第73話 【鶴城神域】神隠し




 

 これまでのあらすじ!

 白谷さんたっての希望で、この世界この国のパワースポットを訪ねることを決めたおれ達。

 電車に乗って到着した鶴城つるぎ神宮は、ぱっと見た感じでは『そこまででもないかな……』レベルのスポットだったらしい。


 ……が!

 鳥居をくぐった途端に白谷さんの顔色が変わり、さっきまでとはうって変わって豊富な魔素に驚いている様子!


 いったい白谷さんの目的とは!

 この豊富な魔素を、いったい何に用いようとしているのか!





 「……とか脳内ナレーション入れちゃうくらい知りたいんだけど、そろそろ教えて? まだ揉み足りない?」


 『そうだね、そろそろ話しておこうか。…………こっちはゆっくり育てていこうね』


 「ギ…………ッ!!」



 どこか憐れむような笑みを残し、おれの胸元からひらりと離れていった白谷さん。……その微笑の意味するところを理解してしまい、なんだかとっても複雑な心境である。

 まぁ、それはべつにどうでもいい。おれは別に育たなくても気にしないいし、なんならこのまま育たないでいてくれた方が動きやすくていいし。

 ……また話が逸れた。おっぱいはもうどうでもいい。



 『えーっとね、どこから話そうか……まず昨日ノワが言ってた、竜種探知機ド○ゴンレーダー。どんなモノなのか、ちょっと調べてみたんだよね』


 「あ、調べてたんだ……あれ白谷さん、文字わかるようになったの?」


 『…………便利だよね、音声入力』


 「あぁ……………」



 どこか遠くを見つめるように視線を逸らし、今度はどちらかというと死んだような目の白谷さん……まぁ、外国人が日本語を勉強する上でぶつかる巨大な壁が、平仮名・片仮名・漢字の入り交じる超絶複雑な『文字』だというのもよく聞く話なので……さもありなん。


 おれと魂の底で繋がった際にこの世界の基本的な情報は流れ込んできたらしく、お陰でこうして白谷さんと日本語で会話すること自体は問題なく行える。

 また知識として文字の『読み』も心得ているので、日本語を読むことまでは出来るのだが……膨大な数の『文字』を操って文章を記述するまでには、まだ至っていないらしい。

 まぁそもそも、白谷さんの今の身体じゃペンを持つのも一苦労だろう。りんごタブレットの音声認識入力がで助かった。



 『まぁ……概念は理解したけど、当然あんな摩訶不思議大冒険アドベンチャーなキカイを作るなんて無理な話だ。技術的にも材料的にも知識的にも、何もかも足りない』


 「……あくまで創作物の中の機械だもんね」


 『そう、再現するのはさすがに無理がある。……そこで、なにもあの形状にこだわる必要は無いと考えた。要するに『苗』の場所と出現を、大雑把にでも掴めればそれで良いわけだ』


 「そだね、それだけでも全然違う。白谷さんも平打麺たべる?」


 『たべるたべる。それで……まぁ、要するにだね。……もぐもぐもぐ』


 「その……レーダー? を作るための……材料と関係がある、とか?」


 『もきゅ。……んぐ。そう。この世界でちゃんと動くように調整するには、この世界由来の魔素を動力にしなきゃいけない。四六時中探知し続けてくれるようにね』


 「……この世界に存在する魔素を使えば、動きっぱなしの装置が作れる……?」


 『うまく行けばね。……まぁ、そういうわけで。だからボクの『蔵』に眠ってる魔道具なんかじゃ、まるで役に立たない。もちろん『ボクやノワが魔力を注いだ瞬間だけ探査を行う』みたいな魔道具は使えるけど、求めてるのはそれじゃない』



