」
ぎょっとする顔でこちらを見る、巫女服姿の女性二人。……はい。ごめんなさい。反省してます。
からからと笑って許してくれるリョウエイさんに『遮ってごめん。続けて』と続きを促され、おれは一つ頷いて言葉を重ねる。
「もう一点。こっちは非常に、恥ずかしいくらい単純なのですが…………わたしのチャンネルの評価、上がるかな……って」
「……評価、とは?」
「えっと、実はですね……わたしのチャンネルは『放送局』っていう体裁を模してまして、いろんなジャンルの番組……もとい、動画を作りたいんですね。幅広いジャンルを揃えられれば、有言実行なところ見せられるかな、って。……それでですね、ちょうど『旅番組』みたいなの撮りたいなって思ってたところで……それで…………
……はい。すみません。滅茶苦茶私的な理由です。
全ては、チャンネル登録者数を増やすため。
旅番組は老若男女に人気(のはず)なので、それを作って公開できれば当然、老若男女数多くの人々にウケること請け合いなのだ。
わたしの行動原理は非常にわかりやすいぞ!
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