実家の公爵家から逃げ出して傭兵してたけど、世話になった村が潰されたので復讐のために実家に戻るわ……

ごっつぁんゴール

第1話 ソシオ傭兵団


 オルディン王国とライズ帝国の3年続いた戦争は、どちらも疲弊しただけの双方痛み分けという形で休戦となった。両国のおエライさん達はさぞ悔しい思いをしたことだろう。ざまぁ見ろ……

 しかし、どんな形であれ戦争が終わったのは喜ばしいことだろう、例えそれが戦争を生業にする傭兵であっても。


団長おやじ、ホントに良いのか?」


「馬鹿野郎、戦争しのぎは終わったんだよ。帰るところのあるヤローはさっさと帰りやがれ!」


「でもよ……ゴンゾの兄貴も抜けちまって俺まで抜けたら団が回んねえだろ、どうする気だ?」


 団の運営を一手に引き受けてたゴンゾの兄貴が、田舎へ帰って嫁さん貰って店を出すんだと団を抜けたのが1週間前。

 この1週間だけで団の運営がエライことになってた、それを寝る間も惜しんでなんとかしてたのが兄貴の事務面の補佐をしていたこの俺だ。

 その俺まで抜けたらあとに残るのは、字の読み書きもできないバカ団長おやじと荒くれ者の団員達だけになっちまう。


「ガッハッハッハ、どうにかならぁな!」


「いやならねぇから、事務舐めてっとホントに潰れるぞ傭兵団ここ


「あ?誰に物言ってんだ小僧?ワシがどうにかなるって言ってんだぞ?ああん?」


 いきなり凄むなバカ団長おやじ……

 2メートルは有ろうかという身長に、実戦で鍛え抜かれた鋼の筋肉。

 その体の上にスキンヘッドで左頬にデカい傷痕、どこで手に入れたのか何故か絶対に教えてくれないドクロマーク入りの眼帯をつけた頭部を乗っけてる。

 泣く子がひきつけを起こすおっかなさだろう、実際街で何度かそんな場面を目撃した。こんななりして子供好きな団長おやじが悄気てるのを見たことがある。


「あんたがそうやって凄むときは都合の悪い時だってのは知ってんだ」


「チッ!つまんねぇ野郎だな……1年前はちょっと凄んでやればピーピー泣いてたのによぉ」


「余計なこと言ってんじゃねぇよ。それと、あんたは馬鹿だけどそこまで頭は悪くないのも知ってる。なにか考えがあるんだろ?」


 頭の足りない奴がこの規模の傭兵団なんかを組織できるわけがない。

 情勢を読む判断力、実行に移す行動力、危険を察知する嗅覚、荒くれ者を惹きつけるカリスマ、運営を部下に任せる度量、それらを併せ持ってるから1から傭兵団を立ち上げここまで維持する事が出来ていた。


「まあな、他のやつには話してあるんだが、団を畳む事にした」


「はい?」


「いやだから、このソシオ傭兵団を潰すことにした。だから事務を舐めてなくても潰れるんだわ傭兵団ここ。ガッハッハッハ!」


 なに馬鹿笑いしてんだこのバカ団長おやじは!


「そんな事俺は聞いてねぇぞ!?」


「そりゃあ言ってねぇからな。ちなみに他の団員からは了承もらってるからな、あとはお前だけだ」


「チッ根回し済みかよ……デカい図体してやる事がコスいんだよ。それで団を畳んで何するんだ?」


 何も考えなしに団を畳むなんて事はしないだろうし、他の奴らもそれじゃあ納得しない。他の団員たちを説得出来るだけの材料を提示したから全員が了承したのだろう。

 

「戦争が終わって傭兵ではもう食っていけないからな、このままだと盗賊にでもなるしかなくなっちまう」


「それはゴンゾの兄貴も俺も心配してたんだ。ただ、あんたはそれだけは絶対にしないだろう?」


「ああ、飢え死にしたってやらねぇよ……そこで団を畳んで、帰るところの有るやつは分け前やって追い帰す。ってかあとはお前だけだがな」


「そういえば、団を抜けたのはゴンゾの兄貴みたいに帰るところの有るやつらだけだったな……」


 事務処理やってるからそこら辺は把握している、戦争が終わったから団の規模を縮小してるんだと思ってたのに団を畳む準備かよ……

 

「で?残った奴らと団長おやじで何やるんだ?」


「辺境未踏破地区で開拓団を作る」


「は?何言ってんだ?」


「辺境未踏破地区で開拓団を作る」


「内容は聞き取れてんだよ、俺は何のつもりだって言ってんだ!あんたは大森林の怖さを知らないんだよ、まだ戦争でドンパチしてる方が生き残れるわ!」


 未踏破地区とは、ゴルディア大陸の北側に位置するオルディン王国とライズ帝国のさらに北部、ゴルディア連峰を含む大森林の事をいう。

 有ると予想されている豊富な鉱物資源と、間違いなく有るダンジョン資源を求めて両国ともかなりの数の開拓団を組織し派遣している。しかし、開拓自体の難しさに加えて、ダンジョンから溢れて野良と化したモンスターの襲撃に晒されて、施した結界が保たず壊滅する開拓団がほとんどだった。

