第27話 VSヘクトル


 リリスによる絶体絶命のピンチの中一人の救世主が現れた。



「初めまして、僕の名前はヘクトル。君たちが邪魔をしてくれたヘラ教団の……うわぁぁぁぁ?」

「なんで邪魔をするんですか!! もう、ばか!!」

「なんだ、この女!! 名前を名乗っている間にナイフをなげるんじゃない」



 激高したリリスのナイフを魔法を使ってはじくヘクトル。今ので倒れてくれれば色々楽だったのに……と思わなくない。

 だが、そうはうまくいないのも当たり前だ。ここは二階である。目の前の男は浮遊魔法を使いながら、リリスの一撃をはじいたということになる。かなりの魔法の使い手なのだ。



「改めて、名乗らせてもらおう。僕は天才魔法使いにて、ヘラ教団司教ヘクトルだ。以後お見知りおきを」

「くっ……司教、しかもヘクトルだと……『賢者』かよ……」



 仕切り直しとばかりに、やたらときざっぽく頭を下げるヘクトルを見て、ブラッディは内心ひやあせをかいていた。

 司教……それはいわばヘラ教徒の最高幹部であり、ゲームの後半に出てくる強大な力を持つ敵である。主人公たちですら、パーティを組んで戦ったのに無茶苦茶苦戦したのだ。本気を出したブラッディでもどこまで戦えるかはわからない。

 しかも、目の前の相手をブラッディは知っていた。彼はゲームでも登場し、とある事情でヘラ教を裏切り主人公たちのメインパーティーに入る『賢者ヘクトル』という名の天才魔法使いなのだ。



「ふふ、まさか、ちょっとした用でナイトメア領に来たら君を目撃するとはね……これもヘラ様のお導きかな」

「ジャスティス仮面様……」

「心配するな、リリス。君のことは必ず守る」



 ヘクトルの殺気を感じ震えるリリスをブラッディは落ち着かせるように抱き寄せると、彼女は信頼に満ちた目で見つめ返してくれた。


 ああ、そうだ。俺は彼女を守るためにこの数年頑張ってきたのだ。相手がなんであっても負けるわけにはいかないのだ。



「はは、美しい愛だね。僕だって鬼じゃない。君は逃げていいよ。天才である僕の目的は同胞を殺してくれたジャスティス仮面!! 君だけだからねぇ!!」

「なっ……」



 その言葉でブラッディは理解する。こいつはリリスがヘラの魂を持っていることに気づいていない。だったら、自分が囮になればリリスを助けることはできるはずだ。



「リリス……早く逃げるんだ」

「わかりました……私がいては邪魔ですよね……みんなを避難させておきます」



 ブラッディの考えを察したのか、リリスは悔しそうな顔をして買ってもらったばかりの杖を握りしめると全力で出口までかけぬけていく。そして、その無防備になった後ろをヘクトルは……狙わなかった。



