第1話
俺は、有名な山賊バンディッツ・エクスポーツを探すことになった。
海賊や空賊とか、優先順位は決められてないけど、深い海や高い所がこわい俺にとって、山賊の方がまだ、いいかもしれないと思った。
ただ、熊や狼、山姥とか出なきゃいいけど・・・。
山賊は洞窟で生活しているというから、余計にこわくて仕方がない。
「やっぱ、俺帰っていい?」
洞窟を前にして、恐怖のあまり引こうと思った。
ヒポポパーラメンスは、相変わらずの呆れ顔だ。
「今更、何を言うのだ?
山賊退治がいやなら、海賊や空賊でもいいぞ?」
「それは、もっとやだ!」
「なら、潔く行く。
これは、任務だからな」
「お化けとか出ない?」
「お化け?
そんな非科学的な生物か、この世に存在するのか?」
「俺から言わして見れば、君の存在や魔法があることも、非科学的だが」
「ここまでくると、貴様は本当に男なのか?」
「魅了の魔法を与えられた時点で、男としての尊厳を失っているわ!
・・・第一、戦闘能力がない段階で、俺はこの世界で弱いということを意味しつないか?」
「貴様の故郷がどういったものか知らんが、そんなことを気にするのか?
強い者が存在すれば、弱い者だって存在する。
弱い存在があれば、強い存在だってある。
これは珍しいことでもなく、自然の摂理だ」
「俺、戦える魔法が欲しかった。
異世界でのチートスキルを身につけることに憧れていたんだが」
「あんな偶然が、何度もあるかっ。
異世界に来たら、みな貴様と対して変わらん。
確率的に低いことばかり求めるな」
俺の元いた世界のラノベでは、確率が低いとされることさえ当たり前にあったし、何かピンチがあれば主人公補正がきく。
それが当たり前と思っていた。
「とにかく、行くぞ」
「無理無理!
やっぱ、無理!!」
「外から、なんか声がするぞ?」
「侵入者か?」
洞窟の中から、次々と声がした。
「バレた!?」
「貴様があれだけ大きな声を出せば、気づかない方が無理があるぞい」
俺は、自分ではそんなに大きな声を出しているつもりはなかったが、喋っているうちにそうなってしまったみたいだ。
「どこに隠れればいい?」
「知らんよ」
「事前調査とかは?」
「するわけがない」
俺はあわてて、隠れる場所を探し、洞窟の外にある岩を見つけ、そこに身を潜めた。
「ヒポポパーラメンスも、こっちに」
俺は小声で呼びかけ、ヒポポパーラメンスを引っ張り、岩に隠れさせた。
「さっきの声は、何だったんだろう?」
「気のせいか?」
「幻聴でも、聞いてたんじゃないか?」
「なんか、匂いがするぞ」
俺は、すっかり忘れていた。
盗賊たちから、俺は匂いがすることに。
海賊からは海の匂い、空賊からは空の匂い、山賊からは花の匂いがするということらしいけど、どういった匂いかは自分でもよく知らないし、盗賊限定ということみたいだ。
ちなみに、花の匂いは山賊たちが、潜在意識で求めているものによって変わり、どんな花の匂いがするかで、花言葉から潜在意識がわかるということ。
「薔薇の匂いがするぞ」
「ラベンダーの匂いだろ?」
ラベンダーも、薔薇もいろんな花言葉があるけれど、わかるのは2人の山賊が求めているのは、愛だということがわかる。
ラベンダーと薔薇の共通点は、ここだから。
あと、考えられるとしたら、ラベンダーの匂いがすることは、このひとは「幸福」を求めているのかもしれないな。
「どうするのだ?」
ヒポポパーラメンスに、小声で聞かれた。
「どうすることもできないな。
戦う手段がない、俺にとって」
今回ばかりは、今回も含めて、匂いがある限り、逃げ場はない。
だけど、戦うのも無謀・・・。
考えた末に、俺の出した答えはこれだった。
「やっぱ、この任務・・・放棄していい?」
「棄権は、できぬぞ?」
「ですよね~」
「いたぞ!」
俺は、2人の山賊に見つかってしまった。
「ここから、ラベンダーの香りが・・・」
「そんな匂いしないって。
薔薇の香りだ!」
山賊たちが、どんな匂いなのか言い争っているうちに、逃げよう。
俺は、走ってその場を離れた。
「どこへ向かうのだ?」
ヒポポパーラメンスは、ついていく。
「考えてないっ!」
どうしよう?
「侵入者を、どうしたらいい?」
「侵入してないから、いいじゃないか?」
そんな声が聞こえたけれど、俺は迷わず走り続けた。
ゼエゼエと息をはきながら、見知らぬ森林にたどり着いた。
「ふむ、さっきも言った通り、棄権はできぬ。
任務が達成できるまで、続行だ」
「ワープは?」
「任務達成ができれば、発動する」
「そんなあ」
走っても走っても、出口が見つからない。
もしかして、ここは出口なんてないんじゃないかと思うくらいだ。
「任務内容を山賊から変えれば、ワープできるがな。
海賊なら海の上で、空賊なら空あたりかのう?」
「それ、一番危ないやつ」
「任務どうする?
続行するか?
変えるか?」
「帰るにしてください」
「変えるって、どっちに?」
「本部に」
「任務を投げ出すことしか、考えとらんな・・・」
俺が、あんな恐怖でしかないものに挑めるわけがない。
山賊の頭が、ストーカーじみた思考の持ち主なら、耐えられるわけない。
「今回ばかりは、難易度が高い。
俺に戦うための魔法を与えてくれないか?」
「無理だ」
「どうして?」
「人間が適合できるのは、3つまでとなる。
これは、証明されとる。
まあ、生まれつきの魔力には、勝てんがな。
それ以上の実験は、行っとらん」
「よくわからないけど、4つ以上の魔法属性を得られるということは、ないということ?」
「そうゆうことだ」
「諦めるというか、自身の宿命を受け入れるしかないということだ。
所詮は、人間でしかない。
人間が適合できるものは、限られている」
すんなり、納得できるわけがない。
魔法属性を選ぶことすらも、なかった。
ただ、異世界に来て、魔法をランダムで与えられた。
ただ、それだけだった。
「なぜ、最初からちゃんと説明してくれないんだ・・・」
そんな俺に、ヒポポパーラメンスは、冷たく言い放つ。
「しょうがないんだ。
これが、決まりなんだ。
学校の校則、世界の法律、会社のルールと同じだ。
与えられたことは、こなしていくしかない。
納得いかないから、行動しないなんて思考があるなら、それは反社会的でしかない。
それが常識だ」
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