54 進化の秘宝
俺たちが探していた『進化の秘宝』、実はポケ○ンのように動物を進化させるモノだった!
転生してポメラニアンに生まれ変わって、タイムスリップして昭和63年にやってきた俺だ。いまさら「そんなの、ありえないだろ!」とは言わない。
けど、まさかそんなものがあるなんて、という感想は拭えなかった。
「チュン太、お前のお爺さんってどこで『進化の秘宝』を見つけたんだ?」
「僕のおじいちゃんはね、若い頃、新潟の魚沼ってとこに住んでたんだって。でね、ある日チュンチュン〜って飛んでたら、ピカーって光るものが田んぼにあるのを見つけて、何だチュン? って行ってみたら、それが進化の秘宝だったんだって!」
なんだよ、見つけたのは単なる偶然かよ! 何の参考にもならないお話、ありがてえな……
でもその話を聞いた俺は、ちょっとした疑問が湧いてくるのを感じた。ええと、ええと、そうだ!
「ちょっと待て。スズメって寿命、短いんじゃなかったっけ? おまえいくつだよ?」
「僕は1歳6ヶ月チュン! あと1年半ぐらいで寿命だチュン!」
どうやらスズメの寿命は3年程度らしい。それなら、と俺はさらに質問を重ねた。
「お前のお爺ちゃんって、お前の親が同じ3年ぐらいの寿命として、4、5年前くらいまで生きてたってことだろ? だとすると『進化の秘宝』を見つけたのはそのさらに1、2年前ってことか?」
賢者ソースの話では、進化の秘宝は長年見つかっていないとのことだった。だとすると、話に矛盾があるのではないか?そう思って首を傾げる俺に、賢者が説明を始める。
「チュン太の祖父であるチュン之介は、200年ほど前に進化の秘宝を偶然見つけ、鷹に進化した、我の古い友人だ」
「え、200年前? というと……」
「江戸の末期ごろの話だ。チュン之介は進化の秘宝を完全に体に取り込み、普通の動物ではありえないほどの長寿となった。だが5年前、チュン之介は子孫を残すことに決め、その寿命を終えたのだ」
「子孫を残す? えと、つまり子孫を残すと寿命が終わるということですか?」
「そうだ。そしてチュン太の親を産み、さらにその親からチュン太が産まれた、というわけだな」
なるほど。整理すると、こういうことか。
・『進化の秘宝』を使うと、スズメの場合、スズメから鷹に進化する
・『進化の秘宝』を「完全に体に取り込む」と、寿命が延びる
・だが子孫が生まれると、その寿命は本来の寿命に戻る、またはすぐに終わる
うーむ、不思議だ。そもそも『進化の秘宝』って何なんだろう?
「進化の秘宝は、我が意識を持った太古より存在する。我の予想だが、この秘宝のおかげで人間も現在の人間になったのではないか、と思っておる」
おいおい、スゲー秘宝だな! 地球の生物を進化させてきた謎が『進化の秘宝』だってのか! ほえ〜、としか感想が出ないよ。
「そして進化の秘宝は、地球上に同時多発的に多数存在する。チュン之介が魚沼の田んぼで進化の秘宝を見つけて以来200年、我は進化の秘宝の痕跡を辿ることができなかった。だがこの度、この皇居に徳川埋蔵金と共に埋まっていることがわかったのだ」
「ちょっとお待ちください、ソース様。なぜ突然、このタイミングで進化の秘宝を見つけることができたのですか?」
以前のソースの説明だと、『進化の秘宝』は徳川埋蔵金と共に埋められたとのことだったはず。だとすると、もっと早く賢者ソースがその痕跡を見つけていてもおかしくないはずなのだが……
「わからぬが、考えられることはひとつだ。今回、地下帝国の誰かが『進化の秘宝』を使ったのだ。その力を我が感じ取った、そう考えるのが自然だな」
「それって、もし『進化の秘宝』を地下帝国の動物が完全に体に取り込んだら……」
「そうだ。我らの宝探しは一巻の終わりだ」
なんてこった。地下帝国のモグラ? が進化の秘宝を完全に取り込む前に奴らから奪わないと、今回の旅はまったくの無駄足になってしまうってことか。
だが地下帝国の奴ら、モグラなのかな? は、ここ20年、周囲の動物と完全に没交渉だとチュン太は言っていた。まあつまり「鎖国状態」ってことか。うーん、どうすれば良いんだろう……?