「本当に逃がしてくれるんだな」

「当たり前だろう、天才である僕は弱い者いじめ何てかっこ悪い真似はしないんだよ」



 いつでも結界魔法をはる準備をしたブラッディが意外そうな声をあげると、ヘクトルは馬鹿にするように笑った。

 そして、おしゃべりは終わりとばかりにヘクトルが手をかかげ、嫌な予感がしたブラッディはとっさに避ける。



「無詠唱魔法か!!」

「はは、よく、反応したねぇ!! だったらこれはどうかな? 火の鳥よ、全てを喰らいつくせ、フレアバード!!」



 ヘクトルの手から放たれた炎が巨大な鳥と化して、ブラッディの方へと向かってくる。それに対して、ブラッディはあえて突っ込んでいき……



「ジャスティスダッシュ!! そして、ジャスティスシールド!!」

「僕の天才的な魔法を見ぬいただと!!」



 身体能力をあげて、火の鳥を回避し、その後ろの死角となっている場所に無詠唱で放たれていた風の刃をシールド状の結界を作り出してふせぎきる。


 火の鳥に集中していれば風の刃に切り刻まれる。通常詠唱と無詠唱を織り交ぜた強力な技だった。


 そして、それをブラッディが見抜いたのは偶然ではない。ゲームで戦ったことのあるブラッディはヘクトルの戦い方を知っていたのだ。



「お前の作戦は見え見えなんだよ」

「はは、君も天才だったようだねぇ、だけど僕はもっと天才なのさ!! なぜなら僕は三つ同時に魔法を放つことができるからねぇ」



 壁に当たった火の鳥が爆発する中、接近したブラッディが斬りかかるものの、彼の剣はほほを軽く切り裂くだけだった。魔法によって身体能力を上げたヘクトルによって距離をとられてしまったのだ。



「見たところ君は二つが限界のようだね。でも……まだ何か隠しているんじゃないかな?」

「流石魔法に関しては天才的だな……」



 手の内を見抜かれたブラッディは周りにだれもいないことを確認して、仮面をとろうとして違和感にきづき……作戦を変えた。



「お前が天才だろうが関係ない。お前は負けるんだよ!!」

「ふふ、天才の僕に敗北は……な……体が……」



 ブラッディの言葉に余裕をもった表情で返していたヘクトルだったが、その途中で驚愕に染まる。



「影縫い。これであなたは動けませんね」

「よくやった、ジャスティスレディ!!」



 いつの間にかナツメが気配を完全に隠しながら援軍に来ていたのである。いつものメイド服にちゃんとパピオンマスクをしている。

 だが、二体一となったというのにヘクトルは余裕そうに笑って……



「ふふ、なかなかやるようだね。これじゃあタルタロスたちがやられるのも無理はない。そして、僕も本命の用事があるんでね、失礼するよ!!」


 

 ヘクトルのまわりに光が溢れだし、それが消えるとその場にはすっかりと姿を消していた。影を消し去りナツメの魔法を無効化したのである。



「追わなくてよかったのですか?」

「ああ、これ以上戦えば街の住人にも被害が出ただろうからな」



 ヘクトルは好きこのんで一般人を殺しはしないだろうが、戦いになれば遠慮をするような性格ではない。現に火の鳥だって、当たり所がわるければカフェの二階を壊すだけでは済まなかった。



 厄介な奴に目をつけられたなと思ってひとつになったことを聞く。



「そういえばずいぶんと助けに来るのがはやかったけど、どこにいたんだ?」

「え……それは、ソラとショッピングをしていただけですよ」



 珍しく歯切れのわるいナツメを怪訝に思いながら、ブラッディはカフェの店員にまきこんでしまったことを謝罪しリリスと帰宅するのだった。





 そして、全ての仕事を終えて屋敷に戻ったブラッディが自室で体を休めようと扉の前についたときだった……結界魔法が無効化されているのに気づいて、扉を蹴破っていつでも魔法を放てるようにする。




「何者だ?」

「ああ、失礼。天才の僕がお邪魔しているよ」



 そこにいるのは先ほど戦ったばかりのヘクトルが、にやにやと笑いながら椅子に座っていた。



「お前……いったい何の用だ」

「そんな警戒しないでよ。僕の名前はヘクトル、ヘラ教団の司教をつとめさせてもらっている」



 完全に警戒しているブラッディとは対照的にヘクトルには敵意はない。むしろどこか友好的で……



「……勧誘か? 悪いがうちは新興宗教とかかわるつもりはないんだ」

「ああ、違うよ。今回は勧誘じゃない。同盟を組もうって話に来たのさ」

「同盟だと……?」



 こいつはなにを言っているんだ? と聞き返すとヘクトルが決め顔で言った。



「決まっているだろう、ともにジャスティス仮面を倒すための同盟さ」



 こいつはなにを言っているんだ? ブラッディはますます混乱するのだった。




やっと強敵との戦いだ。



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それではまた明日の更新で




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