盗賊たちに愛されて

野うさぎ

第1章

プロローグ

 俺は、サラン・ディスティーノ。

 異世界にやってきたしまったごく普通の一般人。

 この名前も本名ではないけれど、この世界の住人たちに違和感を与えないように名乗っている。

 サランは韓国語で「愛」という意味で、ディスティーノはイタリア語で「運命」という意味となる。

 どうして、このような偽名を?と思う方は、それは後程知ることになる。

 

 黒い髪に、黒い瞳。

 黒い眼鏡をかけている。

 そして、色黒。

 背は高くもなければ、低くもない。


 深海恐怖症かつ、高所恐怖症だ。

 苦手なものは、海賊や空賊とか山賊とか、盗賊関係だ。


 俺は、寝ていた。

 なぜだ?

 俺は監禁されている。


 異世界に来て、すぐに囚われた。


 俺は透明なガラスの中にいて、他の人たちも透明なガラスの中に閉じ込められていた。


 何が、なんだかよくわからない。


 それぞれの個体には、3つの魔法を与えられるみたいだが、俺が与えられたものは、「海賊に好かれる魅了の魔法」「山賊に好かれる魅了の魔法」「空賊に好かれる魅了の魔法」というものだった。

 この魔力は、男女関係なく適用されるらしい。


 ちなみに、俺の魔法は戦う上では、役に立たない。

 防御も、回復すらも使えないし、味方がいてもサポートにならない。

 これは、盗賊のみに使える魔法で、それ以外には効果が全くと言っていいほどない。


 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋が話し合い、それぞれに3つの魔法属性を与えることになっていた。


  研究員は、探しているみたいだった。

 盗賊たちに、対抗する方法を。


 だけど、その対象が異世界転移した者や、元々この世界にいた子供だったりする。

 子供でも誰でもいいわけではなく、孤児や家庭環境に恵まれなかった子供たちのことをさす。

 その場合なら、赤ちゃんも対象となる。


 俺は、盗賊とやらに対抗できるのだろうか?

 そして、この魅了の魔法が何の役に立つという?


 空賊退治専門屋、海賊退治専門屋、山賊退治専門屋のどちらに、俺は配属されるだろうか?

 どちらにしても、俺は攻撃魔法を一切使えないし、何の専門性もないだろう。


 空賊退治専門屋の所長が、ディベロック・いんクリースさん。

 山賊退治専門屋の所長が、プロヴァイト・ベネフィッツさん。

 空賊退治専門屋の所長が、インプルーブ・コンテインさん。

 どちらが、俺に採用してくれるのだろう?

 どうしてそう思うか聞かれても、答えられないけどみんな、評価基準は厳しそうなイメージがある。

 


「サラン・ディスティーノ」


 白衣を着た研究員のひとりであるトゥリッツ・チャレリーさんに呼ばれた。


「はい」


「今から試験を行うが、その内容は理解していか?」


「はい。

山賊退治専門屋か、空賊退治専門屋か、山賊退治専門屋のどちらがふさわしいかですよね?」


「その通りだ。

だが、我々も与えられる魔法は3つだけだから、魅惑しか使えないという結果になってしまった。

空を飛べるなら空賊退治とか、泳げるなら海賊退治とか、足が速いなら山賊退治とか分類しやすくなるんだが、こればっかりは適応能力や体の相性もあるからな」


「そもそも、どうして魅了の魔法なんか与えたんですか?」


 戦闘能力さえ高ければ、ラノベみたいな異世界転移の展開が待っていたのに、魅了の魔法で何ができるか想像つかない。


「それも、ひとつの実験なんだ。

ただ戦うだけ、ただ回復するだけだと盗賊も警戒を高め、強くなるだろうし、サポートができるなら、相手を油断させるしかないと思ってな。

恋は盲目ということわざがあるように、自分が好きになった相手は信じやすいということも、証明されている」


「それは、騙すということですか?」


「その通りだ」


 俺は、とんでもない実験につきあわされているようだ。


「俺は人を騙せるほど、話術もありません。

今すぐというわけではないですが、いずれバレそうじゃないですか?」


「話術なんて、詐欺師なみのことは求めてない。

盗賊側に、好きになってもらうだけでいい。

守ってやらなきゃ、と勘違いでもいい。

油断こそが、目的だからな」


 俺は、こうして外の世界に出ることになった。

 1人で任務達成とかできるわけがないので、カバのぬいぐるみをしたサポーターのヒポポパーラメンス・メフェもいる。

 なんかの妖精らしいけど、詳しい話は知らないし、興味もないから研究員に聞いてない。


「やれやれ」


 ヒポポパーラメンスが呆れている様子だったから、俺は皮肉を言ってみった。


「やれやれは、こっちだ。

バカ」


「妾が、いくらカバの姿をしているからって、バカはないだろう?」


「バカの反対は、カバ。

俺の故郷では、それが当たり前の会話だったんだ」


「こっちだって、言いたいことはある」


「言いたいこと?」


「チビ」


 俺はカチンときて、言い返した。


「チビじゃないし、160センチ後半はある!」


「世間では、それをチビと評しないのか?」


「後でどうなるか、覚えとくんだな」


「覚えておく?

それは、妾の台詞だ。

貴様は、これから盗賊退治屋になる任務がある。

それによって、未来が決まるんだ。

妾と口論の余裕があるか?」


 盗賊退治屋・・・。

 俺にできるのか?


 考えてもどうしようもないけど、どう対抗するのか思いつかない。


「俺は、もしかしたら死ぬかもしれない・・・」


 俺は、不安を呟いた。


「殺される、とでも言いたいのか?」


「俺は高所恐怖症だし、閉所恐怖症出し、暗所恐怖症だし、深海恐怖症でもある。

任務達成できそうにない」


「大丈夫だ。

そんな奴こそ、なんだかんだで生き残る」

 

 

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