千年王城

 京香は、いけすかない生え抜きの京都女。表だって口にしないけど、京都で生まれ育ったことを鼻にかけ、滋賀県育ちの私を見下している節がある。

 滋賀県にもいい所はいっぱいある。彦根城は国宝だし、黒壁スクエアだって人気の観光地だ。延暦寺はじめ、歴史ある古寺名刹こじめいさつだって数えきれないほどあるし、近江牛とか有名なバームクーヘンのお店とかグルメにも死角はない。

 だけど、私だってバカじゃない。そういったことで京都と張り合ったって勝ち目はない。

 でも、でも、京香が京都訛りで言ったあの言葉、「滋賀県ですか? さぁ琵琶湖しか思い浮かびまへんなぁ」には、生まれて初めて殺意というものを抱いた。きっと、京香のなかでは滋賀県の半分は琵琶湖でできているという考えなのだと思うと悔しくなった。

「たった六分の一なのに」私は拳を握りしめた。

 だけど、お嬢様育ちの京香は知らないはず。その琵琶湖こそが京都のアキレス腱であることを。今度滋賀県をバカにしたら、絶対言ってやるんだ。

 

「滋賀県の方はふなを腐らせて食べるんでしょ。うちは滋賀には住めまへんなぁ」コンパの席で京香が言った。

 今がその時だと私は思った。

「ちょっと、京香! いい加減にして。あんまり滋賀をバカにすると琵琶湖の水を止めちゃうよ」

 言ってやったと得意げな私をよそに京香はキョトンとしている。


「その水門を管理しているのは京都どすえ」

 私は膝から崩れ落ちた。

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