第55話 ふわふわピヨちゃん
「ここが、噂のテイマーズ喫茶ね。本当にテイムモンスターの助けになってくれるのかしら? 待っててピヨちゃん。今苦痛から解放してあげるからね」
新人テイマールテイン。
マグマトカゲの卵を拾うまでは普通のAランク冒険者であった彼女は、卵から孵ったマグマトカゲとは思えない鳥類の親として元の実績をかなぐり捨てて今を生きているテイマー、それが彼女ルテインだった。
「こんにちは~」
「はーい、いらっしゃいませ。ようこそラビットハウスへ」
「小さいのに偉いのね、お父さんのお手伝い?」
「あ、いえ僕は……」
◇◇◇
入店してきたお客さんは僕の見た目でお手伝いさんのように扱ってきた。
それよりも抱えてる鳥型モンスターがぐったりしているのが気になった。
まずは状態を聞かないとと思って休憩所へと案内した。
「ここに凄腕のモンスター博士がいると聞いて寄ったのよ。店主さんはご不在?」
「あ、いえ。このお店の店主は僕なんです」
「え、そうだったの? あまりにも若すぎるからてっきりお手伝いさんだと思っていたわ。私ったらダメね、家にいた時から何も変わってないわ。偏見を捨てるために冒険者にまでなったのに」
家と偏見と聞いて事情があるのだろうと察した。
けど今はそれどころじゃない。
「この子、急にこうなってしまったんですか?」
「いえ、7日前までは元気に飛んでいたのよ。でも三日前に食べたキノコが当たったみたいで」
「あの、鳥にキノコを食べさせたんですか?」
「この子なんでも食べるのよ? だから食費は大助かりで。あの、治せるかしら?」
そういう問題ではない。
流石にうちのロキ達も人参や肉は食べる。
でもそれ以外のキノコ野菜を食べるかと聞かれたら食べない。
うちは肉食しかいないので鳥類の好みはわからないけど。
「やるだけやってみます」
「お願いね?」
今までどんな扱いをしてきたのかはどうでもいい。
まずはゴミ拾いを起動して、状態をスキャンする。
そこで入手したデータはちょっと僕の想定してないものだった。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◎汚染されたフェニックス(雛鳥)
<状態異常>
猛毒、下痢、発熱、腹痛、皮膚の爛れ
ベニテングダケ☠️【☆80.00で獲得】
イキリ菜【除去可能】
カエンダケ【☆30.00で獲得】
ホコリタケ【☆20.00で獲得】
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
取り敢えずツッコミどころの多い症状を拾う。
なんで毒キノコも食べさせてるんだろう。
食べるのに困っての事なら、この人は飼い主失格だと思う。
別に食費を軽減しろまでは言わないけど、テイマーなのになんでも食べるからって自分が食べないものまで食べさせるのはちょっと……
「一応症状の緩和はさせましたけど、まだ安静にさせなければいけないので数日ここで休んでいってください」
「それはちょっと困るわ」
「あの、これはあなたのためでもあるんです」
「私の?」
何でもかんでも自分を優先しているお姉さんは、みていて危なっかしい。
まるで何かから逃げているような焦りが見て取れる。
言ってしまえばそんな逃避行に付き合わされてるこの子が可哀想だった。
「いったいどんな事情があるかはわかりませんし聞きません。でもこの子はまだぐったりしている。お姉さんにも事情があるように、この子だって生まれてきた意味があると思っています。僕もテイマーとして数匹契約してますからわかるんです。この子もきっと一人で生きていくには多くの困難が待ち受けていることでしょう。それにお母さんと思っているあなたに何かあったら、この子はどうするんです?」
「……そうね、私はこの子のお母さんだもの。少し焦りすぎてたわ。でもここは街から随分と離れてるし、宿泊できる場所なんかもないでしょう?」
部屋だったらちょうど余ってるのでそこを案内した。
お姉さん自身もあの子と同様に疲れがピークに達してるんだ。
だからそんな当たり前のこともわからなくなっていた。
数日間は僕のところでゆっくり休んでいってね。
ご飯は外で遊んできたロキの仕留めてきたモンスターの熟成調理を出したら帝都のレストランより美味しいと絶賛された。
流石にそれは褒めすぎだよね。
「フェニックス? このちっこいのが?」
今回預かった子を、パーティメンバーに紹介するとフィニアがそんなことを言いながら指でピヨちゃんと名付けられた子のおでこをつつく。
「まだ雛鳥みたいだからね。飼い主さんは何かに追われてるみたいで疲労困憊みたい」
「じゃあその追ってる連中もここに来るわけね?」
「何が狙いかはわからないけど」
「その人かこの子かって事?」
トラネが手の中でピヨちゃんを大切そうに可愛がる。
状態異常は抜けたが、体力が回復し切ってない。
「それはさておき問題は食べ物でね。鳥類って何食べるんだろう?」
「こいつら意外と肉食よ?」
僕の疑問にフィニアが答えてくれる。
それが鳥類全体を指すか、はたまたフェニックスを指すのかは判別できない。
『一度肉を食わせて、ダメだったら他のでいいんじゃないか?』
傍でロキが提案してくれる。
まぁ毒キノコや山菜を口にするよりかはマシか。
ボア肉の熟成照り焼きを目の前に置く。
ピヨちゃんは最初どうしていいものか分からず首を捻っていた。
しかし、数回つついたと思ったら啄んでいた。
一度に口に入れる量は少ないが、確かに食べ勧めていた。
『あるじー、お水もあげたら?』
プロフェンの指摘にそれもそうだと水も用意する。
深皿に水を注いで飲みやすくすると、ちょいちょいと啄んでいた。
「お水が飲みにくいのかな?」
浮遊で水の塊を浮かしてやる。
すると嬉しそうにその場所を突いて飲んでいた。
ここまでしてやらないと食事もままならない子なんだ。
最初はわからないことばかり、なんでも食べるというのが突き詰めるとそれを食べなきゃいけない状況とも言えた。
「ふふ、この調子なら大丈夫そうね」
『姉さん、意外と世話焼きよね』
「あら、ルエンザったら今日のお世話は要らないのね? 仕方ないわね、今日はぬいぐるみのお世話でもするわ」
『姉さん、いじけないでー』
この姉妹は何かにつけて文句を言い合う。
その時の逃げ道に僕のぬいぐるみを使わないで欲しいな。
ルエンザもルエンザでもっと素直になればいいのにね。
「ぴ、ぴよ。ぴより(我は、一体……そうだ、主人は知らぬか? そこの者たち)」
なんかすごい一人称してるなこの子。
ご飯を食べ終わったピヨちゃん(もふもふの雛鳥)は、威厳に満ちた渋い声と口調で僕達の頭に直接話しかけてきた。
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