北欧のメジャー神に転生した俺。性に奔放な姉や、気まぐれな神々に振り回されつつ世界の終焉フラグ回避に奮闘する
雨井 トリカブト
第1話 アースガルドの神々の気まぐれ〜まじで滅ぶぞ!〜
俺は神だ。
ここまでの経緯を読者にもわかるように伝えよう。
なぜならば、俺は神だからだ。
俺はごく平凡な高校生だった。だが、ある日突然、交通事故に巻き込まれ転生した。いわゆる異性界転生ものの、こすり倒されたテンプレ展開だ。こんなもので俺は動揺しない。なぜならば、俺は神だからだ。
では、何の神か。
俺は愛と豊穣、おまけに豊を司る。そう、俺は北欧神話の神『フレイ』に転生した。ゆえに、俺はすでに成り上がっている。自分で言うのもなんだが、俺は眉目秀麗、筋骨隆々、頭脳明晰、血筋も良く、人望もある。さらには、最強の剣『勝利の剣』もある。
不遜と思うだろうが断言する。俺はいわゆるチートキャラだ。だが、恐れている。
俺は俺の死にざまをすでに知っているからだ。
北欧神話は厨二病の聖典だ。あらすじは、漫画やゲームを介し自然と情報が入ってくる。流石に細かい所までは知らないが、転生前にやっていたゲームのシナリオでちょうど、そのシーンがあった。
世界の終焉の日に、何の理由だったか『勝利の剣』を失い、世界滅亡の元凶スルト(『ムスペルヘイム』の長)に敗れ、死ぬ。
自分の死期がわかることほど恐ろしいものはない。しかも、剣を失わなければスルトを倒せた。それは世界の終焉がなくなることに等しい。結果として、俺は世界滅亡の最大の戦犯となっている。
俺が授かった第二の人生、いや神生は、いかに死亡フラグを回避するかにかかっている。俺だけの話じゃない。これは世界を救う話なのだ。
「お〜い、フレイさんや。ちょっと良い樹があったので、『スレイプニル(チート級の縄)』を結ぶのを手伝ってもらえんかのう。」
意味のわからない依頼をのたまう老人は、オーディン爺さん(アース神族の主神)だ。最強の槍を携え、神獣を使役する隻眼の魔術師。厨二病の集大成だと俺は思っている。
「オーディン爺さん! いい加減、好みの樹を見つけたら首をくくるなんてみっともない真似やめてくれ! それに、そんな変態プレイに神器を持ち出すなよ。ほんとに死ぬぞ!」
昔、不敬にも世界樹『ユグドラシル(全ての世界の根幹の木)』で9日間首を吊ったという。その快感が忘れられないらしい、ドMだ。理屈はわからないが、『ルーン文字(魔法の文字)』を理解しようと槍に刺されながら首吊りしたとのことだ。
この前なんか、「あの時代に、『スレイプルニル』さえあれば、縄が切れんかったら、わしは完成しとったんじゃ!」っと言っていたのを耳にした。完成とは何のことを指すが知らんが、ドMのことだ。新しい境地を開発に勤しんでいたのだろう。
「ホッホッホ、フレイさんよ。そろそろ妻を娶らんのかね? なんじゃったら、わしがいい女神を手配しようか? わしの手つきじゃがの。変わりにその剣をくれんか? ホッホッホ」
「話をはぐらかすなよ! もう、その縄取り上げる! それに女神はこりごりなんだ。人の色恋沙汰に口を出さないでくれよ! あと、最後に言っておくが剣は絶対にやらん。絶対にだ!」
このドMは未だ現役だ。浮気癖について、フリッグさん(オーディンの妻)からよく愚痴を聞かされる。どうやら各地で女の子に手を出しまくっているみたいだ。最強とはいえ、そんなことをしていたらいつか足をすくわれるぞ。そして、隙あらば俺の『勝利の剣』を狙ってくる。したたかな爺さんだ。
「あらぁ! オーディン兄さん。フレイ。ひさしぶりねぇ。息災かしらぁ?」
