第21話 お揃いの首輪

『ハッ、ここは!』


『ようやく目が覚めたか、寝坊助め』


『お兄ちゃん!』


 変身中、僕よりもロキの方が強く出る。

 今ソニンに対峙してるのはロキだ。

 僕は精神を預けてる状態。


『お前がボア族の長に喧嘩ふっかけたと知った時は焦ったぞ』


『兄ちゃんが来なくたってやっつけられた!』


一対一サシでやらせて貰えればのハナシだろ。数で押されたら、正直俺でも危うい』


『お兄ちゃんでも無理なの?』


『そうだな。20匹殺すのは訳ない』


『すげーー』


 宥めているのか、自慢してるのか。


 いつの間にか同時に相手して倒せる数を自慢するロキ。

 それを褒めるソニンに対して満更でもない顔だ。


『でも、息つく暇もなく25匹目がきた時に判断力を鈍らせる。30匹目を倒すのに手間取り、31匹目でトドメを刺された。俺はそこで死んだ。今ここにいる俺は亡霊なんだよ、ソニン。人間と契約して、この場所に存在する事を許されている。だからお前の前にこうやって出て来れる時間は決められている』


『嘘だ! お兄ちゃんが死んだなんて!』


『嘘じゃない。証拠を見せよう。ルーク、あとは頼む』


 それだけ言って、ロキは身を引いた。

 檻の中にはソニンと人間の僕だけ残る。

 なんて事してくれんの?


『人間!』


 絆LVがMAXになったからか、人間時でもソニンの声は聞こえていた。


 まるでハンターラビットとなら誰とでも意思疎通できるような感覚だ。

 これが変身の真骨頂なのかな?


「君の兄さんは僕と共にいる。僕を殺せば、君の兄さんは二度と会えないだろう」


 胸を叩く。

 なんとも頼りない、子供の胸だ。


 自信も何もない。でも、ロキに任されたから。


 ロキの代わりに僕が彼女の前に出る。

 今は僕が彼女のお兄さんだ。


『どうして!? 人間からお兄ちゃんの匂いがするの! 人間なのに! お兄ちゃんは本当にお前の中にいるのか!?』


「居るよ。今はまだ、多くの時間表に出れないけど。その間は僕が君のお兄さんとして色々教えてあげるよ」


『人間の言うことは信じられない』


「そう……」


『でも、お前の匂いは信じられそうだ』


「そっか」


 ソニンは僕に抱きついて、そのまま寝ついた。


「起きたか?」


「うん」


「これからどうするって?」


「まずは僕は信用してくれるって」


「そうか、まぁ仕方ないな。そんなすぐに信用してもらえるとは思っちゃいない」


「兄さん達は拠点のアテはあるの?」


「冒険者ギルドってのはいろんな国にあるからな。勿論その国によっては色々風習は違うが、そこら辺は逐一データ取りからだな。で、だ」


 兄さんが前もって間を置く時は、だいたい僕に何かお願いがある時なんだよね。


「悪いがお前の薬草採取の世話になる。パーティ名を変える都合上、ランクFから始める予定だからな」


「ソニンはどうしよっか?」


「採取中は好きに遊ばせとけ。縛りつけるのは無理だろ?」


 無理だろうねぇ、元々は野良。

 人に飼われるタイプの性格じゃないし、好戦的だ。


「わかった。取り敢えずあの子を呼びつける合図くらいは考えとくよ」


「そうしてくれ」


「取り敢えず長旅で疲れたな。宿をとるからその子は上手いこと隠してくれ」


「持ち込めば捕まえられちゃわない?」


「お前のテイムモンスターだってことに出来ないか?」


「その為の首輪かぁ」


「お揃いって言っておけば喜ぶぞ?」


「なんかそれ物で騙してるようでやだなー」


「だが、効果は覿面だ。


 兄さんの自信満々な笑顔は、それで成功してきた実績からだろう。

 今の僕は兄として新人もいいところ。


 だから今は言われるがままにお揃いの魔法を使うことにした。


 首輪をお揃いとして渡したらソニンは結構嬉しがっていた。


 ロキになって渡したのが功を奏したのか、満更でもない感じだ。


 人間形態の僕がそれをつけてれば、誰がロキの主人か見分けることもできると言う意味もあったみたいだ。


 その日からソニンは僕の言う事を割と聞いてくれるようになった。

 まだちょっと扱い切れる自信はないけど、少しくらいは多めに見るつもりで見守ろうと思う。


 きっと兄さんも幼い僕にそう接してくれたのだろうから。

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