 

「何も考え無しで言ってるわけじゃねぇよ、帝国のおエライさんに貸しがあるからいい条件を出してもらっている。結界に物資にとな?」


「なら俺も行く。俺だって辺境の出身だ役に立つはずだ」


「駄目だ、これは寄る辺の無いワシ達が1から自分の居場所を作る事業だ。帰るところのあるやつはお呼びじゃねぇんだよ」


 団長おやじが真面目な顔してる、こうなったら頑として折れないからな、しかも今回は俺のため(のつもり)だから絶対に折れない。


「分かったよ、明日にでもここを出る……」


「おう!なあに今生の別れってわけでもねぇんだ、また会えらぁな!ガーハッハッハッ」


 開拓団を1から立ち上げてそれを維持発展させる事の難しさは、曲がりなりにも軌道に乗ってた開拓村に居た俺では想像も出来ないほどだろう。もしかしたら本当に今生の別れになるかもしれない、団長おやじだってそれを分かっててそれでもなお笑ってる、そういう男なんだ。


「てか、そういうことならウチの村に寄っていかねぇか団長おやじ?」


「あん?どういうこった?」


「ウチの村は曲がりなりにも軌道に乗ってる開拓村だ、そこを見ていくだけでも今後のためになるんじゃねぇか?」


「なるほどなぁ……それもいいかもしれねぇな。じゃあ悪ぃが寄らせてもらおうか」





 団解体の事後処理を終わらせて出発したのがその3日後だった……というか3日でよく終わったと自画自賛したくなる。団を抜ける俺に事務処理を全振りする団長おやじも大概だが他のヤロー共も手伝いもしやがらねぇ、殴り合いおはなしをして5人ほど引っ張てこなかったらあと2日はかかっただろう。


「出発前にえらい時間を食ったがこれで無事に新天地に向けて出発できる。飛ぶ鳥跡を濁さずってな」


「ジジイてめぇ……てめぇらは飲んでただけだろうが!」


「細けぇことは良いんだよ。若いうちからそんなんだとハゲるぞ?」


「やかましい!大きなお世話だハゲ団長おやじ


「ガッハッハッハ!……ぶっ殺すぞ小僧」


 とんでもない殺気が飛んでくる。やべぇ禁句を言っちまった……自分が言う分には良いくせに言われたらキレるんだから自分勝手なジジイだ。


「あのよぉ……団長おやじ準備ができたぞ」


 出発準備の整ったことを団員が恐る恐る知らせに来た。


「よし!ソシオ傭兵団最後の出発だ!野郎どもはぐれるなよ!」


「おう!!」





 傭兵団の宿営地を出発して、1人なら1週間ほどで到着する道程を10日かけて向かう。大森林手前の街で1日休息を取りその後大森林に入り開拓村を目指す。


「いいねぇ、いい感じに田舎臭えじゃねえか」


「やかましいわ、てめぇらだってもっと田舎に行くんだよ!」


「違いねぇどうするよシティボーイの俺っちに耐えられるかね?」


「ゲラゲラ誰がシティボーイだよ笑うぞしまいにゃ」


 こいつらと無駄口をたたけるのもあと数日だと思うとさみし……くないな。でも下品だけど気のいい奴らでもあるから開拓が上手くいってほしいとは思う。

 



 開拓村まであと少しというところで一体の遺体がうつ伏せで横たわっていた、


「道具屋のおやじじゃねえか!モンスターに殺られたのか?」


「いやこりゃあモンスターの爪牙そうがじゃなく剣で斬り殺されてるな。腐敗もそんなに進んでないからそんなに日にちは経ってない……」


 商売柄、死体は見慣れている団員が遺体をあらためる。


「きな臭くなってきやがったな。斥候を出すぞ!残りは戦闘準備だ!きびきび動きやがれ野郎ども!」


 団長おやじが指示を出す、それに合わせて団員が速やかに行動を開始する。数名の斥候が先行して開拓村へ調査に向かった、俺たちは斥候が帰ってくるまで戦闘準備をして待機することになる。

 この位置からなら開拓村まで片道1時間、調査に1時間の計3時間ほどで帰ってこられる。

 

「斥候が戻ったら進攻するぞ!ワシの勘がこれは荒事だと言ってる」


 団長おやじのこういう時の勘はよく当たりやがるからな……博打では大外れするのに。





「斥候が戻った!」


 団員の報告に団長おやじが振り返り大声で、


「報告しやがれ!」


「村は壊滅、生きてる村人は村内に見当たらなかった……全員剣で殺られてた。結界は生きてるからモンスターの仕業じゃねぇ、屋内が荒らされてたし村民の死体に暴行の跡があったので盗賊の仕業だと思われる。くそったれ!他の者は周囲の偵察に出ている俺は報告に戻ってきた」


 斥候の報告に団長おやじが鬼の形相になって、


「村に行くぞ!」


 と号令をかけた……俺は何も言えなかった……








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る