第5回AI業務管理士試験 ―将来はAIに仕事を取られると聞いたので、AIになることに決めました!ー

さくらみお

第1次試験



 あと20年後には今存在する仕事の半数をAIに取られてしまうと聞いたので、私はAIに仕事をとられまいとAIになることに決めた。



 意外と私と同じ考えの同志は多いようで、将来AIに成りたい者たちは国が認定した【AI業務ぎょうむ管理士かんりし】に成るため【AI業務管理士試験】を受けることにした。


 この免許さえあれば自分はAI同等であり、この先の人生・就職にも大変有利になるそうだ。


 この私、鈴木すずき一郎いちろうもさっそく申し込みをして、吉日、指定された試験会場へと赴いた。


 試験会場はとある都内の大学。辿り着くや人、人、人の波。何百人いるのだろうか。私の様な学生はもちろんの事、転職希望のサラリーマンやスキルアップを狙う主婦、働く必要があるのか疑問の老人など、様々だった。


 その人々に圧倒されて大学の正門で茫然としていると、ドンと肩に衝撃が走った。


「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ」


 サラッと流れるストレートの長い髪。輝く黒目が印象的なスレンダーの美しい女性だった。年齢的に私よりもやや上だろうか。20代半ばくらいと推定すいてい。着慣れた紺のスーツ姿の彼女は社会人なのだろう。


「……今年の受験者はすごいですね! 私、この試験が始まってから毎回チャレンジしているのですが、こんなに多いのは初めてです!」


 袖振そでふり合うも多生たしょうえん

 触れあったのは肩だが、彼女は私に何かを感じたらしい。突然気さくに話しかけてきた。


「そうなんですね。私は初めてで、とても驚いています」

「大学生ですか?」

「はい、四年生です。将来は立派なAIになろうと考えています!」

「まあ、私と一緒! では、お互い頑張りましょう!」


 小さく会釈してお互い目的地へと歩き出す。同じ歩幅で同じ速度で右へ左へ上へ下へと歩けば、辿り着いた先は同じ教室。なんと彼女は私の受験番号の一つ前だったのだ。


「……まあ、私達、連番でしたね」

「これは何かの縁ですかね。私、鈴木一郎と言います」

「私は佐藤さとう花子はなこです」


 また小さく会釈した。

 それから周りにならって、私達も試験開始までの最後の悪あがきとして持参した試験対策本を流し見する。チャイムがカランコロンと鳴った。試験開始だ。教壇に立つ試験官が一次試験の内容を説明する。それから「受験番号101番!」と一番廊下側の男に声を掛けた。101番の大柄の男がすっくと立ち上がり、


「受験番号101番・大木圭介・ハッピバースディ・トゥーユー」


 自分の受験番号と氏名と、誕生日のお祝いをした。


「次、102番!」


「受験番号102番・川田里香・ハッピバースディ・チューユー」


 試験官は次から次へと受験者を呼んでは番号と氏名と、誕生日のお祝いを言わせる。




 ――なるほど、今年はこのパターンか。


 人数が多いと聞いた時からこのパターンだと予測し、山を張っていて良かった。この試験方法は試験対策本にも載っていた。


 この試験は自分がAIになった時、いかにAIらしい声と抑揚よくようで話せるかを試していると対策本には書いてあった。


 だが、声が格段に良かったり、声量あれば良いってもんじゃないらしい。この試験を行うと、どうして合格出来たのか不明の人間も多数いるらしいのだ。


 つまり、まだ実施試験回数も少ない試験だけあって、合格基準が明瞭めいりょうではないらしいのだ。


 実際に、AI業務管理士試験に合格した人間はまだいない。


 通算五回行っているAI業務管理士試験の現時点では、AIになった人間はまだ一人もいないのだ。



 どんどんと私の番に迫って来る。そんな中、私の前の席に座る佐藤さんの肩がぷるぷるとあからさまに震えていた。緊張をしているのだろう。大丈夫だろうか。


「次、124番!」


 佐藤さんの番だ。彼女はぎこちなく、ガタガタと立ち上がった。


「ははははははい! にゅ験番号ひゃ、ひゃく、124番・サッとん花子・ハッピィバースディ・チューユー!」



 ……ああ、同情したいほどの出来。


 サッとん花子って誰だ。

 可哀想だが、彼女は確実に一次試験で落とされるだろう。

 実に非情な世界だ。


「次、125番」


 さあ、この私、鈴木一郎の番だ。

 佐藤さんには悪いがこの一年間、AIに成るために励んだ勉強の成果をとくと見せつけてやろう。


 すっくと立ちあがると要求された要項を述べた。




「受験番号・125番・鈴木いじろう・ハッピバースディ・トゥーユー」



「次、126番!」








 ――終わった。


 私はなんて愚かな失態をしたのだろう。


 いじろうって何だ。

 私はいじられているのか。

 いじろうだから、いじる側か?


 こんなAIいるか。いる訳ないだろう。もう終わりだ、絶望的だ。

 私はまだAIが出来ないといわれる職業、医者とか弁護士になるしかないのか……?!





 ――しかし、拾う神はいた。



 全員の一次試験が終了し、その場ですぐさま合格者の発表があった。


「合格者、102番、118番……124番、125番……」


 聞き違いだろうか。

 しかし追って黒板に書かれていく合格者の番号は確かに私の125番がある。


「……受かった?! なんで!?」

「奇跡だわ!!」


 前の席に座る佐藤さんも信じられないとばかりに口を覆い、涙目だ。

 私は唖然あぜんとして、その合格結果を眺めていた。

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