第29話 ★スキル【看破】【浮遊】【吸い寄せ】

 ロキが暴れたおかげで、毎朝洗濯する事から僕の仕事は始まる。


 と言っても、ゴミ拾いを発動するだけで終わるので手間も苦労もなかったりする。


 そこでようやくと言うか、とうとうと言うか。例のモンスター由来のスキルが抽出可能となった。


 Sスコア★は余ってるので獲得してしまう。


 ゴミ拾いは僕だけのスキルだけど、Sスコア★によるスキルはロキも使えちゃうんだ。


 だから僕に使い道がなくても、ロキが使えるならそれでOK。

 という事で取得っと。


 ブラックベアーから【看破】

 アースドラゴンから【浮遊】

 サンドローパーから【吸い寄せ】


【看破】は文字通り、そこにどんな仕掛けが施されても見抜くことができるものだ。ロキは嗅覚も聴覚も優れてるけど、魔法によって封じられてるものまで見抜けない。


 それを夜のもる探索で思い知った。

 偶然オレノーさんがそういうのに詳しかったから知れた。


 でもこれがあれば、ロキの行動範囲ももっとずっと広まる筈だ。


【浮遊】は、あれだよね。ふわっと浮くの。


 多分高所から飛び降りる時の姿勢制御とかに使うんだろう。


 だって高いところに登る時はジャンプするだけで届くからね。


 あ! 着地する時の音を消すのにも役立つかも。


 ロキは脚力強いから動く度にうるさいんだよね。


 肉球で多少音は吸収するんだけど、それでも消しきれない音なんだよ。

 だって走るだけで音が出るから。


 匂いを発さなくても常時からうるさいから『奴が来た』ってみんなにバレちゃってるんだよね。


 そういう意味では便利かな?

 僕はあんまり使い道はないや。


 そして【吸い寄せ】これはすごく便利。


 例えば寝起きに遠くのものに手を伸ばす時とか、手の届かないところにあるものを文字通り吸い寄せるのだ。


 効果範囲は僕のゴミ拾いの適用範囲内。


 つまりゴミ拾いのスキルLVを上げればどんどん便利になるやつだ。緊急時に兄さん達を助けられるかもね!


 僕ではこれぐらいしか考えられないけど、ロキはどうするんだろう?



 ◇



 その夜、新しいスキルの感触にロキは力が漲るのを感じ取っていた。


『お兄ちゃん、今日は動きが煩くないね。何で?』


 並走する妹分のソニンからそんなことを言われ、ロキは首を捻った。


『俺はいつもそんなに煩いか?』


『多分音がすごいんだと思う。こう、パンチするとビュオンって音がするから。でも今日は音がしないから不思議だなーって』


『だとしたら新しいスキルのおかげだ。【浮遊】と【吸い寄せ】というのが使えるようになった』


『それってどんなことができるの?』


『実際に見せたほうが早いか。ふんぬ!』


 ロキは自分よりも大きな大木の幹に狙いをつけ【吸い寄せ】を発動させた。


 本来ならば物を引き寄せる能力に終わるが、物の重さが異なる場合。

 引き寄せられるのはロキの方。


 ソニンから見たらロキが音もなくその場へと移動したように思えたのだ。


『かーーーらーーーのーーー!』


 ロキの体がブレると同時に地面へと突き刺さる。

 ズドォオン! という轟音。

 舞う土煙。

 土に汚れたロキが爆心地からのっそり起き上がる。


『どうだ?』


『とっても煩い!』


 ソニンが耳を垂らして塞いでいる。

 近所迷惑も甚だしいと迷惑顔を浮かべている。


『逃げも隠れもせん! これが俺だ!』


『お兄ちゃんらしいけどさぁ』


 一人高笑いを上げるロキにソニンはトテトテと寄って行く。


 どんなに小手先の器用なスキルを手に入れても、扱う相手がロキでは宝の持ち腐れだ。


 けど、うるさくしないのはロキらしくない。

 きちんと扱ってなお煩いのだからどうしようもなかった。


『だが、見える! 見えるぞぉ! 夜の森に紛れて隠れてるズル賢い奴がよぉく見える!』


『今日はムカムカしないの?』


 いつものように気分で喧嘩を売るロキ。

 しかし今日はそうではないとソニンは気が付いていた。


『今日は絶好調! 多分そこにあるのに見えなかったモヤモヤが爆発したんだろう。あの三匹はそこを守るようにうろついてたからな。格を見せつけて従えれば気は晴れると思ってた』


『でも晴れなかった?』


『そうだ』


 ロキは頷き、新たに現れたモンスターを見据えてほくそ笑む。


『あいつは見たことないな。腕試しだ。サポートを頼む、ソニン!』


『任せて!』


 新しく入手したスキルで、ロキは真っ赤な立髪を持つ双頭の獅子を前に武者震いしていた。



 ◇



 その翌日。


「あー、なんかまた新しいモンスターの返り血が!」


 不快感によって目を覚ませば、ベッドの上で僕は血みどろのまま寝転んでいた。


 ソニンは全力を尽くしたのかふにゃふにゃで、念入りの洗濯をするのだった。


 余談だけど新しく登録したゴミの持ち主はギルド内を騒然とさせるネーミングバリューを誇っていた。


 うん、もう慣れちゃった。


 ロキの時点で災害指定種。今更他のモンスターが出てきても慣れるしかないかなって。


 だって当然のようにその日から同じ血液浴びて帰ってくるんだもん。


 僕としては満身創痍で帰ってきて心配というよりも、またかって感じなんだよね。

 日に日に追う怪我も少なくなってきてるし。


 僕が僕であるように、ロキにはロキのやりたいようにさせてる。


 だって言っても聞かないもん、あの子。

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