 境内の茶屋で平打うどんをすすりながら、小皿の麺にかぶりつく白谷さんの話に耳を傾ける。

 大紋百貨店内を駆けずり回っていたときの、苛立ち混じりに放ったおれの愚痴……それを白谷さんが覚えてくれていたのにも驚いたし、おれの負担を減らせるようにとあれこれ考えてくれているのにもまた驚いた。

 ドラ○ンレーダー程ではないにしろ、『苗』の所在を探知できるのは非常に魅力的だ。常時稼働式であれば尚のこと。



 「……それで、その……えーっと、実用化? の目処はついてるの?」


 『もく、もく……こくん。……まぁ、多分ね。正直現状ではうまくいく保証は無いけど、失敗するなら失敗するで原因を探れば良いし』


 「その材料がそんな高価なもんじゃなきゃ良いけど……っていうか、肝心の材料ってなに? ここにありそう?」


 『うん。大丈夫そう。あとでノワにも伐採手伝って貰いたいんだけど、良い?』


 「わかっ………………なんて? え、ちょ」


 『伐採。斧ならバッチリ持ってるから、ノワにはちょーっと肉体労働をお願いしたい。体力回復の魔法はちゃんと』


 「ま、待って待って待って……!? さすがにダメだってそれは!!」


 『そうさな。さすがに看過する事叶わぬ』


 『ほらやっぱそうだって! お兄さんだってこう言っ…………!?』




 おれと白谷さんが平打うどんをすすっていた、茶屋の四人掛けテーブル。

 白谷さんとのお話にのめり込んでいたせいか全く気づかなかったが……いつのまにか周囲見える範囲からは、おれ達以外の人の姿が綺麗さっぱり消えてしまっている。


 食事中のお客さんも、参道を歩いている参拝客も、この茶屋で料理を作ったり給仕に勤しんでいるはずの店員さんさえも……人という人の全てが、あからさまに不自然に姿を消している。


 おまけに……おれのすぐ背後に。

 明らかに一目見て『ヤバイ』とわかるモノが、これまたいつのまにか座っていた。




 『…………何者かな? ボクのノワから離れてもらおうか』


 『呵々かか! ……矮小なる羽蟲風情が。のたまいおるか』



 鋳鉄のように冷たい光を湛える黒鉄色と、月光のように冷たく煌めく白鉄色。抜き身の刀のように美しい毛並みを持つその姿は……狼。

 見上げるほどに巨大な身体が、人語を発するそのノドが、挑発気味に歪められたその口許が、彼がただの狼などとは根本的に異なる存在であることを言外に示している。


 白谷さんは今や警戒心を隠そうともせず、突如として現れた狼を真正面から睨み付ける。

 一方おれは呆然と、間抜けそのものの表情で……明らかに格の違う彼を眺めることしか出来ない。




 「…………かみ、さま……?」



 威圧的ながらもどこか神々しい、尋常ならざるその姿。この場が鶴城つるぎ神宮の境内であることから、自然と出てきた推測ではあったが……鋼色の大狼はその耳をぱたりと動かすと、不機嫌そうに眉根を寄せる。

 ……意外と表情豊かだな。狼なのに。



 『――否。吾輩如きが、あの御方を騙るなど烏滸おこがましい。吾輩は只の『与力』、この神域を護る廻り方に過ぎぬ』


 「…………えっと?」


 『……ム? 与力ヨリキ……伝わらぬか? 奉行殿に仕え神域の治安を担う…………あぁ、アザマル殿は『ケイサツ』と云っていたか』


 「あー……把握。…………アッ、えっと……わかりました」


 『ウム。何よりである。……御神前を穢さんとの愚考、万死に価しよう。貴様らの生殺与奪は吾輩が預かった。奉行殿の御前にて然るべき沙汰を受けるが良い』


 「…………あーぅ……」





 ――前略。浪越市の烏森氏お母様


 私たちは予定通り鶴城つるぎさんへとお参りしたの次第なのですが……どうやらケイサツに捕まったらしいです。

 ……不出来な娘で、ごめんなさい。


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