割って入ったのはドMの義兄弟。ロキ姉え(元巨人族のアース神族)だ。高身長で容姿端麗のオカマである。
「フレイは相変わらず、おいしそうな美男子ねぇ。私と今晩一緒にどぉ?」
「丁重に、お断りします! ロキ姉え、いつも俺を見る目が嫌らしいんだよ!」
「あらぁ、い・け・ず。」
俺はこのオカマが非常に苦手だ。なぜなら、全てを理解できないからだ。
まず、こいつの守備範囲は老若男女問わないらしい。この前なんか、壁の工期がどうとかで、馬と一線を越えたと聞く。どうして、そうなったのか俺には理解できない。人間は、いや、今は神だが、誰しも理解できないものには恐怖を感じる。
「そうだわ。また天才的に面白い企画を思いついたの。聞いてぇ。題して、『チキチキ 最強の剣VS最強の防御スキル 決着が着くまで帰れまテン!』」
「ロキ姉え・・・全く意味がわからないんだが。」
「説明するわぁ。オーディン兄さんにバルドル(アース神族)っていうマブい子いるじゃなぁい? その子、最近何をしても傷つかいないって噂なのぉ。そ・し・て、あなたの剣、殺すまで自動で切り付けるって話じゃなぁい。だ・か・ら、どっちが勝つかやってみなぁい? きっと、盛大にバズるわよぉ。」
「ちょっとそれ、防御側の勝利条件が破綻してんだよ! 下手したら俺の剣、永遠に斬りつけるぞ! バルドルさんが可哀想だろ! しかも、オーディンおじさんの目の前で、息子を折檻する話なんて、全くどういう神経をしてんだよ!」
「ちょっとぐらい良いじゃなぁい。野暮ねぇ。まぁ、また今度にするわぁ。」
オカマの悪ふざけはいつも洒落にならない。イタズラの域をとっくに超えている。こいつはきっと迷惑系動画配信者の走りに違いない。「残念! どっきりでした!」とか言って、いつか神をも殺しそうだ。てか、このオカマ、確か「バズる」って言ったよな? 本当に動画配信者の転生者か?
俺はいつも神々の気まぐれに振り回されている。あいつらは暇だからだ。今日も個性が強い神々に絡まれてしまった。転生して以来、ずっとこんな感じだ。
しかも、四六時中、俺の『勝利の剣』を狙ってくる。よほど終焉をかまされたいのか? そもそも、俺の剣は正しい者にしか使えない。あいつらに扱えるのか甚だ疑問だ。
今日はもう疲れた。サウナに入って休むとする。
「ちゃ〜ら〜♪ へっちゃら〜♪な〜に〜が〜、」
ガラッ
「一緒に入るわよ〜♡」
「わぁ! 姉ちゃん! なんで勝手にサウナに入ってくんだよ! まだ俺が入ってるだろ!」
「いいじゃない。昔はよく一緒にサウナで、あんなことやこんなことを♡」
「してない! してない! 何勝手に過去を改竄してんだよ!」
こいつはフレイヤ(ヴァン神族、フレイの双子の姉でアースガルドに住む)。愛と豊穣の神を謳っているが、尻軽だ。この前は『ドヴェルグ(小人族)』の職人どもから『ブリージンガ・メン(首飾り)』をタダで譲って貰おうと、4日4晩相手をしたらしい。しかも、たまにこうやって、俺を手ゴメにしようとしてくる。
尻軽は美の女神というだけあって、正直な話、かなりの美人だ。スタイルも抜群に良い。だが、いくら美人でも姉だ。姉というだけで勃つはずがない。そして、もし仮にだ。仮に、抱かれでもしたら、俺はきっと『勝利の剣』を扱えない。
俺は世界の黄昏に備え、剣を握り続けなければならないという宿命を背負っているのだ。
「ちょ。 姉ちゃんどこ触ってんだよ! まじで滅ぶぞ!」
【あとがき】
私の処女作で、カクヨムコン短編小説部門にも出します。
印象に残れば、ぜひ評価お願いします。
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