第11話 パーティにいこう
ジャスティス仮面がリリスを救ってから数年の月日がたった。あの後も、ブラッディのリリスへの態度はかわることはなかった。きつい口調は多少はましになったけれど、かつてのようにブラッディがリリスを堂々と甘やかす姿はあまり見せることはなくなった。
その代わりにブラッディは『影の守護者』としてジャスティス仮面となって、彼女を助けることになる。
そして、ブラッディの奇行は……主にリリスとソラの『何か意味があるはずだ』いう言葉と、それまでのリリスを溺愛していた様子をみていた民衆から、何らかの意図があるのだろうと暗黙の了解へとなっていく。
そして、ブラッディは異世界転移してきたナツメと出会い、父の病で田舎に療養にいった母と父の代わりとして領主となってナイトメア領をおさめることになるのだった。
ジャスティス仮面としてドラゴンを倒して、もらった花をしまっていたブラッディの部屋にノックの音が響いてやってきたのはリリスのおつきのメイドとなったソラだった。
「ブラッディ様、以前のおっしゃられたようにプロミネンス伯爵からリリス様にパーティーのお誘いが来ました」
「また破滅フラグが来やがったか……」
ソラの言葉にブラッディは改めて気合をいれる。それも無理はないだろう、そのパーティーで起きる出来事がきっかけでリリスは冷酷無比なラスボスになるのである。そして、そのフラグをつぶすために彼は必死に努力をしていたのだから……
リリスの破滅フラグはいくつもある。そのうちの一つがプロミネンス伯爵のパーティーでの出来事だ。そこで彼女は襲撃事件に巻き込まれて、ヘラの力に目覚めてしまい断罪されてしまうのである。
リリスの立ち位置もプロミネンスとの関係性も変わっているが、シナリオの強制力をなめてはいけないと身をもって知っているのだ。だからこそ、原作通り出席させる代わりにブラッディはリリスと同行することにしていた。
「お義兄様と一緒にパーティーなんて久しぶりですね」
「ああ、俺もたまには顔をだしておかなければいけないからな」
嬉しそうな顔をしているリリスと反対に仏頂面をしているブラッディ。だけど、その内心は「久々にリリスたんのドレスがみれるーーー」と無茶苦茶ハイテンションだった。
そして、リリスもまた、ブラッディが自分の腕をつねって笑わないようにしているのを気づいているからか満面の笑みである。ブラッディは知らないが、彼のリリスへの気持ちはソラから筒抜けなのである。
「じゃあ、いくぞ。へんなやつに声をかけられたらすぐに教えろよ」
「はい……エスコートありがとうございます」
「貴族の義務だからな。ナツメサポートは頼むぞ」
「はい」
馬車からリリスの手を引いて、ナツメを引き連れて歩くブラッディ。それだけ聞けばかっこよく見えるが、実はリリスの手を引っ張っているため、胸はばっくんばっくんである。
そして、パーティーホールへつくと、すでに貴族たちが談笑していた。そんな中ひときわ目立つのが、今回の主催であるプロミネンス伯爵である。
ブラッディたちが成長しているように、彼もあの頃の不機嫌そうな子供でなく、ゲーム通りの常に笑みを絶やさす中世的な甘いマスクの王子様となっていた。
そして、メインキャラクターなだけあり、そのルックスと優秀な能力を示しており女性たちに人気である。現に貴族令嬢たちに囲まれて談笑しているのが目に入る。
ふふん、だがこの会場で一番かわいらしいのはリリスたんだ。全然うらやましくないぞ。そんなことを思っていると、服の裾を引っ張られる。
