ドラマみたいな恋をしたいと思ってたら なぜかバブル時代に転生した僕のドラマ
キサラギトシ
1 君の瞳に恋してる
その女の子は大声で叫んだ。
「バカッ!ケンイチなんて、大っ嫌い!」
パーーーーン
パーーン
パーン
……
まるで舞台の音響効果さんがつけたような、きれいな平手打ちの音がエコーをかけながら周囲に響く。
渋谷駅のすぐ近く、宮益坂下交差点。
結構な人通りがあるのに、誰一人こっちを見ていない。
それだけではない。なんだか世界がスローモーションになっている。
しかも本来なら聞こえるはずの街の喧騒も一切聞こえない。
相変わらずこのドラマ世界は、とってもドラマチックだ。
平手打ちのエコーが消えると、涙を一杯ためて平手打ちを終えたままのポーズで立ち尽くしていた可愛い女の子が、大きくかぶりを振って走り去っていく。
そのタイミングで、今まで聞こえなかった街の喧騒がフェードインしてきた。
「ちょ、待てよ」
言ってからしまった、と思った。
このセリフは、この時代にはまだ存在していない。
このセリフで有名なイケメン俳優さんが所属していた国民的アイドルグループ(いまは解散しちゃった)は、この当時はデビューしてまだ数年。ほとんど売れていなかったはずだ。
しかも実際にはこのセリフ、本人は一度も言ったことがないという話も聞いたことがあるような気がする。
どちらにしても、違うセリフに変えないと。
「俺、一体どうすりゃいいんだよ……」
そんなありがちなセリフを俺が言い終えた瞬間。
ピアノとストリングスから始まる曲が渋谷の街全体に流れ始めた。
Boys town gangの「Can’t take my eyes off you」
邦題は「君の瞳に恋してる」だ。
曲が流れてきたってことは。今回はこれでエンディングになるんだな。
俺はエンディングに相応しいような、できる限り悲しそうな表情を作って、いつまでも彼女が去っていった方向を眺めていた……
だがその時、心の中で俺はまったく別のことを考えていた。
俺、どうしてこんなことになったんだっけ?
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