第59話 獣魔契約バン&テリン

 まぁ、わかっていたことだけどね。


 ここ最近運動不足のロキ、ソニン、プロフェンは空を飛ぶワイバーンに翻弄されて怒り心頭になり、フィニアが魔法の過剰威力で空に大きな花火を起こした。


 それで視力をやられたところで僕の毛糸変換がワイバーンの翼を片結びでくっつけて地面に頭から落ちるよね?


 そこにいい顔で拳を握る暴力の権化が二匹。

 ロキとソニンがタコ殴りにした。


 普段なら浮遊と引き寄せのコンボで空を飛んでても縦横無尽に空を舞台にするけど、それをするとどこまで上に行くかわからない怖さもあった。


 あまり規格を外れた攻撃手段を見せると、普段もふもふしてる対象が何者なのかわからなく怖さがある。


 プロフェン砲はそう言う意味で封印した。

 こうする事でテイムモンスターも意外と強いと思わせればいい。


「私も戦うぞ」


「キュォオオン(やめて! ぶたないで。もう人間には近寄らないですから、どうか妹だけは見逃してください!)」


 ルテインさんが戦闘に参戦するが、僕の耳には妹を庇う兄の悲鳴が聞こえた。


「モンスターめ、懲らしめてくれる!」


 当然声が聞こえないルテインさんは攻撃する。


「キュォオオン(痛い、痛いよ)」


 随分と子供みたいな口調だ。


「待ってください、ルテインさん」


「なに、今ここでとどめを刺さないと危ないのはこっちだよ?」


「この子はどうも戦う意志が無いようです。好奇心が旺盛みたいで、どうも人類の生活圏に出てきてしまっただけのようです。もう一匹は妹さんらしく、さっきから助けを求めています」


「ルークにはその声が聞こえるの?」


「ええ。テイマーですから、動物、強いてはモンスターの声も聞こえてきます」


「分かった。しかしすでにフィニアが一体仕留めてしまったようだが?」


 うわ、細切れになってるじゃん。

 そりゃ泣き叫ぶわけだよ。


「ピヨちゃんがなんとかしてくれないかな?」


「一応頼み込んでみるが……」


 その日はワイバーンの細切れ死体と、軽傷のワイバーンを伸縮で鞄に詰めてバファリンに帰った。


 そしてあっさり復活。

 ピヨちゃんの新たな従者として、僕たちの乗り物となった。


 名前はバンとテリン。

 お兄ちゃんより妹の方が交戦的なのが面白い。


 最初こそ細切れにされても強気なテリンだったが、本気のロキやソニンの格付けチェックでわからされ、そこにプロフェン戦とインフィ&ルエンザ戦でポッキリ自信が折れてしまったようだ。


 普段は羽つきトカゲとして水槽に入ってる。


 水性系の一面も見せるバン&テリン。

 ワイバーンの新たな一面を見て見識を高めた。


 テイムした事を改めて報告、ついでに獣魔契約を果たす。


 僕たちはルテインさんから「想像以上にヤバいところに来てしまった」と言うお気持ちをいただき、まぁこれくらいは普通だよねと返すと「修行をして出直さねば!」となにやら火をつけてしまった模様。


 手乗りトカゲとしてバン&テリンはそれなりに人気を博したが、もふもふしてないので毛皮の類は取れなかった。


 まぁ脱皮とかするっぽいので抜け殻があるんだよね。


 それをゴミで拾ってコエンさんに見せると。


「買う、いくらだ?」


「言い値で良いですよ。僕もちょっと思いつきません。ぬいぐるみにも扱えませんし」


「こいつは魔導具の媒体に使えるんだ。ワイバーンがどうやって空に浮かぶか知ってるか?」


「いえ、あの大きな羽で空を飛んでいるんじゃ?」


「いや、魔法だよ。あの大きな羽の被膜魔力の通りが良くなる魔法媒体だ。こいつが一つ丸々手に入るってのは魔導具師にとっては涎が出るほどの特ダネなんだぜ?」


「じゃあ出回ると意外とやばいのでは?」


「いや、物自体は結構取れるんだ。ただここまで状態のいいのは滅多にお目にかかれない。こいつも毛皮同様に修復したって商品にしちまった方がいいだろう。魔導具師に顔を売れるぜ?」


「ならザイムさんに相談した上で回します」


 おう、期待してるぜと話を切って商業ギルドへ。


 久しぶりに顔を出したらロキぐるみやソニンぐるみ、プロフェンぐるみが勢揃いしていて以前までのルールに厳しい職場とは程遠い様相を醸し出していた。


 このぬいぐるみがあるとなぜか癒されるとの事だ。

 お仕事の量が多すぎるんだよ。


 そう思うとこれを持っていっていいのかすごく悩むが、ぬいぐるみのおかげで癒されてるんなら大丈夫か、と諦めて持っていくことにする。


「ふぅむ、これほど状態のいいワイバーンの抜け殻は初めてみる。これも例の?」


「僕の分体ですねー」


「新しくテイムモンスターを増やしたのですか?」


「ちょっとワイバーンの兄弟を手懐けるきっかけがありまして」


「普通見つけ次第討伐対象ですよね」


「すごく訴えかけてくる瞳だったので」


「なまじテイマーである事が足を引っ張ってしまいますか」


「悪いことだけでもありませんよ? ロキ達は空を移動する足ができたと喜んでいますし」


「まずワイバーンを足にしようとは思わないんですよ。まぁ、それは今更あなたに言ってもしょうがないでしょう。抜け殻の件はわかりました。修復内容に追加しておきます。兄さんのところで売却してもいいですよ」


「ありがとうございます!」


 帰り際にロキぐるみを抱っこしてニコニコしてるザイムさんが見えたが、見えなかったことにしておこう。


 そして再びギルドへ。


「おう、ザイムから話が聞いてるぜ? 買取額はこんな感じだ。ここから手数料を引いて、こんな感じだがどうだ?」


「十分です、お願いします」


 受付にて紙にペンを走らせて契約成立。


 ロキの毛皮やルエンザの毛皮ほどじゃなかったにせよ、魔導具の媒体としての価値を見せつけた抜け殻。


 なんでもワイバーンが今よりもっと数が多い頃は乱獲された過去があったようだ。


 それから引きこもるように身を隠し、その姿を見ぬうちに人類はドラゴンの襲来によって弱体化し、高ランク冒険者が生まれなくなってしまった。


 高くてもBランクが今の人類の最高峰。


 Aランクとなると100年以上前の基準を満たしていなければならず、唯一その中でもAに至れていたものはもう死んでるときている。


 ルテインさんも一応Aランクらしいけど、僕たちのメンバー的にAランクらしさは微塵も見えなかったよね。


 多分相手がそこそこに強いくらいなら本気を見られるんだろうけど……


 どのみちロキがいる限り活躍の機会はなさそうだなって思ってしまう僕は悪くない。

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