「お義兄様もあんなふうに美しい女性に囲まれたいと思ってらっしゃるのですか?」
プロミネンスを見ていたブラッディに何か勘違いしたのか、不満そうにほほを膨らまして見つめている。
「いや、ちが……」
「ご安心くださいリリス様。ご主人様のこの顔は『リリスたんがこの会場で一番かわいいぞ』って思っている顔ですよ」
「本当ですか、義兄様!! その……うれしいです」
顔を真っ赤にして嬉しそうにほほ笑むリリスに違うとも言えずにナツメをにらむが、彼女はからかうような笑みを浮かべにこちらを見つめているだけだった。
そして、それは何も完全にはお世辞とは言えなかった。元々ゲームでも顔はよいが冷酷なラスボス令嬢とよばれていたが、ブラッディのおかげで人の優しさを知り、彼にかわいいと言われるために努力しているリリスはもはや、ゲームのメインヒロインすらも凌駕するかわいらしさを身に着けていたのである。
「そうだ。お義兄様よかったら一緒に踊ってはいただけないでしょうか?」
「ダンスか……」
ぶっちゃけ、ブラッディも推しと踊りたい。リリスには婚約者はいないし、エスコートもしたのだ。一緒に踊るのは関係性を怪しまれないギリギリのラインだとは思う。
だが、今回はゲームでは襲撃があったとしかなく、敵が襲撃してくることはわかっていても、いつどれくらいの強さの連中がくるかわからないのだ。すぐにジャスティス仮面にならなければならない可能性もある。
「悪いが俺は忙しい。ダンスはちょっと難しいな」
「……そうですよね。大丈夫です、わがままを言って申し訳ありませんでした」
悲しそうなリリスにブラッディはすさまじいまでの罪悪感に襲われる。だ、だけど、彼女を守るためなのだ。だけど、なんとかフォローしようと頭を回転させている時だった。
「やあやあ、今日はパーティーに来てくれてありがとう。銀色の髪がお美しいですね、リリスさん」
話しかけてきたのはプロミネンスである。ナンパのような言葉なのに甘いマスクでリリスに微笑む姿は無茶苦茶絵になるからすごい。
それに対してブラッディはまるで昔のことなどなかったかのように話しかけてくるメンタルはすごいとある意味驚いていた。それとも……何か企んでいるのだろうか?
「プロミネンス伯爵本日はパーティーにお招きいただきありがとうございます」
「……ああ、お気になさらず」
リリスをかばうかのように挨拶するブラッディに一瞬視線をおくったプロミネンスだったが、すぐに興味を失ったかのようにリリスを見つめ、声をかける。
「リリスさんはダンスの腕もなかなかだと聞いております。よかったらそんな男は放っておいて今日は一緒にダンスを踊っていただけませんか?」
「「おおーー」」
その言葉に周囲の貴族たちが驚きの声をあげる。それも無理はないだろう、普段はプロミネンスから異性に声をかけることはない。なぜならば勝手に女のほうから声をかけてくるからだ。
そして、声をかけられたリリスは顔を赤らめてうなづく……だれもがそう思った時だった。
「申し訳ありません、足をくじいてしまいまして、お断りさせていただきますね」
「え……?」
まさか断らるるとは思ってなかったのかプロミネンスだが驚きの声をあげるが、リリスの目はブラッディを見つめている時とは別人のように冷たかった。
それは過去のことを根に持っている……というわけではない。
大好きで尊敬しているお義兄様をないがしろにする人間は大っ嫌いです!!
