夜間救急
迂闊だった。年末気分に浮かれて、夜遅くまでバイクを走らせたのがまずかった。僕は飛び出してきた車を避けようと急ハンドルを切り転倒した。勢いは止まらず、そのままアスファルトの上を滑り工事現場に突っ込んだ。
不運というものは重なるものだ。衝突のはずみで宙に浮いた僕の体が落ちた先には鉄筋が並んでいた。鈍い痛みが腹部を襲う。押さえた手に生暖かい感触。僕の手にはベッタリと血がついていた。僕は痛みを堪えて、鉄筋から体を引き抜いた。刹那、
混濁する意識の中でも、僕はストレッチャーで運ばれていることはわかった。誰かが救急車を呼んでくれたんだろう。だが、僕は助かるのだろうか?何かの本に書いてあった。死にたくなければ夜に出かけるなと。夜間救命は経験の浅い研修医の集まりだというのがその理由として書いてあった。腹部はもう痛みすら感じない。だが、手に伝わる感触で腸が飛び出ているのだろうと悟った。
僕は夜間救命に運ばれた。
「腹が、腹が」僕は話すこともままならない。
「もう大丈夫ですよ」看護師の女性が優しく言う。
「医者を呼んでください」僕は力を振り絞って声を上げた。
「安心してください。ここは病院ですよ」そう言う僕に女性は答える。
僕は傷口を見て気絶した研修医を指差した。
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