蒸気機関車




 蒸気機関車の動力車と客車の二車両が、さびれた大きな公園の端に置かれていた。

 ぽつねんと、ひっそりと、その巨大さに似つかわしくない擬態語を背負って。


 ぼくと君以外に、この蒸気機関車は見えていないんじゃないかな。

 家族に尋ねても、友人に尋ねても、そんなのあったっけと首を傾げるだけ。

 秘密基地としては素晴らしく適した場所だった。

 けど、

 蒸気機関車はどう思っているのかな。

 乗車してくれるのは、ぼくと君の二人だけなんて。


 少しだけ感傷的になったのは、ぼくと君の秘密基地が、長年この公園に置かれていた蒸気機関車が、撤去されることになってしまったから。




 三年前からこの時期に、クリスマスケーキ製造の短期アルバイトに行く君は、スポンジケーキの芳香を連れて、正社員だけじゃなくてアルバイトでも安く買えるんだと、正方形の小さなチョコケーキを持って来る。

 客車に設置されていた座席は元々すべて撤去されていたので、竹で作られた網目のロッキングチェア二つと、同じく竹で作られた網目の円卓を置いた。

 どっちも、ぼくの家の倉庫に眠っていたもので、ところどころ穴が開いているがその穴は小さいし、きちんと座れるし、物も置ける。


「かと言って、ほかのみんなを招いて、盛大にお別れ会をしようとか思わないしなー」

「思わない思わない。この秘密基地は私とあなたの二人だけの場所なんだもん」


 ぐいぐいっと、君は公園の自動販売機で買った紅茶を一気に半分飲み込んだ。

 ホットを買ったのに、もうぬるくなってしまったようだ。

 もしくは、熱くても平気なのか。


 ちびちびと、ぼくは君が持ってきてくれたチョコケーキを竹のフォークで食べながら、そうだよねと頷いた。

 ここはぼくと君だけの秘密基地。

 ほかの人には知られたくない。

 撤去されるその日までは。

 そう思っていたけど、

 撤去されると耳に入った途端、みんなは一目見ようと、一目見てお別れをしようと押し寄せてきた。


 ぼくと君の秘密基地ではなくなってしまったのだ。











(2023.12.26)



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