第54話 コネとツテは大切っすよ
自覚あってのことなのか、はたまた恐ろしいことに無自覚なのか……最近の先輩のカワイイムーブは、さすがに少々目に余る。
というよりも……普段あんなにも『若芽ちゃん』をかわいいかわいい言っている癖に、肝心の本人が『
その点に少々の不満と不安を予感した、若芽ちゃんの保護者を自認するオレ達は……せっかく街中に出てきた今日を利用し、急遽とある作戦を計画・実行するに至った。
「…………はい、女の子ひとり。十歳くらいです。三十分から一時間以内には着くと思うんすけど…………はは、違うっすよ。知人の愛娘です。今ちょっとオレが預かってて。可愛い子っすよ」
古くからの知人の一人に連絡を取り、彼が勤めているフォトスタジオの空きを確認して貰う。
年末の慌ただしい時期とあって、枠を押さえられるか不安ではあったが……どうやら無事に予約をねじ込むことに成功したらしい。持つべきものは
「…………はい。…………はい。本人は日本人なんすけど、容姿はバリバリの西洋寄りっす。……ええ、ちょっとだけ大っぴらにしたくない事情がありまして。トミーさんにしか頼めないんすよ。…………はは、そういうんじゃ無いす。ちょっと容姿のことで。……ええ、あんま吹聴しないでほしい、ってくらいなので。…………スミマセン、ありがとうございます。……はい、宜しくお願いします。では」
「おお? どうだった? 先方の反応は。良さそうな感じ?」
「何とかなりそうっすね。
「ほぉぉぉ……すごいなモリアキ氏。本当顔が広いよね」
「フヘ。役に立って良かったっす」
昨今の先輩のカワイイムーブ……その原因の一端となっているのは、まさに『自分が周囲からどう見えているのかをイマイチ理解していない』という点だろう。
いわゆる『ナルシストさ』のようなものが微塵も見られず……要するに、自分がどう見られているかに対して無頓着なのだ。あの幼女は。
若芽ちゃんが可愛い娘であることは認識しておきながらも、今や
さっきの商店街での収録の際も――特徴的な髪色と服装によるところも幾らかはあっただろうが――実際に彼女へ寄せられていた周囲の視線の殆どは、まさに
とうの本人は『動画配信者としてはまだまだ底辺、自分なんかに知名度があるハズがない。きっとこの髪と耳が不審だから見てるだけだ』などと考えているのだろうが……オレも白谷さんも、それは全く『否』であるという認識を持っている。
今の
そのことを……なんとしても、本人に自覚させる。
そのために建てた、極秘計画。
フォトスタジオに拉致り、プロの技術の粋を注ぎ込んだ『これでもか』というほど可愛い若芽ちゃんの写真を撮り、それを
……そして折角なのでそのデータを購入しておき、今後の展開にも利用する。あと眺めて堪能する。
それが今回の……若芽ちゃん誘拐計画(語弊あり)の全貌である。
合流するや否や『なんでかわかんないんだけど、記念撮影頼まれた。本当なんでだろうな(小首かしげ)』とか言っちゃうような
…………………………
「というわけでやって来ました!
「ぇえ……どしたのモリアキ……変なもん食った?」
「お黙りなさいこの悪女め」
「あだっ! ……え!? なんでおれ怒られたの!?」
ちょっと調子に乗った感は否めないが……とりあえず目的地であるフォトスタジオへと到着した。
フォトスタジオとはいうものの驚くなかれ、その所在はなんとホテルの一階部分テナント内である。地下の駐車場に車を入れる際、この建物がホテルだと認識したときの先輩のあの顔は……ちょっと録画しときたかったっすね。
引きつった顔を赤く染めたり青く染めたり、なかなか器用な百面相でした。いったい何を想像してたんすかね本当。
そんな
館内エレベーターで一階へと上がり、豪奢ながらも落ち着いた雰囲気の廊下をキョロキョロ見回す
「……というわけで。ここから先は先輩じゃなく『さきちゃん』ですんで。白谷さんの声にもお返事しづらくなると思います。そこんとこ宜しくお願いしますね」
「了解。ボクも極力大人しくしてるさ」
「ぇええ…………マジでその仮名使うの……」
「べつに『木乃若芽』って名乗っても良いんすけど……どうします?」
「…………いや、やめとく。オンオフの区別はつけときたい」
「了解っす。じゃあ『親御さんの仕事中ちょっとオレが預かってる』って設定で。宜しくお願いしますね」
「普通写真撮るのにそんな設定盛らねえよ……ああもう、了解! やってやろうじゃねえかよ!!」
良い感じに
半ば勝利を確信しながら透明なガラス扉を押し開け、フォトスタジオ店内へ。入り口のセンサーがオレ達二人を捉え、来客を知らせる電子音が鳴り響く。
やがて正面受付カウンター横の控え室から一人の男性が姿を現し、来客がオレだと認識するなりその笑みを深める。
「なんだ、早かったな。馬っ鹿野郎おめーまだ準備終わって無ぇよ」
「いやースマンスマン。整うまで待ってるんで、まぁ宜しく頼んます」
「ウィッス。任されよ。……んで? その子か?」
「は、はひゃィっ! よりょ……ろろしくお願いします!!」
「ガッチガチだな。そんな固くならなくて良いよ、どうせ今日は他に誰も居ねー」
「へ? どうしたん、大丈夫なん?」
「やー別会場で披露宴入っててさ。他もみんな出張中で。今日明日明後日と俺一人で留守番なワケよ。どうせ一人寂しく編集してるだけだし、なら小遣い稼ぎでもすっかなって」
「ほへぇ……ま大丈夫なら宜しく頼むわ」
「オッケオッケ。まぁ上がったって。スリッパそこね」
「ウーッス。お世話んなりまース」
「お……おじゃまします……」
(おじゃましまーす)
スタッフの男性はにこやかな笑みを浮かべたまま、スリッパに履き替えたオレ達を先導していく。
久しぶりの再会を密かに喜ぶオレとは裏腹に……
歳はオレと同じ、三十一。先輩と直接の面識は無く、オレの大学時代の同級生。
癖っ毛気味のアップショートヘアを明るめのブラウンに染め、角張ったデザインの眼鏡を掛けた顔に人懐っこそうな笑みを浮かべた好青年。
このフォトスタジオでの写真撮影およびホテル内式場でのビデオ撮影、ならびに動画編集や静止画レタッチや各種メディアファイル作成等々を手掛ける、将来有望なカメラマン。
彼の名は……
「それにしても、訳アリって聞いたから何かと思ったらさ。……まっさか
「………………ほへ? ちょ、ちょ、ちょ……どういうことっすかトミーさん」
「どうもこうも……『わかめちゃん』だろ? 新人
「「……へ?」」(おぉー)
「いや……『
「良いんかい」
「おう。ただ、まぁ……そうだな。…………撮影料金割り引きするんで、記念にサイン貰えませんか」
「「…………へ??」」(ほぉー)
「……ファンです、っつったんだよ言わせんな恥ずかしい」
先輩こと『木乃若芽ちゃん』および『のわめでぃあ』の、親愛なる
…………いや、これはオレも知らんかったっすわ。マジでマジで。
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