第57話 領主公認! もふもふカフェ

「失礼する、こちらに叔母様が若き姿で働いているというのは誠であるか?」


 入り口から渋い声がした。

 傍にはコエンさんとザイムさん。

 他に複数の高位冒険者の姿があった。


 その顔には口止めしたんだがどうしても自分で会いに行くといって聞かなかったという諦めの表情が浮かんでいる。


「あら、何事ですか?」


「ヘキサさん、なんでもあなたのご家族が参ったようです」


「あらあら、わたくしの知っているお方?」


「甥のクロウウェルです、叔母様」


「まぁ、クロウちゃん!? こんなにシワが刻まれて。立派になったのねえ」


 どう考えても立場は逆に見える二人だけど、幽霊だった期間が長かったようですっかり立場が変わってしまったようだ。


 ヘキサさんがが10代の頃に生まれたクロウさんは、流行り病を収束できない無慈悲さを抱えて70年の時を過ごした。


 生きてればヘキサさんは80代。


 でも若くしてこの世を去ったからこその若さでそこに居る。


 ピヨちゃんのせいであるが、今は生まれ変わったことに感謝すらしてるのでピヨちゃんばかり責められない。


「ヘキサさん、積もるお話もあるでしょう、客室を貸切にしておきます。今日はもう上がっていただいて結構ですから、領主様をお願い出来ますか?」


「あらあら。お仕事を放ってしまうなんてありえませんわ。これからはいつでも会えますでしょう?」


「ヘキサさんがこの屋敷から出て行けないように、領主様も毎日出歩けるご身分でもないでしょう。それにこの歳では毎日はお厳しいことかと思います」


「そう? なら仕方ないわね。これもわたくしにできるお仕事であるならば、その役目お受けいたします」


「感謝する、小さな店主殿」


「いえいえ」


 平民が貴族に口を出せるわけがないし、二人のギルドマスターからの圧がすごかったからね。


「まさかうちのお客さんにあんな大物が来るとは思いませんでした」


「オレノーのマブダチのお前が今更伯爵相手にビビるなよ」


「偉いのはオレノーさんで僕じゃないですからね。だからコエンさんもさっきから言う通りにしとけって顔してたんじゃないですか?」


 すぐ横でプッと吹き出す声がする。

 ザイムさんだ。


「見抜かれてますね、兄さん。これじゃあどっちが大人かわからないですね?」


「全く。どちらにせよクロウウェルは俺たちの協力者。礼を尽くすのは当たり前だろうが」


「巻き込んだのは私たちの方ですが、まぁこれくらいの見返りはあってもいいでしょう」


「あの、さっきからなんのお話でしょうか?」


「んー? なんの話だろうな」


 コエンさんが煙に撒くような形ではぐらかす。


 あまり語りたくなさそうだし、どちらにせよ恩はあるので深くは聞かないことにしよう。

 これ以上面倒ごとはごめんだ。


「それはさておき、ピヨちゃんとやらはどちらへ?」


「ああ、あの子なら……」


 指を差す方向はヘキサさんの胸元だ。


 いつ霊体に戻るかもわからぬと言う不安から、共にいるようになった。


 飼い主のルテインさんはなんだったら長生き具合ではヘキサさんに負けてないので世界樹の森で生きるエルフと呼ばれてもおかしくないくらいのおばあさんだったりするが、見た目なら僕達の少し上くらいなんだよね。


 コエンさんは参ったな、と言う顔。


「何かあったんですか?」


「まぁ、産毛の一つでも貰えたらなと」


「不老不死の伝承はデマって話ですよ?」


「だ、そうだぞザイム」


「由来に肖ろうとする人は多いんですよ。君のペットのロキ君と同様に」


「まぁブラッシング次第で落ちると思いますが、そんな今すぐともいきませんし」


「いっそクエストでも出したらどうだ?」


「その手がありましたか」


 コエンさんが余計なことを言い、ザイムさんが名案だと僕にクエストを受けてくれるかといった。


 期間は設けず、入手次第持ってく形で受注する。

 わざわざこんな大勢で押しかけなくたって、受けるのに。


「とにかく、ピヨちゃんの件はこちらで預かっておきます」


「まぁ、ルークのところが一番安全だからな」


「全くです」


「???」


 なんの話だろうかと頭を捻ってると。その頭をガシッと掴まれる。


「お前のとこにいれば安心だってことよ。なんせ最強のガーディアンがついてるからな」


 それってロキやソニンの事? もしかしてプロフェン?

 フィニアではないよなぁ。ルエンザも論外だ。


「この顔はわかってないですね」


「そのようだ」


 えぇ?

 じゃあ誰のことを言ってるんだろう?


「うちのリーダーは能天気だから仕方ないのよ。自分のしでかした事態を普通のことだと思ってるわ。なんだったら誰でもできるとさえ思ってそうよ?」


 フィニアにそんなことを言われる。

 つまりそれって僕が守護神だって思われてるってこと?


 流石にそれは盛りすぎじゃない?


 そんなやりとりの後、数時間は籠ると思っていたクロウさんはヘキサさんと出てきて終始和やかな雰囲気でエントランスまでやってきた。


「今日は突然押しかけて申し訳ありませんでした。今度は孫を引き連れて寄らせていただきます」


「こちらこそあまりお相手できずに申し訳ありません」


「いえ、救国の英雄殿と直接お会いできて光栄です。私の代で叶えられなかった疫病の払拭。見事な手腕でございました」


「いえ、これは僕のスキルのおかげというか」


「それをひけらかさず、当たり前と言える御心。まさしく英雄と言って差し支えないでしょう。本当なら我が領で大々的に取り上げるところでしたが……」


 恨めしそうに二人のギルドマスターを見やる。


 止められたんだな、と同時に伯爵様に口出しできるこの人たちは何者なんだろうという気になる。


 あんまり気にしすぎたらまた余計なことに首を突っ込みそうなのでやめた。


 それから数日後。


「わぁ! もふもふだ! お祖父様、ここは天国ですか?」


 僕より二歳ぐらい下の男の子がクロウさんに連れられもふもふ広場でもみくちゃにされながらも楽しそうにしていた。


 その日からうちの店は領主公認もふもふカフェとして人気を博した。


 わざわざ他領からのお客さんも来客し、それと同時にロキぐるみも生産が追いつかなくなった。


 毎日ブラッシングをしてるとはいえ、そんな頻繁に一体分確保できるわけじゃないからね。


 分体で量を増やしても世話人が圧倒的に足り図、その日からロキぐるみの生産は予約制となった。



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