第29話 魔法談義
そこからは俺はナツメ経由で冒険者ギルドに依頼して周囲のヘラ教団を徹底的に調べてもらっていた。そのついでにヘクトルについても情報はいくつか整理する。
今日は気分転換に中庭で紅茶をのみながら考え事をしているのだ。
「ゲームでのあいつは最初は主人公たちと敵対するもヘラ教団を裏切った賢者なんだよな。全属性の魔法をつかいこなす魔法の研究者にて天才だ」
彼はヘラ教団の結成当時からいたメンバーらしいが、どんどん過激になっていく教団に失望して一人で戦っていたところを主人公たちに救われるのだ。
「もしも、彼が仲間になってくれたらうれしいんだが……それにはヘラ教徒の残虐な行為を見せる必要があるんだよな……領民に害がなされるのは許容できない……リリスたんも悲しむだろうし……」
「一体何が許容できないんだい?」
「うおおおお!?」
いきなり背後から聞こえてきた声に思わず飛び上がると、噂をすればなんとやらヘクトルがいやがった。領主の屋敷なのに警備ざるじゃない? と思われるかもしれないが無理もない。
彼は魔法で気配を消して入ってきているのだ。今冒険者ギルドにいるナツメくらいしかきづくことはできないだろう。
「珍しい魔導書と一緒に美味しいお茶をもってきたんだ。天才である僕がいれてあげよう。感謝するがいい」
満面の笑みを浮かべて、紅茶の葉の入った紙袋と魔導書を手にしているヘクトル。殺気があればブラッディも気づけただろうが、今の彼からは友好の感情しか感じられない。
「いや普通にうちのメイドが淹れた方がおいしいと思うが……」
「わかってないね。天才である僕が淹れたということに価値があるんだよ。それより、ジャスティス仮面の情報は入ってきたかい?」
「いや、全然。それよりもそれは……?」
会話しつつも、魔法で浮かせたカップに魔法で作り出した熱湯を淹れるヘクトル。簡単そうにやっているが、浮遊魔法に、水魔法、熱魔法と三つを無詠唱でやっているのだ。見るものが見れば驚愕の光景だが、ブラッディはそれよりも魔導書に興味津々のようだ。
「ふふふふ、君も気づいたかい? かつて天才と呼ばれた魔道王アレイスターの禁呪が書かれたと呼ばれる魔導書の写本さ」
「はぁ、アレイスターだって!?」
魔導王アレイスターの写本。それはゲームでも重要な役割を持ち邪神ヘラの力を一部封印する魔法の書かれている本である。ほかにも強力な魔法がいくつかあり、それはゲームでは設定のみが明かされつかわれなかったものもある。
俺の反応がお気に召したのか、ヘクトルが得意げに言った。
「ちなみにこれは古代語で書かれているけど君は読めるのかい?」
「何言ってんだ。そんなん当たり前だろ。頭を働かすには甘いものがいるな? お前の分の甘いものも用意してやろう。だから読ませてくれ!!」
「ふふん、僕ほどではないが、君もなかなか勉強熱心なようだね。よほど研究熱心じゃないと古代語を習得しないとおもうけど……」
「魔法は勉強しているだけで楽しいし、色々あってな……」
ブラッディは使用人にお菓子をお願いし、上機嫌になったヘクトルと一緒に魔導書を読む。ちなみに古代語を覚えたきっかけは母の蔵書の一部が古代語だったのと、失われた魔法に興味があったからだ。その中にはあらゆる呪いを解く魔法もあるらしく、リリスたんを罵倒をするのを何とかしたいとおもったのと、リリスを邪神から解放できないかということと……単に失われた魔法ってかっこよくない? とおもったからだ。
「僕は趣味でロストマジックの研究をしていてね……よかったら僕に付き合うかい?」
「もちろんだ。その代わりいろいろと魔導書を読ませてくれ」
「ふふ、君の棚を見たときもこっち側の人間だと思っていたよ。この研究には知識と魔力を持つ人間が不可欠だからね」
そうして、ブラッディとヘクトルは魔導書を読みながらあーでもない、こーでもないと話し合う。天才を自称するだけあってヘクトルの知識にはブラッディは驚かされ、ヘクトルはブラッディの転生者であるがゆえの独特な発想と、リリスを思うがゆえに魔法への熱心さに好感を持つ。
そして、ちょうど話が途切れた時だった。
「あの、お菓子をお持ちいたしました……」
甘い香りと共に台車に二枚のお皿を乗せた女性が恐る恐るといった様子で声をかけてきた。そして、その顔を見たブラッディは思わず驚いて目を見開いた。
「リリス?」
「ちょうど、リリス様とお菓子をつくっていたのでもってきたんです。優秀なメイドでしょう?」
ソラが得意げにウインクしてくるが構っている場合ではない。
リリスの予想外の登場にブラッディはヘクトルの様子をみる。こいつとはデート中にリリスと出会っているのだ。まずかいもしれない。
そして、ヘクトルは……
「なんと……君はまさか女神か……」
正体に気づいたのか、ヘクトルは呆然とした顔でそう言ったのだった。
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