と憤慨しているのだ。
「お義兄様、友人を見つけたので挨拶をしてきますね。帰りのエスコートもお願いします」
プロミネンスを視界にも入れずに、美しい所作でブラッディにお辞儀するとリリスは友人のもとへと歩いて行った。
残されたのプロミネンスは八つ当たりとばかりにブラッディに嫌味を言う。
「ふん、男爵家は礼儀を教えていないようだな。せっかく僕自ら声をかけてやったというのに……少し美人だからといってあまり調子に乗るなと言っておけ!!」
「は?」
なんだこいつ……? 推しであるリリスを侮辱されて思わずにらみつけると、プロミネンスは馬鹿にするように笑っていった。
「なんだその顔は? 男爵ごときが僕に文句をいうつもりか? 少し腕が立つからと言って調子に乗るなよ。あのころとは僕も違うんだぞ!!」
「お前……あの時のことをまるで反省してないな……」
大人になって少しは変わっているかと思いきや外面がよくなったかと思いきやあまりのくそっぷりに思わず小声で突っ込む。ブラッディの知っているプロミネンスは常に笑みを絶やさないさわやかな青年だったはずだ。成長してゲームの通りにかわったかと思ったがそんなことはなかったようだ。
いや……あれは主人公が勇者に選ばれたからか……
思い出してみれば彼がただの平民と絡んているところを見たことがない。これが本性であり、父であるノヴァの教育も無駄に終わってしまったのだろう。
「何の文句もいえないのか? しょせんは魔法しか使えないただの無能な……僕うわぁぁぁ?」
ブラッディの方につかみかかろうとしてなぜかすっころぶプロミネンス。それを見ていたほかの参加者たちがくすくすと笑って……プロミネンスがにらみつけるとさっと目をそらす。
「まあいい、覚えておけよ」
周囲の視線に恥ずかしくなったのか、プロミネンスは逃げるようにさっていく。
「ナツメ……」
「ご主人様にあまりにも不敬な態度をとっていたので……」
魔法でプロミネンスを転ばしたナツメはすました顔で答える。彼は気づかなかったようだが、ナツメの影が一瞬足をつかみ転ばせたのである。
「いや、すっきりしたよ。ありがとう」
「いえ……ご主人様を馬鹿にしていいのは私だけですから」
「いや、お前もするなよ……」
つっこみをいれながら、怒ってくれた彼女に感謝する。
「だけど、なんであいつは俺にからんだんだろうな?」
「おそらくですが、プロミネンス伯爵は過去の件をねちねちと根に持っているのと、ジャスティス仮面の活躍に嫉妬しているんでしょう。この前ジャスティス仮面が倒した盗賊団はあの方の領地で暴れていたのに取り逃してしまったので、領民からバッシングを受けていたらしいですから」
「ああ、リリスたんのために倒したあいつらか……だが、俺とジャスティス仮面は関係ないだろう?」
「……そうでしたね」
けげんな顔をするブラッディに何か言いたそうなナツメ。そして、パーティーはまだまだ続く。そう思った時だった。
「プロミネンス!! 貴様に復讐させてもらう!!」
何人もの武装した集団が扉をけやぶってやってきたのだ。いきなりの展開に参加してた貴族たちは悲鳴をあげる。
そんななかプロミネンスが声を張り上げる。
「皆の者落ち着け!! 騎士たちは避難させよ」
突然の奇襲だというのに、ちゃんと対応したのはさすがというべきか? だが、ブラッディの行動は変わらない。
「ナツメ行くぞ」
「ご主人様……プロミネンス伯爵が張り切っていますがよいのですか?」
「お前の不意打ちにも、気づかないんだ。頼りにならんだろ」
「おっしゃる通りですね、ご主人様のほうが彼よりもはるかにお強いですから」
どこか誇らしげにナツメがうなづいた。将来はメインキャラのプロミネンスは強くなるが、今はブラッディの方がはるかに強いのだろう。
そもそもだ、ゲームでもプロミネンスがいてもリリスは襲われたのだ。頼りにはできない。
そして、襲撃者たちの目をかいくぐり、ブラッディたちはおパーティー会場から抜け出して外に出る。
「スキル『アイテムボックス』」
彼女の言葉にともにジャスティス仮面の服と仮面がでてくる。
「さすが異世界転生したときに手にした力だな。こんなのこの世界の魔法でもできないぞ」
「いわゆるチートスキルってやつですからね」
にやりと笑って二人は着替え、再びパーティー会場へと向かうのだった。
ようやく現代に戻れた…
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