珍しく賢者ソースもうーん、と唸り悩んでいる。となると、希望はサバトラのみだ。地下帝国との交渉をソースに命じられた猫のサバトラはまだ戻ってきていない。交渉の一端で奴が掴んでいれば良いのだが……
だがその夜、サバトラは俺たちのパーティに戻ってこなかった。それどころか、3日経ってもサバトラからは何の連絡もなく、俺たちはひたすら半蔵門の近くでサバトラ待ち続けるしかなかったのだ。
サバトラがいなくなって4日目の夜、俺は決意し、ソースに相談した。
「ソース様。もしかしたら、サバトラはもう……」
「わかっておる、勇者モフよ。いよいよ、我らのみで動くしかない」
フレンチブルドッグのソースは憔悴しきっていたが、無理もない。
もしかしたらサバトラは地下帝国に捉えられて、最悪の場合命を落としている可能性もある。サバトラに地下帝国との交渉を命じたのはソース自身なのだ。
「……サバトラは、俺と一緒に合気道を習っています。そんな簡単にやられるようなタマではありませんよ」
「気休めは良い、勇者よ。いよいよ強行突破しかあるまい」
フレンチブルドッグとポメラニアン、地上部隊の2匹の前にそびえるのは、皇居の半蔵門。チュン太が探ったところ、子犬が抜けられるような道はない。それならば、門を強行突破するしか方法はないのだ。
「では、俺がまず警備員を誘い出します。その隙にソース様が門をすり抜け……」
などと作戦会議を行なっている俺とソースの目の前に、奇怪なものが突然現れた。それは、目の前の土がいきなり音を立てて盛り上がったかと思うと、土から飛び出して俺とソースの目の前に現れたのだ。
ショベルのようなピンク色の手に、全身びっしりの毛に、長いしっぽ。目玉は見えないが、間違いなくあの動物だ。そう、モグラだ。
ただ、単なるモグラでないことは一目でわかった。その大きさは、子犬である俺たちと同じくらい大きく、大量は50センチにも及びそうで、尻尾だけでも20センチはありそうだ。
巨大モグラは、目が無いのに俺とソースをジロリと睨み、言葉を発した。
「あなたたち、賢者ソースと勇者モフかしら?」
見た目からは想像もできないような優美な女性、いやメスなのか、の声だった。でも俺たちの名前を知っているということは、たぶんサバトラの行方と何らかの関係があるはずだ。俺は体制を低くし、警戒するように「ウー」と唸った。
「あなたたちを、私たちの地下帝国のゲストとしてお招きするわ。私についてらっしゃいな」
「ちょっと待て」
賢者ソースが落ち着いた声で巨大モグラを咎めた。
「お主、何者じゃ。せめて名を名乗っても良いのではないか?」
巨大モグラ、多分メスモグラは振り向きもせず返答した。
「あなたたちに選択肢はないわ。サバトラの命が惜しければ、黙って私についていらっしゃい」
やはり、サバトラはコイツらに捉えられているらしい。となると、確かに今の俺たちに選択権は無さそうだ。
「……わかった。サバトラは生きているんだな?」
「今はまだ、ね。あなたたちが変なことをしたら、わかんないけどね、ケケケッ」
巨大モグラの笑い声は、まるで怪鳥のような響きだった。
こうしてポメラニアンとフレンチブルドッグの2匹は、皇居の地下に巣食うモグラたちの地下帝国に足を踏み入れることになった。
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