第3話 ヨトゥンヘイムの巨人乙女〜私は恋愛軍師なの〜
私は可愛い巨人よ。
ここまでの経緯を読者にもわかるように伝えるわね。
なぜならば、私は可愛いからよ。
私の名前はゲルズ。とっても可愛い巨人よ。巨人と言っても身長はそんなにないわ。たかだか、山2つ分よ。どう? 可愛いものでしょ?
私は両親にとっても溺愛されて育ったの。その証拠に私の部屋の前にはいつも凶暴な番犬を放しているわ。いわゆる箱入り娘よ。
ただ、私はラプンツェルの塔が如く、いつか白馬の王子様が連れ出しにやってくるのを夢見ているの。そう、私は恋に憧れる乙女なの。
そんな箱入り娘の私だけど、最近アースガルド(神々の世界)の方向からすごく視線を感じるの。
きっと、どこぞの殿方が私の魅力に気づいたのに違いないわ。
ピンポーン!
「すんまへーん! 入団交渉に来ました! 開けてくださーい!」
「あらぁ、何かしら? 今開けるわぁ。」
突如、白馬に乗ったイケメンが来たわ。きっと、私を連れ出しに来たのね。
「わいは、スキールニル(フレイの部下)ちゅうもんやけど、社長があんたに一目惚れしたらしいんや。ちょっと、うちに来てくれへんか?」
きゃあああああああああああああああああああああ!
来たわ! ついに来たの。私の前に殿方が! ただ、このイケメンじゃないのね。この人の上司みたい。部下に橋渡し役を頼むなんて、とてもシャイな殿方だわ。
でも、ここで簡単に首を縦に振るのと安い女と見られてしまうわ。恋愛は駆け引きなのよ。ラノベにそう書いてあったわ。
「ふ、ふーん。そうなの? 興味ないわね。私が欲しいなら、その社長直々に来なさいよ。」プイッ
「まぁ。そら、そうなるわなあぁ。ただ、聞いてくれへんか? うち社長はフレイっていう男神で、愛と豊穣の神って言われとるわ。多忙なんで、わいが遣わされとる。もちろん後で、社長自らあんたと話がしたいとのことやわ。」
きゃあああああああああああああああああああああ!
愛と豊穣の神ですって。きっと社長もイケメンだわ。私に会いたがるなんてお目が高いわ。でも、もう少し駆け引きが必要なのよね。私は高値の花なのよ。
「それで、要件はそれだけ?」プイッ
「そんなことはあらへん。あんたのことがどうしても欲しいらしくて、『黄金の林檎(不老不死になる林檎)』11個でどうや? 何やったら、『ドラウプニルの腕輪(増殖する黄金の腕輪)』っちゅう金ピカのをおまけで付けたるわ。どや?」
ちょっと、いきなり何よ! 貢物作戦ね。全く奥手な男子には困るわ。きっと草食系男子よ。私はもっと野生的ながっつり系がタイプなの。ちょっとここは一旦、引き離した方がいいのかしら?
「私を物で釣ろうって最低ね!」プイッ
「あかんかぁ、仕方ないわ。この『勝利の剣』であんたを切ることにするわ。手段は問わんと言われとるから、生死も指示されとらんし、ええやろ。」
ちょぉぉぉっと! 前言撤回だわ! なんて清々しい脅迫っぷりかしら。きっと彼は肉食系ね。私のタイプにドンピシャだわ。でも、もう少しだわ。私は恋愛の天才軍師だもの。シミュレーションは何度もしたわ。ラノベを読んでね。
「ふん! 脅迫したって無駄なんだからね。」プイッ
「あれ? あかん! 剣が故障しとるわ。じゃあ、最終手段や! あんたを呪ってやる! どや? 怖いやろ? こっちに来た方が身のためやで。」
何ですってぇぇぇぇぇ!? 愛の呪い? そこまで私を愛してくれているの? ゲルズちゃん感激だわ! なんとも見事な猛将っぷり! さながら、彼は恋の項羽ってことね。もうこの戦は私の負けでいい。天才軍師もここに破れるわ。
「ふん! そこまで言うなら、会ってあげるわ。」プイッ
「ほんまかぁ? おおきに! これで今期のワイのノルマも安泰やわ。ほな、社長を連れてくるさかい、ちょと待っててえや!」
そう言って、恋の使者は去って行ったわ。私の白馬の王子はどんな方かしら?
そして、数日後、『バリの森』で私は彼と出会ったの。
第一印象は本当に最悪だったわ。何たって部下のように白馬に乗って来ると思うじゃない? 社長は豚に跨って来たの。しかも、ド派手な金色よ!
ホント趣味が悪いわ。普通はドライブデートって言ったら馬でしょ。馬。まだこの前の部下の方がいい馬に乗っているわ。全く! 乙女心をわかってないんだから。嫌になっちゃう。
でもね。私知っているの。第一印象を悪くするのはテッパンなのよ。この殿方、見かけによらず、戦略にも明るいのね。とんだ大将軍だわ! 私も負けてられないじゃない。もう私は軍師を引退するわ。そう、私は知将、さながら、恋の劉邦になるの♡
私は可愛い巨人よ。恋の巨人ゲルズ。私たちの戦は熾烈を極めたわ。
今度、そんな彼と結婚することになったの。みんな祝福してね♡
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