「仕事」の話
配達先
マサキさんはネットで注文された食べ物を届ける配達員のバイトをしている。
そんなマサキさんの配達範囲に週2〜3回利用する客がいた。届け先が色や形状が特徴的な建物な事と、頼む物が1ヶ月ずっと牛丼だったりとか、ある曜日は必ずマルゲリータピザを頼んだりと少し癖があるので、同じ配達員の中でも少し知られている客だった。マサキさんも時々その客に配達に行く事があったが、置き配指定なので本人を見た事なかった。ただ、配達後すぐに高評価をつけてくれる客という印象を持っていた。
その客から注文の届けた時の事。
その日の注文はマルゲリータピザだった。ピザ屋で受け取った品物を持ってその客の家に着くと、置き配指定だったので玄関に品物を置いた。それから振り返って乗ってきた自転車の所に戻ると、品物をちゃんと届けたという連絡用の写真を撮るのを忘れた事に気付いた。それですぐに駆け足で玄関に戻ったが、ピザは既に取り込まれた後だった。
あれ、いつ取り込んだんだ?
ピザを置いてから10秒も経っていない。その間、ドアの音は聞こえなかった。そもそも、普通は連絡があって、品物が届いたとわかるもの。という事は、品物が届くまでずっと玄関で待っていたのだろうか。いや、それにしてもあまりに早過ぎる。首を傾げていると、既に配達の評価が上がっていた。高評価だった。
そんな事があって、マサキさんはその客がいつ品物を取り込んでいるのか、届けてからしばらく待っていた事がある。だが、届けてから誰も出てこないまま10分ほど経った所で別の配達の依頼が入ったので、諦めて次の配達に向かった。
小一時間ほどして、その家の前を通った時にはもう玄関に品物はなかった。その間に評価が上がっていた。高評価だった。
ある時、知り合いに変な客がいると、この話をした事がある。いつも同じ物ばかり頼んでて、住んでいるのが特徴的な家で、と話していると、知り合いの表情が変わった。
「それって、●●町の●色の家じゃないか?」
「あ、近所なんだっけ。そう、その家。その家がどうしたの?」
知り合いが言う。
「その家、住んでた人が5年前に引っ越してからさ、空き家なんだよ」
この話を聞いて以来、マサキさんはこの客への配達を受けないようにしている。
その後も、この客からの注文は未だに来ている。そして、誰も住んでいないはずのこの家に品物が配達され続けているそうだ。
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