30 勇者モフの誕生
平成時代の勇者となって、魔王を倒す?
このモフモフの体で? 過去2戦2敗の弱いポメラニアンが、魔王を倒す?
いやいやいや。
そもそも勇者って、ゲームかアニメや小説でしか存在しないだろ。昭和、平成、令和と生きてきた人間時代、勇者なんて存在、本物は一度も見たことないぞ。
「……ええと、賢者ソース様」
「なんだ、勇者モフよ」
なんだか賢者じゃなくて王様っぽく感じてきたぞ。どうしてもゲーム感覚が抜けず、現実感が伴わない。
「俺、めっちゃ弱いですよ。魔王を倒すストーリーでよくありがちなスキルも持ってないし。魔王がどんなのかわからないけど、ちょっと無理があるのではないでしょうか?」
「今は、な。今のお前では、魔王の前に1秒も持たないであろう」
「今は、とは?」
賢者ソースは真剣な眼差しで俺を見つめながら続ける。
「お前にはやるべきことが3つある。一つ目は『仲間を探すこと』。二つ目は『破魔の剣を探すこと』。三つ目は『進化の秘宝を探すこと』だ」
おお、なんだかロールプレイングゲームっぽくなってきたぞ!ってマジかこれ。結構ハードル高そうじゃないの。
「賢者様、俺、単なるポメラニアンですよ。そんなゲームや小説の主人公みたいなこと、できると思いますか?」
「そんなことは、我にもわからん」
ガクっと俺はズッコケた。おい、お前にもわからんのかーい!
「ただな、これまでの勇者に共通することがお前にもある。それは『転生者であること』だ。お主は犬であるが、人間の記憶を持っておる知恵者だ。知恵を絞り、やるべきことを成せば、魔王と対峙することも不可能ではなかろう」
ふむ、確かに俺はポメラニアンだが、そんじょそこらの犬猫よりは知恵があるだろう。魔王がどのような存在なのかはわからないけど、役に立てるなら……って、やっぱりちょっとムズくないか?
「そもそも、仲間ってどうやって集めるんですか? 対魔の剣?と、進化の秘宝? どこかのダンジョンの宝箱にでもあるんですかね?」
ちょっと口調が投げやりになっているけど、心底そう思っているから仕方ない。なにせすべてがノーヒントすぎる。
「まあ、それは時間をかけて探すより他はない。だが、仲間ならもういるぞ」
「え? 俺、ここに引っ越してきたばっかりで友達がいない、ぼっちなんですけど」
すると真っ白なフレンチブルは、背筋をさらにピンと伸ばして誇らしげに言った。
「ここにいるではないか。賢者ソースが、お前の第一の仲間だ」
「おお! マジですか?」
魔王に対抗するのが、ポメラニアンとフレンチブル。いや恐ろしい。絶対勝てなそうで、本当に恐ろしい。
「ソース様、お気持ちは嬉しいのですが、俺らだけでその魔王とやらに勝てるとお思いですか?」
「ははは、お前は知らぬのだよ、賢者の力を」
おお、なんか自信満々だ。まさか氷魔法とか雷魔法とか死んでも生き返る魔法とか、そんな平成の世にふさわしくないファンタジー魔法でも使えるのだろうか?
「何か、魔法でも使えるのですか?」
「魔法? そんなもの、存在しないだろ。中世ヨーロッパ時代のような非科学的な時代でもあるまいし。お前、そんなもの信じているのか?」
再び俺はガクッとズッコケた。魔王だの対魔の剣だの進化の秘宝だの、散々ファンタジー要素の話をしておいて、魔法は非科学的だというのかよ!
「我の能力は、近未来予知だ。お主も知っておろう。正確にはわからんかったが、昭和の時代が終わり、魔王の復活を予知し、お主のいるペットショップに潜入しておった我の行動を」
確かに、賢者ソースの言う通りだ。こいつ見た目はぶさカワいい、真っ白なフレンチブルドッグなのに、確かに異様にいろんなこと知ってるんだよな。まあこの際、信じるも信じないも選択肢はないのかもしれない。
「わかりました、賢者ソース。一緒に魔王を倒すため、努力しましょう」
「おお!やってくれるか、勇者モフよ」
フレンチブルは立ち上がり、千切れんばかりに短い尻尾を振った。すごく嬉しそうで、なんだか話の中身とは別に、その見た目だけでほっこりしてしまう。
よしわかった。やれるだけやってみよう。
ここに『勇者モフ』が誕生した瞬間だった。
「では我が予言した、この先のお前が第一にやるべきことを教えよう」
「はい、ソース様」
「近々、アライグマどもがこの地域に来るが、次に来るときは以前より戦力を増強してくるだろう。そこでだ……」
「はい」
「そいつらを一掃できる、武力に長けた仲間を探すのだ」
どこで? どんな動物? いろいろ賢者ソースに聞いてみたが、それ以上はわからないとのこと。ただひとつ、その動物の名前だけは予知できたという。
「多摩川17地区で『くーちゃん』と呼ばれる動物を探すのだ」
くーちゃん? なんだかとっても弱そうな名前なんですけど、それだけでどうやって探すんだよ……
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